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第18話 辺境の楽しみ

 西にある領土ジルニアは代々、赤毛に翠眼の領主グリント家が治めている。

 山脈を挟んだすぐ向こうは、魔族の領土で。

 昔、魔族代表とこの地の領主が不可侵の条約を交して以来、国はこの土地の管理者を半永久的にグリント家にすると定めた。



 領主の息子で従兄のシルドが、領地の境まで迎えにきていた。

 クレアが兄のように慕っているシルドは、同じ赤毛で5つ年上の22歳。双子の妹のシリカは他所よその領地に嫁いでいる。

 クレア達の馬車が、領主の屋敷に到着すると。母親からの手紙を先に受け取っていた叔父夫婦が温かく歓迎してくれた。

 2階に用意されたクレアの部屋は陽当りも良く。窓の外に設置されたラベンダーの鉢植えの香りが、旅の疲れを癒してくれる。

 しばらくするとシアが夕食に呼びにきた。

 グリント家では、家の者が全員でテーブルにつくのが習慣になっている。

 ディナーのメインは、叔父のロバートとシルドが獲ってきたキジの香草焼きと、ウサギのシチュー。

 それにソーセージ、採れたて野菜とマカロニのグラタン、サラダに生ハムメロン、そしてパンといった素朴な料理が並んでいる。

 こっくりとしたコクがあるウサギのシチューに。キジは一般的な鶏肉よりも旨味があり、さらに脂にほのかな甘みもあって、どちらもかなりおいしかった。

 王都の彩り豊かなソースがお皿を飾るコース料理もおいしいが。採れたての食材の味をいろいろな形で楽しめる家庭料理は、毎日食べても飽きないとクレアは思う。

「んー、おいしい! 」

 満面の笑みで、クレアがグラタンをほお張っている。

「あらあら、田舎料理で恥ずかしいわ」

 ロバートの妻アルカが、クレアの食べっぷりに笑顔をみせる。

 この地の領主は昔から土に親しみ、共に汗を流してきた。敷地の裏は、広い畑と果樹園になっている。

「ここのお野菜は、お野菜そのものの味が濃くて、甘くて。とってもおいしいです! 」

 説得力のあるクレアの食欲に。

「ふふっ、ありがとう」

 アルカが嬉しそうに笑った。

 シチュー用の木製のスプーンがコロンとかわいくて。

 ルディに頼んで作ってもらおう、と思った。

「姉さん、もう少し上品に食事した方がいいよ」

 いつものようにルイが小言をいっている。



 食後のデザートを済ませて、くつろいでいたら。

「お風呂が沸いてるから。お先にどうぞ」

 とお風呂を勧められた。

 王都の自室のとなりにあるバスタブとは違って、ここではお風呂も楽しみのひとつ。

 屋敷には温泉を引いた大きなお風呂が、男女に分かれてあり。温泉の保養所にも負けない立派な露天風呂まであった。

 一緒に入ろうとクレアに誘われて、初めは躊躇したシアだったが。

 夕月ゆづきがあっさり、というよりかなり嬉々とお風呂に向かったので、おそるおそるついてきた。

「温泉ですか、久しぶりです」

 と嬉しそうな夕月。

 普段はスレンダーな夕月だったが、脱衣所で胸に巻いたサラシを取ると、意外に立派なサイズがあった。

 ノスタルジックな手拭いで前を隠して、髪をアップにしていると。東洋人特有の肌のキメ細かさもあって、その姿は絶世の美女。

「イケメンの夕月もお風呂では美女に変身するなんて、新鮮な発見ね」

 適当に赤毛をまとめて大きなタオルで胸から下を隠したクレアは、夕月と自分の胸を見比べて。

「うん、いい勝負」

 とうなずく。

「あのー、クレア様」

 シアはまだ服を脱いでいなかった。

「やっぱり入らないとダメですか?」

 シアはクレアと同じ歳頃の娘で。

 眼鏡の奥にある明るい茶色の瞳と同色の髪を後ろで編み込んで、メイドキャップに収めている。

 メイドは普段、お湯で絞ったタオルで身体を拭くか、休みの日に公衆の湯屋にいく程度で済ましている。王都の侯爵邸には使用人のための浴場もあったが、それは珍しいケースだ。

 主と一緒にお風呂に入るという初めての経験に、シアはなかなか着替えられないでいた。

「女性陣はみんなこのお風呂に入るから、順番がつまると困っちゃうのよね……シアは後で入る?」

 少し考えてから、シアは首を横に振った。

 いつの間にか後ろにまわっていた夕月が。

「では御免」

 ポン。とシアの服を脱がす。

「ひゃ」

 下着姿になったシアに。

「風邪をひく前に入ろう」

 夕月がにっこりと笑った。

 お互いの背中を洗いあって、お湯に浸かる。

 頭にタオルをのせたクレアが。

「シアが隠していたお宝が、一番御利益ありそう」

 と隣に浮かんだ、大きくて柔らかそうなお宝をつつく。

 背は低いのに一番大きかったシアは。

 眼鏡を曇らせた真っ赤な顔を半分、お湯に沈めて。

「クレア様のえっち」

 お湯の中でぶくぶくとつぶやいた。

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