第38話 浴衣
「あれ? ラルフさんとシア、珍しい組み合わせだ。シアはもう警戒を解いたのかな」
特大サイズのポップコーンをかかえたルディが、焼きたてのトウモロコシに齧りついたところで二人を見つけた。
「シアは実家で犬を飼ってるって言ってたから、もうラルフにも慣れたんじゃない?」
ルイはクレープからこぼれ落ちそうな生クリームと格闘している。
「昨日までラルフのことを怖がって、逃げ回っていなかったか? 急に変わるなんて……何かあったな」
梅酒のロックとフルーツパンチを飲み比べているシルドは、すでにワインボトルを1本あけていたが。本人曰く、これくらいでは酔わないらしい。
3人はそれぞれの前夜祭を満喫していた。
「彼女は強いからな。恐怖心を克服したのだろう」
近くの焼き鳥の屋台から。
梅酒を一杯ひっかけていた夕月が参加する。
男性陣が振り向いて手を止めた。
「シアは子供の頃に読んだ絵本の影響で、犬嫌いになりかけたんだが。父君が大型犬の子犬をもらってきて彼女を犬に慣らしたそうだ。実はシアは誰よりもあの姿に免疫がある」
「……へぇー」」」
「実家の犬は、シアの肩に足をかけるほどデカイらしいぞ」
「……へぇー」」」
「……なんか反応が雑じゃないか?」
「夕月!?」
シアが目敏く夕月を見つけて、駆け寄る。
その後をラルフが尻尾を振りながらついてきた。
「それ東洋の着物!? 足元も、まとめ上げた髪もノスタルジックでとっても素敵ね! はっ、今日はサラシもして無い!?」
くるくるといそがしそうなシアに。
「シア、これは夏用の浴衣だ。いつも寝る時に身につけている浴衣の、こっちは夏限定の外出用。サラシは本来、和服では付けたほうが良いのだが、窮屈だからな」
夕月が笑っている。
ルディが。
「この格好で寝てるの、すごいね!? サラシって何?」
「ル、ルディ!」
ルイが肘でルディを突つく。
「結婚しないか?」
突然シルドが夕月に求婚した。
「!?」」
一斉にシルドを見るが。
夕月は迷わず。
「申し訳ないが、まだその気がないので」
ペコリと頭をさげた。
「そんな、瞬殺!?」
シルドはがく然としている。
「いや、当然だし」」
と周囲は頷いた。