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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第三章 体育祭編
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第46話 遥は怒らせたら大変

「どうした? 五織」


 五織の視界に久遠の顔が入ってくる。久遠は首を傾げ、キョトンとした表情を浮かべていた。

 五織の手には買い物のメモが書かれた紙があり、今まさに久遠から受け取ったところだった。


「……戻った」


 五織は自身に起こったことを確認するようにそう口にし、そして久遠の方を見て頭を下げた。


「久遠先輩。すみません、今日急に用事ができちゃって、明日じゃダメですか?」


「お、おう? 本当に急だな」


 突然の五織の断りに久遠は戸惑った様子を見せたが、しばらく考えた後に「うん」と頷いた。


「まぁ予行の金曜日までに揃ってればいいし、明日でも大丈夫だ」


「ありがとうございます!」


「七瀬ちゃんもそれで大丈夫?」


 久遠は頭を下げる五織の後ろ、菜月に声をかける。


「はい。私としては明日の方が都合がいいくらいなので」


「そっか。じゃあまた明日によろしく」


 久遠はそう言うと生徒会室の中へと入っていった。

 久遠から了承を得て、五織は菜月の方を見ると手を合わせて謝罪する。


「悪いな。急に予定変えちゃって」


「別にかまわないですけど、何かあったんですか?」


「……ちょっとな」


「そうですか?」


 言い切らない五織に菜月はキョトンとした顔を浮かべるが、きっと察してくれたのだろう。それ以上の追求はしてこない。単に興味がないだけかもしれないが。


「それじゃ、また明日」


「はい」


 お別れの挨拶をして、五織は踵を返す。その顔は柔和なものから途端に、決意を宿したものへと変わった。



 ▶︎▷▶︎



 五織は澪と合流する。


「ちゃんと戻れたみたいだね。ってことは五織くんの仮説が正しかったってことだよね?」


 澪が出会い頭にそう口にし、五織はこくりと頷いた。

 

 五織の5回の試行(リファイブ)の誤作動。その原因は周防一縷花の能力にあると五織は仮定した。

 特異者(シンギュラー)の能力は他者に干渉する場合には基本的に何かしらの引き金が必要だ。

 

 遥のような阻害する能力は"居る"ことで初めて他者に干渉し、四暮の能力も"見る"ことで感情を覗くことができ、人に"触れる"ことで更に深層まで覗くことができる。

 

 故に、他者から干渉された覚えのない五織は一つの仮説を立てた。それが"死"による干渉の拡張だ。

 一縷花はおそらく"時間感覚を短くする"と言ったような能力であり、本来はその力は一縷花自身のみに反映されるモノだった。だが、自身の死を引き金に他者をも巻き込み、そして五織もその力に呑まれた。

 結果、5回の試行(リファイブ)が発動しても時間的には五時間前に戻るが、五織の意識だけは二時間前に留まってしまっていた。そんな状態だったのだ。

 だから、一縷花の死を防いだ状態で5回の試行(リファイブ)を使うことで、ようやく本来の時間まで意識を戻すことに成功した。


「一か八かの賭けだったけど」


 死以外の干渉に一つだけ心当たりがあったのだ。だからこそ五織はそう弱音を吐きつつ、上手くいったと安堵する。そして、五時間前に戻れればやることは一つ。


「遥と一縷花ちゃんを助けよう」


 澪が代わりにそう言ってくれる。五織はこくりと頷くと、深く息を吸って、前を見据えて走り出した。



 ▶︎▷▶︎



「……ふぅ」


 五織は空き地の真ん中で両手をパンパンと音を鳴らして払う。本当なら一縷花を攫ったやつらだけを相手するつもりだったが、既に一縷花は廃ビルへと連れられた後だった。

 故にそこにいた全員と戦うことになり、その数に圧倒されながらも、なんとか大きな傷も負うことなく全員を無力化させることができた。

 相手が刃物や鎖を使ってくることさえ分かっていれば、恐れる理由はない。

 異世界で死線を越えてきた身だ。――この程度なら、呼吸を整える暇すらあった。


「でも遥はこれを一人でやったってことだよな?」


 五織は倒れ伏す男たちを見下ろしながら、呟いた。

 遥が死に際に話し、その後のループで澪が起こった事を補足してくれたが、遥はこの人数相手に一人で戦って、勝ったらしい。

 一秒間姿を消すことのできる能力を持っていたとしても、少し人間離れしている気がするが、確かに遥は体格には恵まれているし、腕っぷしも立つのだろう。


「……今度から機嫌損ねないようにしよう」

 

 五織は"遥を怒らせたら大変"というのをこっそりと肝に銘じておく。


「五織くん。遥が来たよ」


 澪がそう知らせてくれると、五織は空き地の入り口の方へと目をやる。


「なんだよ……これ」


 遥を連れてきた不良達がその光景に絶句している。遥もまたその光景に目を見開いて驚いてはいるようだが、こちらを見ると小さく頷いた。何が起こったか、ある程度察してくれたのだろう。

 五織は遥へと手を振ろうとすると、その遥の背後にバットを振ろうとしている姿を捉える。

 

「っ! ――遥!」

 

 だが、遥は五織の声でバットを躱すと振り向きざまに足蹴りを顔面横にくらわせ、吹き飛ばし、続く三人の不良も能力を使って姿を消しながら、拳を翳してあっという間に片付けた。


「……大丈夫!」


 こちらへと振り返り、遥は手を振って返事をする。その姿を見て五織はホッと胸を撫で下ろした。

 

