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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第三章 体育祭編
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第47話 体育祭①

『一位黄、二位赤、三位黄、青、青、赤です!』


 実況する放送部の生徒の声がマイクを通ってグラウンドに響き渡る。

 照りつける太陽に白いトラックのラインがまぶしく光り、風に揺れる旗やテントの幕がぱたぱたと音を立てている。

 汗ばむほどの陽気だが、時折吹く風が頬を撫で、心地よい涼しさを運んでくる。

 

 ――今日は土曜日。体育祭当日だ。


 次々と前の列が動いて、ピストルが鳴ると一斉に駆け出して、順位がアナウンスされていく。応援団の掛け声と駆ける生徒への声援がグラウンドに響き渡り、順番を待つ生徒達は手足をぶらぶらして緊張を紛らわす。

 

 そんな中、繰生五織は緊張する様子もなく、ただ前を見据え、どちらかと言えば困惑の表情を浮かべる。


「徒競走……何位くらいにしよう……」


 五織は元々、台風の目と部対抗リレーにしか出ない予定だった。それなのにどうして徒競走に出ているかと言えば、昨日の予行練習へと遡る。



 ▶︎▷▶︎



 予行練習。

 当日スムーズに競技を行うためのモノであり、体育祭に気が乗らない生徒達は教師の指示に従い、もの憂げに動く。だが、その中にはどこかソワソワと落ち着かない者もいた。


 緑英高校は一年から三年までそれぞれ五クラスずつあり全十五クラスが赤、黄、青組に分かれている。

 五織達一年生の色分けはA、Bが赤。C、Dが黄。Eだけが青だ。ちなみに鉢巻や帽子での色分けではなく、各色に染まった体育祭Tシャツを着ている。

 

 基本的には学年ごとに競技が行われるのだが、学年対抗リレーだけは全学年で競う。

 だが、そうなると十五クラスが一斉に走ることになり、そんな広いグラウンドはないため、学年ごとの予選リレーがある。その予選リレーの上位二クラス、計六クラスが本選に出場できることになっている。

 その予選リレーが時間の都合上、予行練習で開催されるというわけだ。


 五織達Aクラスのリレー出場組も、同じくソワソワとしている。特に四暮は喧しいほど手足をぐねぐねさせたり、アキレス腱を伸ばしたり、落ち着きがない。


「落ち着けよチビ」


「チビ言うな!」


 いつもの調子でいがみ合う二人を横目に、五織は澪と遥と話していた。


「二人とも頑張って!」


「うん! ありがとう五織くん!」

「……ありがとう」


 澪は女子のリレーの代表。遥も男子のリレーの代表だ。澪はグッと拳を握って元気よく返事してくれたが、遥は少し不安そうな表情を浮かべており、五織は小首を傾げた。


「どうした遥?」


「えっ……ううん。ちょっと緊張してきちゃって」


 遥はそう言うとニコッといつもの笑顔を浮かべた。

 遥はこういうのにはあまり緊張をしないと思っていた五織は意外だとは思いつつも、遥の背中を優しく叩いてやる。


「俺らのクラスで一番速いのは遥なんだから、もっと胸張ってけ!」


「う、うん。頑張るよ」


「その意気だ」


 ニッと笑い返すと遥の表情も硬いものから少々柔らかくなっていた。

 そんなやり取りをしているうちに四暮と二麻の方も一悶着ついたのか、四暮は「行くぞ」とメンバーに声をかけて、競技の入場口へと向かっていった。


 ――パンッ!


 号砲が鳴ってレースがスタートする。一番前を走っているのは――四暮だ。

 そのすぐ後ろにはDクラスの赤髪もいる。林間学校で部屋が一緒だったサッカー部の一人だ。


「いけぇ! 四暮!」

「飛ばせー! チビ!」


 目の前を走り抜けた四暮に五織と二麻が声援を送る。あっという間に四暮は背中を向け、赤髪がそれに喰らい付いている。

 その二人がずば抜けているのか、他のクラスを置いてけぼりにして次にバトンが繋がれる。

 Aクラスの二走者はあの中村だ。後ろにつくDクラスは緑髪。これもまた林間学校で一緒だった男子だ。サッカー部対決とも言えるその構図に、同じサッカー部員の奴らなのか太い声援がグラウンドに響く。二人とも順位をキープしながら走り抜け、三走者に繋がれる。

