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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第三章 体育祭編
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第38話 曲がりなりにもパートナーだろ

「ちょっと待ってほしいッス」


 五十層に到着するや否や、ディアナがみんなの足を止めた。


「どうしたの?」


 イオリが問うと、ディアナは手だけを向けた。とりあえず「待て」と言うことなのだろう。

 ディアナはその場で目を瞑った。そうしたまま動かず、静寂が流れる。そして、一分ほど経過してようやく目を開けた。


「…………」


 ディアナは目を見開いたあと、すぐに伏せるようにして沈黙した。ダンジョン入り口でもそうした表情が見えたが、彼女は小さく頷くとイオリ達に目を向けた。


「敵がいるッス」


「――! 敵?」


「五十層のボス部屋。そこに魔族がいるッス。相当な実力者ッスね」


 ディアナの言葉にイオリは眉を顰め、レイはダンジョンの奥の方へと目をやる。


「……何も感じないわ」


「そりゃそうッス。魔族に魔力はないんだから感知はできないッスよ」


「じゃあアンタはどうやって」


「未来を視たッス」


「――!」


「もしかしてアンタ……し――」


 レイが続く言葉を呑んだ。ディアナが首を振ってそれを止めたのだ。そして、ディアナはその視線をイオリへと向けた。


「逃げるっていう手もあるッス。どうするッスか?」


「どうするって言われても……」


 イオリは考える。そもそもの依頼は五十層の調査。魔族を倒すまでは依頼に入っていない。だが、ここで魔族を倒さなければ、この先他の誰かに危険が及ぶかもしれない。五十層には転移魔法陣もあるから、魔族がその気になればサンドレアに侵攻してくる可能性がある。

 幸いにもこのメンバーはサンドレアという土地の中では最高の戦力だ。ディアナとレイ。二人が協力しても勝てないならサンドレアは勝てないと言ってもいい。

 そして、イオリには再試行(リドー)だってある。敵わないと思った時点で、一度引いて、更なる戦力を率いて戦えばいい。

 今ここで立ち止まる理由はイオリにはなかった。


「行こう。相手がどのくらい強いかはわからないけど、ディアナとレイがいれば戦力で劣ることはほぼないと思う。ビナーラさんの治癒魔法だってある。最悪俺が二人を背負ってでも逃げるよ」


 イオリがそう言うと、レイはハァとため息をついた。


「自分も戦力に含めなさいよ。情けないわね」


 だが、そうは言いつつもレイは口角を上げ、クルッとダンジョン奥の方へと向いた。


「じゃあ行くわよ」


「頼もしいッスね〜」


 レイとディアナはダンジョン奥の方へと進み、ビナーラもそれについて行く。そして、ビナーラはイオリの前を通ると、


「じゃあイオリは私のことを守ってね」


 そう揶揄うように言ってきた。でも実際、ビナーラは貴重な回復要員。言われなくてもそう立ち回る予定だ。



 ◀︎◁◀︎



 危険があるとわかっていて扉を開ける。元々の扉の重さもあるが、開けたくないという後ろめたい気持ちも相まって、より重々しく感じる。

 ギィとゆっくりと扉を開き、そしてディアナが先行し、中へと入る。

 青い炎が灯って、部屋が明るくなると、ようやく敵の姿が見える。

 ――ブラックドラゴン。イオリ達が戦った個体のどれよりも大きく、その蒼き眼に睨まれるだけで咆哮なみの圧力が部屋全体に走る。

 だが、そうではない。敵はブラックドラゴンの背中で胡座をかいてコチラを見つめていた魔族の方だ。

 青い肌に黒目の真ん中に黄色い瞳を浮かばせ、そして特徴的なのは頭からのびた禍々しい二本の角。片方は弧を描くように長く伸び、片方はその半分くらいの長さで止まっている。不揃いなそれがより一層不気味さを強調させる。


