第31話 西の森
魔物も無事退治(?)されて。
平和を取り戻した村ではさっそく、村長であるディーナの誕生日を村をあげて祝う誕生祭の準備が始まっていた。
誕生祭には村が運営する屋台が並んで、他の村からもそれを楽しみに客が訪れる。
売り上げの一部が村の修繕費になるので。
「年に一度の稼ぎ時だ。今年も気合いをいれていくよ!」
祝われる立場のディーナが、食堂に集まったお祭り委員会の面々に発破をかけている。
ニアはちゃっかりディーナの使い魔という立場を手にいれて、我がもの顔で彼女の後を付いてまわっていた。
「なんか納得いかないんですがー」
ルディがぼやいている。
「さて、今年も助っ人を呼ぼうかね。クレア」
ディーナがクレアを呼んだ。
「西の森に行く用事を頼まれておくれ」
「西の森へ?」
「森の奥にお菓子作りが趣味という者が住んでいるからね、ちょっと行って連れてきておくれ。最近は彼に、祭りを盛り上げる食べ物を考えてもらってるんだ」
祖母の説明に、クレアとルイが顔を見合わせた。
翌日。
クレアとルイに夕月が同伴して、西の森に馬で向かった。
ディーナに、目印に植えた栗の木を辿って行けば着くと教えられ。
三人は馬を降りて、地道に栗の木を探しながら森の奥へと進んだ。
栗の木を見分けて、視界に入る位置に植えられた次の栗の木を見つけるのは意外と難しかった。
二本の大きな栗の木の間を通り抜けたら。
急に視界が開けた。
いつか見たような、美しくガーデニングされた庭の真ん中に置かれたテーブルで。
褐色の肌をした黒髪の青年が紅茶を飲んでいた。
「よー、久しぶり。あれ、クレア髪切った?」
白い犬歯を浮かべて笑ったのは。
「「ゼノ!?」」
二人の脳裏に5年前の記憶がよみがえってきた。