第13話 タロット占いの女
タイトルのみ、変更しました
深夜。
セシル達はそのまま、ジュリエッタの母親が住むタロット占いの店に向かった。
着いたのは街外れの裏通りにある、さびしい雰囲気の店。
closedの札がかかっているが、中からはうっすらと灯りが漏れ、鍵は掛かっていない。
念のためにレニーが先に入り、セシルがそれに続いた。
木造の質素な内装。
入口の横にある来客用の古いソファーには手作りのパッチワークのカバーがかけてあり。
その背後の窓辺には、暗い室内で貴重な日光を得るために首を伸ばした怪しい鉢植えが並んでいる。
天井に張ったヒモにかけられた乾燥した薬草の、混ざりあった独特な香りが店内を漂い。
奥の棚には、用途不明の液体や粉が入った様々な形の瓶が並んでいた。
部屋を仕切る衝立ての向こうで、人の気配がする。
レニーが衝立を脇に寄せると、占い用の丸いテーブルが現れ。そこに置かれたランプが淡いオレンジ色で部屋を照らしだした。
奥にある椅子に、うつむいた長い黒髪の女が座っている。
その後ろには帯剣した男が立ち、よく見ると女は後ろ手に拘束されていた。
いつからこの状態なのか、セシル達が現れても女は顔を上げなかった。
帯剣した男が、靴のかかとを鳴らして足を揃え胸を張る。レニー直属の部下だけが許された、セシルへの略式の敬礼だ。
「外しなさい」
レニーの指示に「はっ」と応えて、部下は外に出た。
女の前に立ったレニーが。
セシルが普段耳にしたことがない冷めたい声で。
「魔物を差し向けたのはあなたですね」
と詰問する。
女は顔もあげずに。
「いいえ」
と嘘を吐いた。
うつむく横顔が娘のジュリエッタによく似ていたが、その髪も瞳も黒い。
彼女にならって、セシルも笑顔で嘘をついた。
「今さら誤魔化しても、無駄だから。あの黒猫は、僕以外は手を出せない場所に封印した。怒り狂ってたから、解放すれば真っ先にお前を殺しにくるよ。まさか僕が妖精王の取り替え子だって信じてなかったなんて、お粗末だね」
女が顔をあげた。
リセッタという女は、娘のジュリエッタから気の弱さを引いて、血族を守る意思を足した強くて美しい顔をしていた。
命を奪うはずだった第二王子が今、獲物を見つけた猫のような目でこちらを見ている。
正面から視線を捉えるアースアイが、取り替え王子の噂に信憑性を与えていた。
「……そうですね」
とリセッタは諦めたように言った。
セシルは少しイライラしながら。
「その後、あいつがどこに向かうか思いつかないなんて、想像力が足りないんじゃない? 僕なら、原因である娘のところにいくけど。どっちにしろ、罪を認めてすべてを吐かなきゃ王子暗殺未遂の罪で仲良く処刑されるんだから、末路は同じか」
「どうか娘だけは、お赦し下さい! 私が独断でしたことで娘は何も知りません!」
ガタンと、リセッタが椅子を揺らした。
「お前は何か知ってるって口振だ。男爵の指示とか、ジュリエッタの本当の父親は誰なのかとか。洗いざらい話したら、娘の事は考えてやってもいいよ」
わずかでも娘が助かる希望にかけ、リセッタは素直に答えはじめた。
「……娘を排除される前に、セシル様の御命を絶たねばならないと、ダレル男爵様に言われました。自分の子ではないと疑われ、セシル様に脅されたと。いくら第1王子が求めても、あの娘を大国の王妃にする訳にはいかず。娘を亡き者にする為に、セシル様と婚約破棄された侯爵家が密かに手を組んだので……一刻の猶予もないと、言われました」
レニーがひんやりした微笑を浮かべ。
「愚かな人間の言葉に踊らされて、一国の王子の暗殺を図るとは、なんと浅はかな」
レニーのような美人が怒ると、迫力がある。
セシルは苦笑しながら。
「とりあえず続きは城で。兄上はジュリエッタに夢中だし。仕方ないから今後は馬鹿どもに利用されないよう、二人を城で保護するから」
と告げた。