「にゃはー! おはよう、こんにちは、こんばんはー! 初めまして人間諸君〜。そしてさようなら〜!」


「――イオリ!!」


 まるで動画配信者みたいな挨拶をした魔族にイオリの気が一瞬抜け、そして横から衝撃をもらってハッとする。

 それは敵の攻撃。ではなく、ディアナが飛び込んできた衝撃だった。敵の攻撃からディアナが庇ってくれたのだ。

 赤い禍々しい光がディアナの細い脇腹を掠め、イオリと共にその場に転がった。


「っ! ディアナ!」


「掠めただけッス! いくッスよ!」


 イオリはディアナに声をかけるも、ディアナはすぐに立ち上がり、ハゴロモの柄を握って駆け出した。そして、すぐにレイもそこに並ぶ。


「レイは上ッス!」


「りょうかい!」


 ディアナは剣を前に突き出し、レイは炎を地面に放って大きく跳躍する。


「にゃはん」


 ディアナの攻撃でブラックドラゴンがたじろぎ、足場が揺れた魔族は気の抜けた声を上げる。そして次にはレイの炎剣が魔族へと届く。


「にゃっはー!」


 だが、魔族はバァーっと手足を大きく広げたジャンプでそれを躱し、すかさず回し蹴りを振るってくる。

 レイは躱されたその剣をそのままにブラックドラゴンの鱗に突き立て、その柄の先を弾くように手を離して一回転。そして、空中に弧を描きながら雷を魔族に放った。


「――に!」


 予想外の攻撃だったのか、見事なカウンターを喰らって、魔族は後退する。だがそこにはディアナの姿がある。


「にゃっはー! 黒トカゲちゃんもうやられちゃったんかー!」


 目にも止まらぬディアナの剣線を躱し、魔族はカウンターに赤いレーザーを放つ。


「芸がないッス」


 ディアナは赤いレーザーを簡単に斬り払うと、その距離を詰め、剣突きを喰らわせる。


「……にゃっ」


 初めて魔族の弱々しい声が漏れる――

 そしてディアナは今一度ハゴロモを鞘へと戻し、柄を握り直す。

 レイもまた魔族の背後で剣に魔力を帯びさせ、構える。


「無刃――白縫(しらぬい)

「グロリオーゼ!!」


 二つの剣で貫かれ、魔族は血を吹き出すと、そのまま力無くその場に倒れた。


 あっという間の決着にイオリは声を出す暇さえなかった。

 正直、拍子抜けだ。もちろん、誰かが苦しむことを望んでいたわけではないからこれでいい。

 だがディアナが先に警告してきたくらいなのだ。もう少し苦戦するものだと思っていたため、イオリが呆気に取られるのも無理はなかった。

 それはビナーラも、戦っていたレイも同じようで、二人とも小さく息を吐いていた。


『意外とやるではないですか。人間』


 ふと、部屋に声が響いた。

 

 その声が鼓膜を揺らした瞬間、イオリは震え上がった。あの魔王と同等の圧力。それがその声にはあった。

 レイも同じように感じているようで、その表情は緊張に固まっている。

 全員が辺りを警戒する。だがそこには倒れた魔族とブラックドラゴンが転がっているだけだ。


「ブラックドラゴンから離れろ!」


 イオリが声を上げると、レイとディアナはイオリとビナーラの元へと戻る。

 魔獣は息絶えれば砂煙のようになって消える。だが、そのブラックドラゴンはその体に大穴を開けても、なおそこに存在していた。


 途端、ブラックドラゴンがムクリとその体を起こした。

 ゆっくりと起き上がり、そして徐々にその体が縮こまっていく。

 側に倒れていた魔族をも巻き込んで、そうして人型へとカタチ作られる。


 先ほどの魔族と同じく黒目に黄色の瞳を浮かべるが、その肌は色白く、ひび割れのような縦線がその瞳をまたぐように額から頬にかけてはしっている。

 体は黒き龍鱗に覆われ、手はドラゴンのように鋭い爪が伸び、背中には不揃いな翼が生え、腰からは禍々しい尻尾が伸びている。


「魔獣王――コーネリア」


 ディアナがその名を呼ぶと、目の前の魔族は首を傾げ、ディアナを見て、納得したように小さく頷いた。


「久々ですね。始祖のエルフ」


「ディアナっていう名前があるッス」


「そうですか。ディアナ。実に千年ぶりといったところでしょうか?」


 交わされる言葉にイオリの疑問が増えていく。だが、口を挟めるような度胸はイオリにはない。

 

