第26話 ニア、再び
夜明けを過ぎた頃。
ドナウ村をでた街道沿いの森の中に、黒猫ニアの姿があった。
「ふうー満腹。やっと落ち着いた」
ザリザリと手の先を舐めて、その手で丁寧に顔を擦っている。
周囲には哀れなニワトリの羽が散乱していた。
「ふあー。むにゃむにゃ」
昨夜から緊張の連続で、大きな欠伸がでた。
「なんか眠くなってきたな、ひと眠りしてから行くか」
ニアは眠気に負けてその場で丸くなると。
プスー、プスーと変なイビキをかいて眠り始めた。
太陽が真上を過ぎてしばらくした頃。
ガラガラガラ。
近くを馬車や馬が通る音がして。
ようやくニアが目を覚ました。
ん~~。と背中を伸ばすストレッチをしてから。
「うるさいなぁ」
茂みから頭をだして街道をのぞく。
一台の馬車と馬に乗った人間が通り過ぎるところだった。
その一行の中に、黒い馬に乗った見覚えのある少女がいた。
「あっ、あの赤毛!」
ニアからお宝を奪った犯人で間違いない。
「クックック。やはり俺様、ツイてるな」
奪われたお宝を取り返すため、ニアは後をつけることにした。
村に着くと。
入口にいた村人達と連れだって、彼らは村に入っていった。
しかたなくニアもついていくが、彼らはすぐに馬車と馬とに別れた。
ニアは、アレキサンドライトが入っていそうな荷物をたくさん屋根に積んだ馬車の方についていくことにした。
馬車がたどり着いたのは大きな宿屋のような場所だ。
客の気配はなく、かわりに中からでてきた年配の女が彼らを出迎え入れた。
ニアは庭の大きな木に登って、様子を伺う。
メガネのメイドが庭の畑から採った食材を抱えて、慌ただしく出入りしていた。
御者をしていた男が建物の横で薪を割り始めて、それを少年が手持ちぶたさに眺めている。
男が斧を差しだすが、少年は断固拒否した。
しばらくすると、なにやらいい匂いがしてきて。
メイドが馬車を操って赤毛の娘のところへ戻っていった。
置いていかれたことに気付いた少年が、カリカリして男に八つ当たりしている。
「ふわぁー」
平和過ぎて、また欠伸がでた。
まだ行動を起こさないのは、あの使用人は勘が働くタイプだとニアはみていたからだった。
うかつに荷物を漁れば、後ろから捕まえられそうな雰囲気を放っている。
もうしばらく様子をみるか。
うつらうつらしながら、ニアが木の枝で見張っていると。
ガラガラ。
と馬車と馬に乗った連中が帰ってきた。
木のバケツをいくつも用意した使用人が、井戸でせっせと水を汲んでいく。
宿屋なのか屋敷なのか判別のつかない家の離れには大きな馬小屋があって、馬に乗った人間はそちらに向かった。
1頭づつ馬が寛げるスペースがある立派な馬小屋だ。
小屋の外で乗り手たちが、丁寧に自分の馬にブラシをかけていく。跳ねた泥汚れが汗によって身体にコーティングされると、馬が病気になってしまうからだ。
最後に充分な水と食事を与えてから。
やっと自分たちの食事にありつく為に、彼らは建物へと入っていった。
人間が居なくなった馬小屋の入口に。
ニアが現れた。
「ふーん。案外つまんない物を食わされているんだな、お前ら」
鼻で笑いながら、近くの飼い桶に入っていたトウモロコシを取りあげてかじる。
一口噛っただけで。ポイッと、馬の足が届かないところにトウモロコシを捨てた。
食後にとっておいた大切なオヤツを横取りされた若い馬が、鼻を鳴らして抗議するが。
ニアはまったく気にしていない。
「ヒヒーン!」
クロエが。
「止めなさい」
と高い声で嘶いて、ニアに警告する。
「なんだお前は、生意気なヤツだな」
ニアがクロエのトウモロコシも取ろうとして。
素早くトウモロコシを守ったクロエに前足ごと食べられそうになった。
「っ危な!」
慌てて前足を引っ込めたニアが。
「やんのか、こいつー!?」
クロエに飛びかかろうとした時。
「おーい、誰かいるのか?」
ヒョコッとルディが顔をだした。
「に、にゃーん」
慌ててニアは顔を洗うふりをする。
クロエは耳を後ろにふせて警戒しながら、ニアにむけてガッガッと地面を掻いて。
不審者はこいつだとルディに知らせている。
「こらこら何して怒らせたのー、危ないよー」
抵抗する間もなく、ニアはルディに首根っこを掴まれると。
「もう近づくなよー」
ポーンと馬小屋から放りだされた。
「ん゙にゃ〜〜!」
空を飛びながら。
やはりこの男はあなどれないぞ。とニアは再認識した。
それにしても、生意気な黒馬め。
赤毛の娘を乗せていたのも気にいらない。
「おぼえてろよ」




