第12話 侯爵夫妻
胸のロケットをギュッと握りしめて。
セシルは今起こった事をレニーに説明した。
「このタイミングで僕に殺意を持つのは誰だ」
「……そうですね、ダレル男爵でしょうか」
いつも冷静なレニーの声の底にも怒りを感じる。
「さんざん手を貸してやったのに、ずいぶんと肝の小さい男だ」
「王様にご報告しますか?」
「いや、面倒だからいい」
レニーは黙って頷いた。
「……あの猫。かなり間が抜けてたけど、魔物のたぐいだ」
「呪術か召喚でしょうか。ジプシーでも精髄した者なら出来るかと思います」
となると十中八九。
「内密にジュリエッタの母親の身柄を抑えろ。あと男爵家にも監視を」
「承知いたしました」
とにかく今は、クレアの事が心配だった。
「侯爵家に向かう」
レニーは廊下にでて部下に指示をだすと、すぐに戻ってセシルの着替えを手伝った。
夜遅いので目立つ馬車をやめて馬に乗って城を抜け出す。
侯爵夫妻は突然のセシルの来訪に驚いたが、すぐに二人を来客用の居間に通した。
セシルもよく知る侯爵は、いつも飄々とした印象だったが。
今は真面目な顔で正面に座っている。
「城で何か起こったのですか?」
何事かが起こったにせよ、兵士ではなく、王子自らが知らせにやってくるとは異常事態である。
婦人も心配そうに胸の前で手を握っている。
「クレアの身が危険だ。すぐ彼女に知らせてほしい」
侯爵の顔が曇った。
「何が起きたのか話してもらえますか」
落ち着いた声だが、眉間には皺が刻まれている。
今にも倒れそうな婦人を気にしながら、セシルは自分の身に起こった出来事を説明した。
セシルが話し終えると、夫妻はお互いの顔を見て、ホッと息を吐いた。
「ご心配ありがとうございます。娘なら大丈夫でしょう」
「どういうこと?」
セシルが怪訝な顔で説明を求める。
「あの子は昔から、何度も同じような目にあっています。娘の話では、夢の中に[秘密の庭]と呼ぶ場所があって、魔物はそこに閉じ込められるそうです」
「秘密の庭?」
「はい。そこに閉じ込められた者は、あの子の許しがないと外には出られないようで。結局、弱っていく姿が可哀想で解放するそうですが、二度とあの子には近付かないそうです。今回も、きっと大丈夫でしょう」
「良かった……」
安堵の息をもらしたセシルに。
「娘を心配して、わざわざご足労いただきまして、本当にありがとうございます」
母親が心から感謝をする。
セシルは年相応に照れて、はにかんだ笑顔をみせた。
「黒幕は見当がついているから。片付いたらすぐにでも、クレアに会いに行きたいんだけど」
セシルが本心を言葉にすると。
「娘に伝えましょう。しかし今回お命を狙われたのはセシル様です、どうか充分にお気をつけて下さい。そして元気なお顔を娘に見せてやってください」
と侯爵は快諾した。
これは、良い感触なのでは!?
チラッと振り返ったセシルに、レニーが小さく頷いて笑った。