第30話 黒猫と赤い魔女
「はい、到着ー」
ルディが作成した木製の一輪車、いわゆる「ネコ車」に網にかかったままの黒猫を乗せて帰ってきた。
「降ろせ、こんにゃろー! あ、小娘てめ。指輪を返せ、こら!」
クレアを見つけて、ニアがジタバタと暴れだす。
「やっぱりあの時の猫さんだ。指輪を探してたのね」
「小娘! 持ち逃げも立派な犯罪だぞ!」
暴れる猫車を支えていたルディが。
ドサッ。と網ごとニアを前に落とした。
「いでっ。おいこら、お前! さっきから扱いが雑だぞ!」
「そーかもね」
つーんと、横を向いたまま答える。
「くそぅ、お前らまとめて地獄に堕ちろー!」
ヤケクソになってニアが暴れている。
「おやまあ。少しは落ち着きな」
とディーナがニアの前にしゃがみこんだ。
「ばばあ! お前が主犯だな! この……」
今までわーわーと喚き散らしていた黒猫が、突然ピタッと。
ネジがきれたように動きを止めた。
「おや?」
「……」
じー。とディーナの顔を凝視している。
「知ってる誰かに似てたかい?」
ディーナが笑うと。
黒猫は碧翠の目に大粒の涙をブワッと溜めて。
「ニーナ様ぁ! うわーん。会いたかったよぉ!」
わーっと盛大に泣き出した。
「ばかばか、ニーナ様のばかー! 寂しかったじゃないかー!」
「おやおや、よしよし」
ディーナは網からニアを出してやると。
ぽんぽん、とニアの頭を撫でた。
ディーナに抱きついて、子猫のように泣きじゃくるニア。
みんなは困ったように顔を見合わせた。
ちょーん。
とディーナの膝の上に収まって、かわいい仔猫のようにゴロゴロと喉を鳴らしているニアに。
みんなが困惑していた。
「指輪はしばらくは持って来られないの、ごめんね。でも絶対に返すから、もう少し待っててね」
とクレアがニアに言うと。
「なにぃ!? ま、まあ仕方ない。待ってやるから完全にあいつらを消滅しろよ。しっかり、完璧にだぞ。あーそれから、指輪はピカピカに磨いてから返せ。アイツに磨かせろ。わざと凸凹道を選んで、俺様のかわいい尻をボコボコにした罰だ!」
ニアがビシッとルディを指差した。
ディーナが、膝にのったニアのヒゲをちょんと引っ張って。
「あんたがうちの馬小屋を火事にして、クレアの大切な髪を燃やした責任はどうするんだい?」
ルディがそーだそーだと、口パクで挑発する。
ニアはムッとするがディーナの手前、ゴホンとわざとらしく咳払いをしてから。
「お詫びに、俺様がここに住んでやろう。しかも女だけは特別に、俺様を撫でさせてやってもいいぞ。ふふん。どーだ? お釣りがくるほど嬉しいだろう」
ニアが胸を張って言う。
「そーかなぁ。まあ、いいけどね」
クレアは苦笑いしながら、それで手を打つことにした。