第25話 鶏小屋の幽霊
「例の魔物と幽霊は、こちらに現れたんですね」
クレア達は鶏小屋の前にきていた。
「はい。中に魔物、外には幽霊と、完全に挟まれた危険な状況でした」
まだ青い顔をしているダンが答えた。
『あらまあ、あんな話になっているわ』
『まったく、勝手に倒れたクセに都合のいい男だ』
『あの体格だ、弱いところは隠したいのさ』
小屋の片隅の影から、こそこそと話声がする。
「い、今何か……」
「あー、すみません。ちょっと離れていてください」
クレアが目配せすると、シルドがうなずいて。
「ほら、下がって下がって。今からばーちゃん達が霊を祓うから、邪魔すると危ないぞ」
と両手を広げると。
ズサッと、半円状に人の輪が下がった。
クレアとディーナだけで鶏小屋に入っていく。
鶏小屋というよりも、物置にニワトリを押し込めたといった場所の奥に。
「ここで何をなさっているんですか?」
クレアが声をかけると。
ぐにゃり、と影が揺らいだ。
『あら、あなた』
『また会ってしまったか』
『何もしてないぞ、我々は』
昼間の明るさの中では陽炎のように頼りない輪郭の魂達が、かろうじて淑女と紳士の形をとる。
「顔見知りかい?」
ディーナが聞いてくる。
「はい、昨夜の」
夢での経緯は、ディーナにもざっくりと話してある。
「ふむ。なら魔物というのは、そのケットシーのことだろうね。でお前さんがたは、どうしてここにいるんだい」
貴婦人が首をかしげる。
『たまたま、かしら?』
『他の者がどこへ行ったのか、知りたいくらいだ』
『みんな浄化してしまったのか?』
それにはクレアが。
「残念ながら私にもわかりません。皆さん、戻りたい場所はなかったのですか?」
『そうね、特には』
答える貴婦人は、少し古い型のドレスに身を包んでいる。
「いつ頃、亡くなられたのですか?」
『いつだったかしら? たしかあれは……』
聞いた状況から推測すると、50年くらい前のようだ。
「それなら、ご家族も元気でいらっしゃるかもしれませんね」
うっすらと背景が透けている貴婦人は、さらに思い出そうと首を傾けて。
『夫がおりましたわ。でも子供ができなかったのでシャム猫のフランソワーズちゃんを子供のように愛していたの。ああ、彼女のことが気掛かりだわ、とてもあの夫が可愛がってくれるとは思えないもの。それに……そうだわ! 結婚記念だといってわたくしに宝石を寄越したのはあの夫よ!!』
思い出した途端、ブワッと溢れた黒い霧が炎のように彼女を包んだ。
「お、お気の毒でした」
余計なことを言ったかもしれない。
昼の明るさの中でも婦人は、くっきりとした輪郭でその存在感を増していた。
『わたくし、行きたい場所が見つかったみたい』
にっこりと笑っている。
二人の紳士も心なしか存在感が濃くなって。
『ご婦人を一人で行かせるわけにはいかないな!』
『よし、我々も同行しよう!』
ディーナまで。
「行くなら日暮れがいいね。皆が夕食で忙しい時間だし、夕日が沈むくらいが一番見えずらいよ」
とその背中を押している。
『ありがとう、色々とお世話様でしたわね』
怒りが落ち着いた様子の婦人の霊魂は、サラッとお礼を言った後。
すぐに愉しそうに相談を始めている。
『もし夫が生きていたらどうしてくれましょう』
『そうだな、こういうのはどうだろう』
『いやいや、私なら……』
クレアとディーナは顔を見合わせて、肩をすくめた。




