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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第三章 体育祭編
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第44話 こんなことになってごめん

 ――なにが起こった?


 五織は額に手を当てて直前の出来事を思い出す。コインロッカーを開いた瞬間、目の前が真っ赤に包まれて、ここに戻った。


「……爆……発?」


「繰生さん?」


 一つの答えに辿り着くと、菜月がその顔を覗かせていた。


「……ああ。七瀬――悪い。俺はちょっと――」


 〜〜〜♪


 五織の電話の着信音が声を遮り、五織は菜月に目配せだけすると、電話に出る。


『もしもし? 五織くん?』


 電話の相手は澪だった。前回は後ろで待っていたはずなのに、辺りを見回しても澪の姿はないようだった。


「澪さん……今どこに?」


『爆発したロッカーの近く。行けば仕掛けているのが誰かわかるかもって思ったんだけど、ハズレだったみたい』


「……そっか」


 やはり死因は誰かが仕掛けた爆弾だったのだ。澪が先んじて調べてくれたみたいだが、当ては外れたようだ。

 五織は「とりあえず大牧高校に向かうから待ってて」と返事をすると電話切って葉月の方に向き直る。


「七瀬……悪い。ちょっと用事があるんだ」


「そうですか。わかりました」


 菜月は訝しむ様子もなく、いつもの無表情でそう答える。少しくらい残念がる様子を見せてくれてもいいのにと思うが、それはそれで罪悪感が募るから、やっぱりこれでいいと五織は小さく笑った。

 すると、菜月はキョトン顔で首を傾げ、五織はそれを見てまた笑う。


「また今度、一緒に行こうよ七瀬」


「はい、よろしくお願いします」



 ▶︎▷▶︎



 五織は澪と駅で合流すると、大牧高校へと辿り着いた。


「……これは」


 五織は正門の前で足を止める。壁じゅうにスプレーで書かれた文字。ちらりと地面に目を向ければ吸殻が転がっていて、入り口だけでその学校の色が見える。

 そんな光景を目にして一瞬足がたじろぐが、グッと足に力を込めた。

 

 ――校舎の中には簡単に入れた。

 特に守衛さんがいる様子もなく、二人は正門から堂々と入り込んだ。そもそも不良高校として有名な大牧高校に侵入するような者もいないかと五織は妙な納得感を覚える。


 校舎の中もひどいものだった。ロッカーはいくつかボコボコになっており、ひび割れたガラスも適当にテープを貼り付けて補強している。きっと直したとしてもすぐに壊すからと諦めてそのままなのだろう。


 いくつかの教室を見回っていると、ガヤガヤと声が聞こえる教室を見つけ、五織と澪は互いに頷いて、勢いよく教室の扉を開けた。

 中には十人ほどの牧高の生徒、いや不良がいた。全員が同じ服を着ているとは到底思えないほど着崩しているが、間違いない。

 その不良らは五織達が入ってくると、キッと睨みつけてくる。


「なんだテメェら」


 不良の一人がそう聞いてくる。と言うより威嚇してきた感じだろうか。だが、五織は特に萎縮することもなく不良達の顔を見て口を開いた。


「最近、緑英の生徒にちょっかいかけた奴って知ってるか?」


 五織の問いに不良達は互いに顔を見合わせると、何がおかしいのか急に笑い出した。ひとしきりゲラゲラ笑った後、不良の一人が座っていた机から降りて五織の前に立った。


「その制服。お前も緑英の生徒だろ? ここはお前らみたいな偉い子ちゃんが来るとこじゃねぇよ」


「……そうか。悪かった。お邪魔しました」


 五織はそう言って踵を返すと、教室を出ようとする。


「はいどうぞって返すかよ!」


 だが、立ち去ろうとした五織を背後から不良は殴りつけてくる。


「――五織くん!」


 澪の悲鳴が教室に響くと同時、五織は振り翳された拳を最小限の動きで避けると、そのまま相手の手首を掴み、地面に叩きつけた。


「……かっ」


 悶絶する不良を見下ろし、五織は残る不良らを睨みつける。それで萎縮してくれれば良かったが、五織の期待は裏切られる。


(まぁそうだよね……)


「テメェ!」


 それが喧嘩の合図となり、不良達は五織に向かってきた。

 一人目の拳を避け、足で払って転ばせる。

 二人目の蹴りを受け止めると、そのまま上へと投げて倒れる一人目の上に落とす。

 三人目の拳は手のひらで受け止め、そのまま四人目の攻撃を避けながら空中を一回転。三人目は五織の回転と一緒に意図しない回転でそのまま倒れ込み、四人目は回転途中で首筋あたりを軽く蹴って吹き飛ばした。

