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第十話 城下街で

 「ちょっとあんた、聞いたよ。オーランド王子のいい人なんだって?」

 登校中のジュリエッタが城下街で、パン屋の女将さんに声をかけられた。

「お早ようございます。いいえ、そのような事は……」

 たまに世間話をしたりする顔なじみだったので。

 ジュリエッタは笑顔をみせたが、内心は困っていた。

「わざわざオーランド王子が、侯爵様のご令嬢との婚約を破棄したっていうじゃないか。あんたに惚ちまったせいなんだろ?」

「そ、そのようなことは決して……」

 ジュリエッタは言葉につまったが、聞いた本人には全く悪気がない。

「隠さなくってもいいよ、もうみんな知ってることだからね。それより、なんだってそんな特別なお嬢様が歩いて学校に通ってるんだい。あのセンスが悪い男爵にいじめられてるのかい?」

 ジュリエッタはあわてて否定する。

「いいえ、とても良くしていただいています。健康の為にも、晴れた日は歩くことにしているんです」

 パン屋の女将さんは、感心したようにうなずいて。

「市政の出のお嬢様はやっぱり違うねぇ。気に入ったよ。ほら新作のパンだ、学校でお食べ。王子様にも、ぜひウチの自慢のパンを食べてもらいたいねぇ」

 と焼きたてのパンがいっぱい入った袋をジュリエッタに渡す。

「ありがとうございます。あの、王族の方は別室でお食事をとられているので……王子様に食べていただくことはできないかもしれません」

 申し訳なさそうなジュリエッタを、パン屋の女将さんが笑い飛ばす。

「そうかい。別に気にしなくていいよ。あんたのことが気に入ったから、あげるんだ」

 元気なおばさんの声は良く通る。

 もしかしたらという期待を胸に、他の店の者も我先にと自慢の商品をジュリエッタに差し出した。

 持ちきれないほどの荷物が積まれていくのを、ジュリエッタが困ったような顔で見ている。

 そこに、豪華な二頭立ての馬車がやってきた。

 ジュリエッタの前で止まると、二人用の御者台からレニーが降りてくる。

 馬車の中は赤いベルベットのカーテンで遮られていて見えない。

「ジュリエッタ様、お早ようございます。何かお困りですか? 手を貸して差し上げるようにとセシル様が仰っていますが、お力になれる事はありますか?」

 セシル王子だって!?

 周囲がザワッと色めき立つが、レニーの視線ですぐに静かになる。

「ありがとうございます。セシル王子様のお心遣い感謝いたします。でも、お手を煩わせる訳には……」

 ジュリエッタはかなり恐縮していた。

「レニー、彼女に馬車を用意してあげて」

 馬車の中からセシルが指示をだした。

「かしこまりました」

 レニーが馬車にむかって優雅に一礼する。

 セシル王子ご本人の生声!?

 ざわざわと、周囲がまた騒がしくなった。

 レニーが御者の男に手配を指示すると、男は辻馬車を呼びにいった。

「ジュリエッタ様。このまま馬車がくるまでお待ちになりますか? それとも」

 レニーが揃えた指先で、二人並べる御者台を指す。

「ご一緒しますか? 方向は同じですし、主の許可もいただけると思います」

 にっこりと、鳥も堕とすと評判のレニーの笑顔に周囲から女性の溜め息が洩れる。

 ジュリエッタはあわてて首を振っていた。

「あ、ありがとうございます。でも恐れ多いので、こちらでお待ちしています」

 セシルに対しての苦手意識が若干じゃっかん垣間見えてしまうジュリエッタは、宮廷内で戦っていくにはまだ経験値が足りない。

「そうですか?」

 また笑みをみせて、レニーは御者台に座った。

「では、お先に失礼しますね」

 ゆっくりと馬車をだす。

 馬車が来るまでの間、残されたジュリエッタは人の輪に囲まれることになった。



 少し離れてから。

「これでジュリエッタの好感度が上がるのか?」

 半信半疑のセシルに。

「はい、大丈夫だと思います」

 確信をもってレニーは答えた。

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