「そうッスね。また痛い目見たくなかったら、とっとと撤収するッス」


 ディアナがそう言うと、コーネリアは顎に手を置いてまるで淑女のようにクスクスと笑った。


「ペットがやられて、飼主がやり返さないわけがないでしょう?」


「そうッスか。残念ッス。今度はきちんと殺してあげるッス」


 ディアナはハゴロモの柄に手を触れた。

 

 ――瞬間、爪と剣がぶつかり、高い音が部屋に鳴り響いた。

 

 そうなってようやく、イオリの硬直が解かれる。


「レイ!」


 レイに声をかけると、レイは炎の中に手を伸ばし、そこから引き出した魔法具を投げると、敵の方へと駆けていく。

 イオリがそれを受け取ると同時にボタンを押し、ただのカバン型だったそれが変形し、銃をカタチ取った。


 ――龍砲。


 名前だけ聞けば、まるで大砲のようなものをイメージするが、その魔法具はスナイパーライフルの形に近く、持って歩くことだって可能だ。

 ディアナからの貰いものであり、この一ヶ月、イオリは剣の訓練と共にこの龍砲の練習もしていた。

 内部に仕込まれた魔石により、空気中の魔素を魔力へと変換し弾に変える。原理はわからないが、つまりは弾切れがない優れものである。

 

 スコープを覗き込み、照準を合わせる。


(……速すぎる)


 コーネリアの姿はギリギリ目で追えるほど。しかもディアナとレイに当てないように標的だけを撃ち抜くのは至難の業だ。

 故にイオリはコーネリアを狙うのをやめる。レイの動きからの予測。曲がりなりにも彼女とは時間を一緒に過ごしてきたのだ。その経験からおそらくここに撃てばサポートになるところに照準を合わせる。



 ◀︎◁◀︎



(魔王と同等かそれ以上ね)


 レイはコーネリアと呼ばれる魔族をそう評する。と言っても魔王はあれで封印状態だったわけだが、今は関係ないので心に留めておく。

 とにかく、敵が強大であること、そして魔王と対峙した時よりも自身が強くなっていることを再認識する。

 だが同時に、それでもついていくのがやっとなことにレイは奥歯を噛んだ。

 自身の攻撃はほとんど当たらず、有効打になっているのはディアナの攻撃だ。

 敵は速く、硬い。ブラックドラゴンの鱗が比にならないほどに硬質だ。故に一振りを速く、そして重く振るわなれければ攻撃にすらならない。


「っ――!」


 剣が鱗に弾き返され、レイの体が後ろに蹌踉ける。気を抜いたわけではない。敵が意図的に鱗の硬度を上げたのだ。

 その隙を敵が見逃すわけがなく、鋭い爪がレイを突き殺しに迫ってくる。ディアナがそれを防ごうと剣を振るったが、それは敵の肩から生え出た龍の顔に止められる。


 ――終わる。


 レイの脳裏にそれが過る。死への恐怖が全身を駆け巡る。


「レイ!」


 だが、背後から飛んできた声がレイの恐怖を掻き消した。

 即座にレイは敵の攻撃を躱すことも、封じることも止めて、()()に切り替える。


 瞬間、魔族の爪が魔弾によって弾かれ、レイへの攻撃が空振りに終わると、その作られた隙に剣を斬り込む。


「ブラジオーゼ!!」


 レイの剣が炎の帯を薙ぐ――。

 迸る熱と共に、ついにその刃は敵の鱗を割り、初めて深く届いた。

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