 すると、安堵する五織の横を駆け抜ける影が遥へと飛びついた。


「遥くん!」


「おっと。大丈夫だった? 周防さん」


 遥は一縷花を受け止め、優しく微笑みかけると、一縷花はうんうんと頷いていた。

 その光景に思わず五織はニヤニヤと顔を歪めてしまうが、隣に澪が来るとその顔を元に戻し、遥の方へと歩を進める。


「最後、詰めが甘かった。悪い」


 五織は申し訳ないと両手を合わせて謝罪すると、遥は「いやいや」と首を振った。


「全然。何度も助けようとしてくれたんでしょ?」


「あ……ああ。四回もかかったよ」


「……そっか。四回も、ね」


 遥は申し訳なさそうに小さく苦笑いし、どこか遠くを見るように視線を逸らした。

 その表情に五織は少し違和感を覚えるも、一縷花が話を切り出した。


「助けてくれたのは感謝してるんだけど、この状況どうやって収集つけるの?」


 一縷花は辺りを見回してそう聞いてきた。こんだけ大事になってしまったから当然の反応だろう。


「大丈夫。多分、コイツらはもう何もしてこないよ」


「でも報復とか……さ?」


「牧高も不良チームの一個だから、たった一人に全滅させられたっていうことが他のチームに知れ渡ったら、自分らがどうなるかくらいわかってると思う。まぁ最悪、二麻さんに協力を仰いでおいたから問題ない」


「うん?」


 一縷花は全部をわかりきってはいないようだったが、要するにこの状況が知れ渡ったら、他のチームに潰される可能性が大きいということだ。その辺は頭であるピアスの男もわかっているだろうというのが五織の見解である。

 加えて念の為、不知火家の後ろ盾も二麻から了解を得ているので、これがニュースになったりすることもなければ、牧高が緑英に攻めてくるということもない。


「まぁ結局、二麻さんに全任せになっちゃったわけだけど」


「でもなんか二麻ちゃん、逆に助かる〜って言ってたけどね」


「そうなんだ?」


 澪が連絡をしてくれたので詳細は知らないが、そう返答があったならと、五織は少しホッとする。


「それじゃあ……帰ろうか」


 澪のその言葉に頷き、五織達は帰路についた。



 ▶︎▷▶︎


 

 帰りがけに周防一縷花の能力について話すことができた。結論から言えば一縷花の能力は"時間の流れを主観的に短くする"と言ったものだった。

 "楽しい時間はあっという間に過ぎる"というあの感覚を操作することができるのだ。

 実際に時間を操作するわけではないが、退屈な時間もあっという間に飛ばすことができる。

 それを聞いた澪は「羨ましい」と目を輝かせていた。

 五織も同じく羨ましく感じたが、それよりも五織は別のことが気になってしょうがなかった。

 

 ――それは爆発したコインロッカーのことだ。

 

 不知火家の協力でコインロッカーを調べてもらった。

 全く別の犯罪にたまたま巻き込まれてしまったのか、それとも今回の件の犯人の手がかりが掴めればと思っていたのだが、その夜、二麻からの連絡に五織は眉を顰めた。


「無かった?」


『うん。取り外した形跡もないってさ。でも澪も見てるとなると……どういうことなんだろうな』


「……誰かが俺の動きに合わせて行動を変えていた?」


『そんなこと可能とは思えないけどな』


「……そうだよね」


 二麻の言葉に五織も同意する。澪のように記憶が残っているならまだしも、そうではない人間が五織の行動一つに合わせて動くなど、五織の行動全てを予測しない限り不可能だ。

 お風呂入ったばかりなのに、五織の背筋には冷たい汗が流れる。


「……わかった。とりあえず調べてくれてありがとう。あと後処理とか色々お願いしちゃって悪かった」


『良いって。いくらでも厄介ごと持ってこいよ』


「それはちょっと……」


 軽く笑って電話を切る。けれど、その笑みは長く続かなかった。

 スマホを机に置いて、五織はベットに体を預けて大きく息を吐いた。


 5回の試行(リファイブ)の試行中で行動に変化が起きるとすれば五織、または澪の動きによること以外にない。

 今回の場合であれば、五織が買い物に行くのをやめたことで、爆弾を設置するのをやめたということになるだろう。

 つまりは五織が買い物に行くように仕向けていた者が犯人になるわけだが――「いや」と首を振る。

 だが、どうしたってその答えに辿り着く。拭えないその答えに五織は机に置いてあるカメラに目を向けた。


「……なんで」



 ▶︎▷▶︎



 校舎の廊下を渡る風が、カーテンをふわりと揺らす。

 体育祭前で朝練している部活もないために生徒の声はない。窓の外、雀の鳴き声が一度だけ響いて、それきりだ。

 

 そんな朝方の静かな教室に光が差し込み、二つの影を揺らしていた。

 

「よかったの?」


「よかったって?」


「そりゃ、今回のでアンタが犯人だって気づいただろうし」


 歯切れの悪いその言葉に男はフッと笑い返す。


「構わないよ。あくまで今回は()()だったわけだし。まぁもうちょっと追い詰めるつもりだったけどね。少し誤算があった。先は遠いね」


「アタシはもう勘弁なんだけど?」


 男は彼女の言葉に肩をすくめる。


「悪かったよ。でもこれで五織は俺に釘付けだろうし。作戦は次の段階だ」


 彼女は大きくため息をつくと、「まあいいよ」と言って机に片肘をついた。

 すると、教室のドアがコンコンと叩かれる。


「おっ。どうやら次の協力者が来てくれたみたいだ」


 ドアをカラカラと開け、協力者を目の前にすると、男は口角を上げた。


「……ようこそ」

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