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第27話 ニアの計画

 ディーナの家は元宿屋兼食堂だった建物を再利用していた。

 今のように魔物と良好な関係ではなかった頃に、国境を見張る騎士団の視察にきた高官のための宿泊施設として建てられたものだ。

 建物の1階は食堂になっていて、普段は主婦達が自由に食堂を開いていたが今は休業中。

 左の食堂カウンターの奥は厨房で、暖簾のれんのかかった廊下を挟んだ右の階段下に宿泊カウンターがあり、その奥はディーナの部屋になっている。

 誰かのお土産だった東洋の温泉マークの暖簾をくぐった廊下の突き当たりには、男女別の温泉があった。

 階段を上がった二階の客室は広く、4人部屋の造りで今はベッドが2つ。それが廊下を挟んで三部屋づつ。

 突き当たりには二部屋分のスペースを持ったVIP室があり、あわせると全部で7部屋あった。

 VIP室は空けておいて、廊下を挟んで男女にわかれて使うことに。

 今はディーナの家なので、二階は身内しか使わないから安心だった。

 使用人はグリント家のメイド長だったヘレナが1人で仕切り、必要に応じて村人を雇っている。

 ヘレナは元々この村の出身で、今は息子夫婦と一緒に住んでそこから通っていた。



 その夜、馬小屋で。

 クロエの耳がピクッと動いた。

 顔をあげて、耳を左右バラバラに動かして音を拾っている。

「ふっふっふ」

 細い月の明かりを背にして、ニアが小屋の入り口に立っていた。

 ニアは両足を踏ん張り、人間のように腕を組んで二足で立っている。

 クロエが警戒体勢に入り、荒い鼻息で牽制したが。

「待ちたまえ、昼間のお詫びに来たのだ。警戒しなくてもいいぞ」

 胡散臭い口調で話しながらニアが小屋に入ってくる。

 ガッガッと地面を蹴って、入って来るなとクロエが警告している。

「生意気だな、まったく。俺様と同じ毛色だとはとても思えん」

 ぶつぶつ言いながら、ニアは奥まで進むと。

 近くの樽を経由して、トンと柵に飛び乗った。

「ハイ、注目ー! 喜びたまえ諸君。昼のお詫びに俺様がここから開放してあげよう!」

 そして。

「よいしょー!」

 と柵の入口に渡してあった木材を器用に外して、ゴロンと放り投げた。

「ほら。自由なんだから、早く出ろよ」

「ブヒヒン」

 柵の中にいた馬は戸惑っていた。

 周りの仲間に、どうしよう? と視線をむけるが仲間も同じように、どうするの? と困っている。

「何やってんだ、早くしろ。ほら、よいしょー!」

 ニアがどんどん柵を開放していく。

「ブヒヒーン!」

 クロエが「駄目よ!」と仲間に教える。

「ホントうるさいね、お前」

 クロエ以外の馬の柵を全て開放すると。

 ニアは小屋の入り口に、どこからか取り出した大きなラズベリーをいくつか転がした。

「ほら、これやるよ。そこから出てきてお食べなさい」

 一番近い柵の前で、怪しい猫なで声をだして誘惑している。

 ルイが乗って来た、あの時の三歳の白馬だ。

 彼はさっきオヤツのトウモロコシも食べ損なっていたので、この誘惑には勝てなかった。

 クロエの静止も耳に届かず、柵から出てきてラズベリーをヒョイ、パクッと食べた。

「お前は賢いヤツだな、気に入った! まだまだあるからな! 」

 と少し進んだ先に今度は、摘んできたブルーベリーをバラバラと置く。

 若い白馬は喜んでヒョイパクしに向かった。

「あっちの外にはバケツ一杯あるんだ。お前らも早く出て来いって」

 戸惑っている他の馬に声をかける。

 たしかに風に運ばれて、果実の強い香りが鼻先をくすぐる。

 おずおずと、他の馬達も柵の外に出始めた。

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