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第28話 馬小屋の火事

 馬小屋を出ても、そこに山積みの果実はなかった。

 ラズベリーとブルーベリーが何個か潰された跡があるだけで、馬たちはガッカリした。

「よしよし、計画通りだ」

 馬小屋からクロエ以外の馬がすべて出たのを確認したニアが、ニヤリと笑う。

「あとは騒ぎを起こして。こっちに関心をむければ、ゆっくりとお宝を探せるな」

 火打石をつかんで小屋に戻ると。

「ヒヒーン! ブルル! ヒヒーン!!」

 クロエが高い声で大きくいなないていた。

「バカめ、後悔しても遅いのだ!」

 一番奥に敷いてある藁にニアが火打石で火をつけると、炎は勢いよくまわっていった。

「はーはっは。反省して俺様の子分になるなら助けてやるぞ」

 メラメラと燃える炎を背にして、腕を組んだニアが悠長なことを言っている間に。

 充満する煙は上の方から、どんどんと濃くなっていく。

 さすがにクロエもパニックになって暴れだしたが、背の低いニアには事の重大さがわかっていない。

「なんだ? 思ったよりも根性がないな。まあいい、そろそろ許してやるか」

 と柵に登って、入口の棒を外そうとするが。

 暴れるクロエの体当たりを食らって。

「な!? こらー!」

 軽いニアは自分でつけた火元の近くまで吹っ飛んだ。

「いてて。まったく、危ね……あちち!? あちーっ!?」

 尻尾の先を焦がして、飛び上がる。

「クロエ!? そこにいるの!?」

 その時、水をかぶったクレアが小屋に飛び込んできた。

 まっすぐクロエの柵に近づくが。ひずめに引っ掛けられそうになって、慌てて身体をひく。

 干し草などで燃えやすい小屋の中は、既にそこら中で火の手が上がっていた。

「落ちついてクロエ! 大丈夫よ!」

 慎重に近づいて、今度は確実に柵を開ける。

 クロエが勢いよく飛び出して、小屋の出口に向かった。

 外でシルドの声がする。

「クレア、早く出ろ! もう中に馬はいない!」

 ホッとして、外にでようとした時。

「助けてー! 焼け死ぬー!」

 奥から子供のような声が聞こえて、クレアは背すじが凍った。

「大変!? 大丈夫よ、今助けるわ!」

 煙と炎の中に目を凝らすと、小さな黒い影が動いている。

 炎の間から腕を伸ばして。手探りで、柔らかくて暖かい身体をつかんで引っ張りだす。

 それはどこかでみた黒い猫だった。

 バッと、クレアの赤い髪に火が移った。

 小屋の外に向かって、猫をポーンと放り投げると。

 壁に掛けてあった草刈り用の鎌を手にとり。

 ザクッ。と一気に、クレアは長い髪を切り落とした。

「クレア様!」

 夕月とルディが飛び込んでくる。

 夕月が濡れた大きな布をクレアの頭から被せ、そのままルディが抱き上げて連れ出す。

「姉さん! どうして一人で飛び込むんだよ、皆が心配するじゃないか!!」

 半泣きで駆けよるルイ。

「ルイ。大丈夫、怪我はしてないから。あなたはみんなを手伝って」

 夕月がシアを見つけて呼ぶ。

「シア、クレア様の髪を整えてほしい」

 真剣な夕月に何かを察して。

「はい。ではこちらに」

 シアが建物の影にクレアを連れていく。

 バケツリレーで消火するにも、混乱した大きな馬達をなだめるにも、人手が足りなかった。

 クレアを降ろしてすぐに、ルディはルイと一緒に消火に戻った。

 夕月がクレアの被った布をとる。

「クレア様……!?」

 肩の辺りで不揃いに切られた髪をみて、シアが息を飲んだ。

 しかし、すぐに髪に手を伸ばして。調整するように毛先を触りながら。

「髪を揃える為に、毛先を削いでもいいですか?」

「ええ。シアに任せるわ」

「では、ハサミを取ってきます」

 シアがハサミを取りに離れる前に。

 失礼します、と再度布を被せて髪を隠したことに、クレアは少し動揺した。

 そんなに酷いのか。

 落ち込むクレアの肩に夕月がポンと手を置く。

「大丈夫、修整がきく長さだから。そう心配しなくてもいいよ」

「うん。ありがとう」

 すぐにシアが戻った。

 シャキシャキ。

 軽快なハサミの音を聞いていたら、落ち着いてきた。

 皆無事だったし、落ち込む要素なんかない。髪だって、すぐに伸びるのだから。

 クレアは前向きに捉えることにした。

「できました。……いかがですか?」

 とシアがおそるおそる鏡を掲げる。

「え?」

 クレアの声にビクッと鏡が揺れた。

「うそみたい、素敵! 耳をだしたショートって甘過ぎず大人可愛いくて、とっても軽いわ! ありがとうシア、夕月もありがとう!」

 可愛くてちょっとクール。

 酷いことになったと心配した分、とても嬉しかった。

「本当にありがとう、シア」

「に、二回目ですよ。クレア様」

 夕月はホッとし、シアも嬉しそうに笑った。

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