 五人、六人と次々と蹴散らして、あっという間に全員を戦闘不能にする。


「……今は手加減してられないんだ」


 異世界の敵に比べればこんな不良など大したことなかった。五織は倒れる不良の一人のところに腰を下ろして、情報がないかと聞こうとする。


「あらら、やられちまったんか」


「きゃっ――」


 すると、教室の入り口から低い声と澪の悲鳴が聞こえて振り返る。

 教室の入り口の枠、そのギリギリまで伸びた背。オールバックに固められた長い黒髪に、十字架のピアスをした男が、澪を拘束し立っていた。


「澪さん!」


 五織が駆け寄ろうとすると、ピアスの男は取り出したナイフをチラつかせ、澪へと向けた。


「待てや。色男」


「くっ……」


 五織は足を止め、グッと奥歯を噛んだ。

 その様子を見て男はフッと笑った。よくよく見ればピアスの男の顔には殴られた傷があり、笑った口の端には血が滲んでいた。


「緑英の偉い子ちゃん達、随分とやりおるわなぁ。頭良いだけじゃなくて喧嘩も強いとあっちゃあ、俺らクズらはどうすりゃええねん」


「……達? やっぱり遥と周防さんを!」


「……眼鏡とメッシュ娘。助けに来たんやろ? もう無駄やけどな」


「無駄……? それはどういう――」


 五織の言葉が止まる。背中から激痛が走り、目の前にいるピアスの男はニヤりと嗤い、澪の目には涙が浮かんでいる。


「っ――!」


 刺されたのだ。さっき蹴散らした不良の一人が両手にグッと力を込めて五織を思い切り刺していた。

 五織はそのまま前へと蹌踉けて、膝をついた。


「五織くん!!」


 澪の叫び声が耳に響く。痛みが全身を走り抜ける。だが――


「――らぁ!」


 五織は痛みに耐えながら立ち上がり、そのまま澪を拘束するピアスの男の顔面を殴りつけた。

 あまりに一瞬の出来事にピアスの男はなす術もなく床に伏せ、澪も呆気に取られる。

 五織はそのまま振り返ると、自身を刺してきた不良を殴り、不良はそのまま壁に吸い込まれた。


「……五織くん!」


 膝をついた五織に澪が駆け寄ってくる。その表情には焦りと心配が入り混じっていた。そんな澪の肩に手を置いて、五織は大きく息を吐く。


「澪さん……怪我はない?」


「私は大丈夫。そんなことより五織くんが!」


「俺は……大丈夫だから」


 五織はそう言うと背中に手を回し、奥歯を思い切り噛むと、自身に深く刺さったナイフを抜き取った。

 汗が滲み出る。痛みに呼吸が途切れそうになるが、意識を保つために大きく息をする。そして自身のワイシャツを脱ぐと、肌着の上からそれを巻いて、傷口を抑えつけた。

 そうして、応急処置にもならない気休めの処置をして、立ち上がった。


「行こう……」


「行くって……そんな傷で!」


 澪が止めようとするが、五織は首を横に振る。


「遥と周防さんが……アイツらに襲われたのは確かだ……。あとは二人の場所を突き止めれば……」


「……わかった」


 澪は頷くと五織の腕を引いた。そのまま五織は澪の肩を借りると、歩き始めるのだった。



 ▶︎▷▶︎



「……五織」


 遥は河川敷の橋の下で座っており、その横にはブレザーがかかって顔の見えない女の子が横たわっていた。

 遥は五織を見つけると、小さく息を吐いて顔を俯ける。


「ごめん、五織……こんなことになって」


 遥はそう呟いた。

 橋の影でわかりにくいが、遥も傷だらけだった。特にその腹部には刺さったままのナイフがあり、遥の座る場所は赤く染まっていた。

 

 その光景に絶句する澪の肩から腕を離し、五織は覚束ない足で遥の横まで歩くと、壁に手を当てながら、ゆっくりと腰を下ろした。


 遠くでは野球少年たちの声が聞こえ、妙にそれが耳に入ってくる。

 一番最初。遥から電話を受けた時、電話から聞こえてきた少年たちの声。あのとき、五織は必死に情報を取り入れようとしていた。

 それだけではもちろんわからなかったが、牧高の奴らが関わっていたことから、牧高の近く、かつ少年野球をやっている場所はここくらい。そして、道に足跡のように残されていた血痕が五織と澪をここまで連れてきた。


「……なにが……あったんだ?」


 五織の問いに遥はわずかに息を詰まらせ、視線を落とし――


「……話があるって呼ばれたんだ」


 そうしてゆっくりと語り出した。

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