 そして、大きな順位変動もないまま、四走者――アンカーの遥へとバトンが繋がれる。Dクラスのアンカー黄色髪が、遥を追い抜こうとその背に迫る。


「遥ぁ! 頑張れ!」

「いけぇ!」


 遥に声援を投げかける。だが、若干黄色髪との距離が縮まりつつあった。

 更にそこにワッと歓声がなる。Eクラスのアンカーがものすごい速さで駆けて、二位との距離を一気に詰めていた。


「いけ! ウッチー!」

「うちだぁ!」

「内田くん頑張れ!」


 内田。五織の認識では緑英一年美人四天王の木野柚葉(ゆずは)と付き合ってるとされる男子だ。その内田が黄色髪と並ぶ。

 キュッと五織の胸が絞められる。黄色髪は確か木野柚葉を想っていたはずだ。想い人を取られ、走りでも負けてしまったら……。

 学年対抗リレーの予選が恋愛対抗戦のように見えて五織は固唾を飲み込んだ。


 ――ゴール目前、その二人が遥に並んだ。

 だが次の瞬間、隣り合った黄色髪と内田が接触し、並んでいた遥も巻き込まれる。


「あっ――!」


 たまらず五織は声を上げてしまう。

 三人は蹌踉けたままゴールへと突っ込み、テープを切って倒れ込んだ。


『おっと! 順位がわかりにくかったですね!』


 四位、五位が到着した後、実況の元に順位を見ていた先生が順位を伝えにいく――。


『えー! ただいまの順位! 一位Aクラス、二位Dクラス、三位Eクラスです!』


 改めてアナウンスされ、そしてその結果にAクラス、Dクラスの面々が歓声を上げた。

 五織は自身のクラスが勝ち進んだ喜びに加え、黄色髪が一矢報いたことにも興奮して、クラスの友達とハイタッチをする。

 だが、不穏なざわめきが喜びムードを断ち切った。


「――っ! 遥!」


 遥が足を押さえたまま、グラウンドに倒れていたのだ。



 ▶︎▷▶︎



 遥は元々、牧高との件で足を痛めてしまっていたのだ。

 バットを持った不良に背後から襲われたあの時――バットの直撃を避けた時に軽く足を捻ってしまったらしい。

 遥が走る前に元気がないように見えたのはそれが原因だったのだ。

 

 ただ、走れないわけではなかったため、予選のリレーには出場したのだが、ゴール目前の接触で更にそれを酷くしてしまったということだ。

 診断は"少し重めの捻挫"ということで大事には至らなかった。

 遥が足を痛めたのは牧高の不良のせいだが、そこまで手を回せなかったことを五織は改めて遥に謝罪し、そして遥の代わりに自分が競技に出ると申し出たのだ。


 ――そうして今に至る。


 五織の前の列が駆け出して、とうとう五織の番が回ってくる。

 五織としては異世界の力である"運動能力の向上"は緊急時以外にはあまり使いたくない。努力で手に入れた力ではないそれに頼りたくないのだ。

 だが、"遥の代わり"をつとめる手前、手を抜くと言うのも忍びない。


「位置ついて――よーい」


 そんなことを考えているうちに、パンッと号砲が鳴らされてしまう。

 一瞬スタートが出遅れた五織だったが、前に出た生徒らの背中を見て「簡単に抜けてしまえる」という感覚を覚える。


「とりあえず……」


 五織は少しだけ足に力を込める。そして一瞬で二位へと躍り出ると、そのままの順位をキープしてゴールした。


(まぁ二位なら誰も文句は言わないよな)


 そう思って、二位の旗のところに並んでいると、走り終わった同じAクラスのやつが寄ってきた。リレーの三走者だった男子だ。

 彼は四暮に並ぶクラスのお調子者であり、陸上部の若きエースだ。と言っても長距離が専門らしいが、短距離も速い。そんな彼が少し目を吊り上げ、険しい顔で近づいてきた。


「五織!」


「え、どうした?」


 手を抜き過ぎたかと五織は背筋を伸ばすと、彼の表情がパッと柔らかなものに切り替わった。


「お前、めっちゃ速いじゃねぇか! 五織のレース、陸部の先輩も混じってたんだぞ?」


「え! そうなの?」


 五織はやってしまったと額に手を当てる。そんな激戦区だったなんて知らずに、それなりにいい順位を取ってしまった。

 そんな五織の内心など知らず、陸上部の男子はワハハと笑い、五織の肩を力強く叩いた。


「遥が抜けて心配だったけど、五織にアンカー託すぞ! よろしくな!」


「え、あ、ちょ……」


 五織が返事をする間もなく、彼は踵を返して立ち去ってしまった。


「……まぁいいか」


 予選のような接戦になることなんてそうそうない。大抵そのまま順位をキープすることになるだろうと、五織はそれ以上深く考えることはなかった。

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