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第20話 黒猫の夢

 眠りに入ったはずなのに、意識がはっきりしている。

 あきらかに通常の眠りとは異なる感覚には覚えがあった。

(ああ、これはあれね。久々に[秘密の庭]に来客かも)

 暗闇の向こうが明るくなって、その方向に意識が引っ張られていく。

 幼い頃から様々な魔物と向き合ってきて、度胸だけはついたと思う。

 あの場所では魔物は魔法が使えなくなって、クレアに危害を加える事はできなかったが。

 それでもやっぱり最初は怖い。

(あんまり怖い魔物じゃないといいけど……)



 闇を抜けると、そこは。

 満月が明るく周囲を照らす、美しい月夜の庭園だった。

 シンプルな白いワンピースの寝着姿に裸足という格好でクレアは立っていた。

 芝生で足の裏がくすぐったい。

「あれ。いない?」

 普通であれば魔物が座っていることが多いベンチには誰もいなかった。

「にゃーん」

 甘える声がした方を見ると。

 ベンチの下から、黒い猫が顔をだしている。

 見上げてくる黒猫の青と緑色の大きな瞳オッドアイには、思わず吸い込まれそうだった。

「か、かわいいっ!」

 狙ってやってる感ありの女子に落とされてしまう男子の心境だ。

「にゃーん」

 黒猫は尻尾をピンと立てたまま、足に身体をこすりつけてくる。

 抗いがたい誘惑に負けて抱き上げたクレアの腕の中で、ごろごろと喉を鳴らす。

「可愛いすぎるっっ。でも、魔物の猫さんなんだよね?」

「にゃ?」

 腕の中で小首を傾げる姿もあざとい黒猫。

 首に鮮やかな赤い首輪をつけ。そこには大きな緑色の宝石がついた指輪が通してあった。

 何気なく指輪の石に触れようとしたら。

「シャー! 」

 猫が豹変した。

 威嚇すると同時に伸ばした爪で、顔を狙ってくる。

「あっ、危ない危ないっと。ふふっ、ぷにぷに」

 クレアは黒い前足をひょいと掴むと。

 頬にペタペタとあてて、猫の肉球の感触を楽しんでいる。

「むむ?」

 伸ばしたはずの爪がでないことに、猫が戸惑っている。

 にこにこと、猫に足をもどしたクレアの指先が首輪の宝石をかすめた。

「痛っ!?」

 針で刺されたような痛みが指先に走る。

 魔力は使えない場所なのに、触れた指が鈍く痺れている。

「この宝石、呪われてる? もしかして生気を吸い取られてるんじゃ……」

 突然。黒猫の首輪にぶらさがった指輪から、もくもくと黒煙のような影がわいてきた。

 それは黒い霧になって、黒猫を抱いたクレアの周りをゆっくりと回りだす。

 ビクッと黒猫が揺れて、ぶるぶると震えだした。

 全身の毛もざわざわと逆立っていく。

「オカルトが苦手なの? 私もだけど……大丈夫?」

 震えて小さくなっている猫に話しかける。

 クレアの周囲を包んでいた黒い霧は。

 怪しい気配を漂わせる影へと変わり、人影を作っては消えてを繰り返した。

 そのうちのひとつが。

 猫をすいっと抱き上げて、連れていく。

「ちょっと、待って……」

「ぎゃー! ヤメロ、助けて!!」

 黒猫は人語で助けを求めた。

「あ、やっぱり喋れるんだ」

 あまりの恐ろしさでふくらんだ尻尾が、フワフワ感をさらに増していく。

 影はかわるがわる猫を抱き上げて、嬉しそうにゆらゆらと揺れている。

「これって、愛でてる?」

 影が徐々にはっきりとした人の形をとっていく。

 すると色々な時代の服装に身を包んだ、比較的裕福な階級の男女が現れた。

『飼っていたシャム猫を思い出すわ。サファイアブルーの瞳がそれは美しかったの』

『うちの庭にもよく猫がきていた。あの頃は何も感じなかったが、可愛いものだ』

 紳士淑女が猫に癒やされていた。

「ひー!? 早く助けろ、こら!!」

 当の黒猫はジタバタと暴れているが、ガッシリと抱えられて逃げられない。

「あのー、返してもらえませんか? 怖がってるようなので」

『いやよ』

『そうだ、部外者は黙っていろ』

 生前の我儘わがままっぷりが伺えるようだった。

「やむなし、かな。ちょっと失礼」

 クレアは、すたすたとその人影の輪に入っていくと。

 黒猫の首輪をサッとはずすして。

「あなたを解放します。先に外へ出ててね」

 クレアの言葉が終わると。

 ポン。と黒猫がかき消えた。



 後に残ったのは。

 はずした首輪と、緑色の宝石がついた指輪。

 そして。

 不満そうにゆらゆらと揺れる影たち。

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