第14話 フードを被った男
セシル達がリセッタを連れて店をでると。
物影から、一人の男が現れた。
「……リセッタなのか?」
突然現れたのはフードを深くかぶった背の高い男。
「リセッタ、本当に君か!? やっと見つけた!」
リセッタに駆け寄ろうとするが。
「何者だ、動くな!」
とレニーの部下が立ち塞がる。
部下が剣の柄を握って、男を牽制している間に。
「危険です、お下がりください」
レニーが男の視界からセシルを遮った。
そしてリセッタの腕を掴んで引くと、わざと盾がわりにしてそちらに気をそらせる。
リセッタの雑な扱いが気に入らなかった男が。
「彼女から手を離せ!」
と先に剣を抜いた。
セシルの前で剣を抜けば、それは賊とみなされる。
部下は、踏み込みと同時に抜いた剣で斬り払った。
レニー直属の部下は選りすぐりの精鋭部隊。にもかかわらず、相手がそれをかわした。
それを見たレニーが、リセッタに。
「一歩でも動けば、切り捨てる」
と氷のような声で念を押した後。
セシルにはいつもの顔で。
「すぐに終わらせます」
スラッと剣を抜いた。
レニーの邪魔にならないように、部下が一歩さがる。
「彼女を切り捨てると言ったのか、後悔させるぞ!」
フードの男の声に怒りがこもる。
「貴方程度に、それができるとでも?」
挑発するようにレニーが繰り出した鋭い突きを避けて、男は大きく後退した。
「無論だ、私の命にかけても!」
格上の相手だと気づくが、男としてのプライドをかけて向かっていく。
セシルは後ろで。
「わかりやすい騎士の型」
と気楽に観戦していた。
男の剣技は正確で美しかったが。傭兵のような意表をつく発想も、枠からはみでた卑怯さも足りない。
騎士と傭兵の良さをあわせ持つレニーの相手としては少々役不足だ。
「なぜ女性を脅すような真似をする! 何が目的だ!」
気合いで打ち合いながら、フードの男が聞いてくる。
レニーに代わって、セシルが答えた。
「僕の命が狙われたんだから、当然だよ。詳しい話を聞くために移動するところなのに、邪魔をしないでくれる?」
いつの間にかセシルは、目の部分に薄いブルーのガラスがはまった顔の上半分を覆う舞踏会用の仮面をつけていた。
肩で息をしながら、男は手を止めてリセッタをみた。
「本当なのか? 本当にこんな少年を?」
「……はい」
リセッタが正直に領いたので、男は息をはいて力を抜いた。
そして剣を鞘に収めると。
「知らずに失礼した。済まない」
セシルにむかって素直に頭を下げた。