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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第三章 体育祭編
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第32話 今度こそデートをさせてくれ

 ――週明けのお昼休み

 予定通り周防一縷花も交えて五織たちは昼食を囲っていた。一縷花の遥と澪への挨拶も終わり、話題は金曜日に控えている体育祭で持ちきりだ。


「体育祭、もう今週末だね」


「だなー! 楽しみだぜ」


「四暮くんは結構色んな競技出るもんね」


「おうよ! でも遥も結構出るよな」


「そうだね。部対抗リレーは出ないけど」


 体育祭の競技のほとんどは、足の速さが重要なものであり、勝ちをとりにいくのなら基本的に足の速い人が色んな競技に出がちになる。

 四暮も遥もクラスの中で足が速いため、学年対抗リレーはもちろん、徒競走、障害物競走と、走る系のモノは全て出場だ。ちなみに五織はそれらには参加せず、全員参加である台風の目にしか出場しない。


「は、遥くんって足速いんだ?」


「まぁ……背が高いからその分有利って感じかな?」


「遥くん、背が高いもんね」


 一縷花の問いに遥は柔和な笑みで答え、その表情にドギマギした一縷花は顔を俯かせてそう答えた。


「でも誰かさんは背が低いくせに足速いんだなー」


「あ? 背が低い方が速いやつ多いだろが!」


「知らんて。精々、他のやつに接触して潰されないように気を付けろよ」


「んだとコラァ」


「やんのかコラァ」


 いつもの啀み合いが始まり、やれやれと皆、首を振る。菜月もこの光景には慣れたようで、二人のことは当然のように無視してもぐもぐとご飯を食べている。


「菜月ちゃんはやっぱり引っ張りだこ? ドッジボールであんなに活躍してたし、クラスのみんな菜月ちゃんの凄さ知ってるでしょ?」


 澪がそう問うと、菜月は口に入ったものをしっかりと飲み込んでから口を開く。


「クラスの皆さんには期待されていたようなのですが、先生にストップをかけられまして、徒競走にしか出ません」


「ええ! なにそれー」


 澪がぶーぶーと不満を垂れると五織は「まぁそうだよな」と心の中で思う。


(ドッジボールでも特別扱いされてたし、先生たちの苦悩が見える)


 流石は異世界人というあだ名を持つ菜月と言ったところだろう。これで部対抗リレーまで禁止カード扱いされていたら問題だったが、部対抗リレーは点数には関係ないレクリエーションなため許されたようだ。


「澪さんは走らないんですか?」


「私は学年対抗リレー走るよー! これでもクラスの女子の中で一番足速いからね!」


「おお! 応援しますね」


「嬉しい! けど自分のクラスは?」


「……確かに。じゃあ澪さんだけを応援させていただきます」


「わーい」


 何とも取り留めもない会話な気がするが、微笑ましい光景が繰り広げられているので五織は何も言わずに澪と菜月のやりとりを静観する。

 そして、五織はチラリと目線を他に移す。一縷花はまだ全然ぎこちない感じだが、遥との会話を楽しんでいるようで徐々にその硬い表情も和らいでいるようだ。その光景もまた微笑ましいものではあるが、五織の心情は何とも複雑であった。


 ――昨晩お風呂から上がった後、遥から電話があった。


『五織? 今大丈夫?』


「おう? どうしたの? 急に電話なんて」


 五織はまだ濡れたままの髪をタオルで雑に拭きながら、遥からの電話に応答する。


『さっきの四暮の話なんだけど』


「ああ」


『もし、四暮の予想が正しいなら周防さんはかなり怪しいと思うんだ』


「――――」


 遥の言うことには五織も全くの同感だ。というか、あの場にいた全員が真っ先に周防一縷花を疑っただろう。

 四暮の言う"感情が見えない人間"=特異者(シンギュラー)であるならば、現時点で"人を操る能力"を持っているのは久遠か一縷花である。

 林間学校は一年生しかいないため、中村を操り、五織や奏乃を追い詰めたのは必然的に一縷花ということになる。


「……俺もそう思うよ。ただ――」


『ただ?』


 遥に同意を示すも、五織はその先を言い淀む。

 確かに彼女は疑うべきだ。だが、そうだとしても彼女の恋心はきっと嘘ではない。それはあの表情や態度を見ていれば十分にわかることであった。

 つまりは彼女が容疑者であっても、警戒するのは自分だけでよく、遥に彼女を疑ってほしくないというのが五織の内心である。


「ただ、周防さんには俺を狙うような理由がないと思うんだ」


『……そうだね』


「――だから」


『でも、警戒しておくのに越したことはないと思うんだ。だから僕から提案なんだけど』


「うん?」


『彼女の監視は僕に任せてよ』


 ――結果的に遥は一縷花を監視すべく、彼女と一緒に下校することを提案してきた。彼女が敵にしろ、そうでないにしろ、遥が一緒に帰ってくれるなら願ったり叶ったりなため、五織は驚きながらも承諾した。


(これをきっかけに二人の距離が縮まったら良いけどな)


 疑い、疑われている関係であるものの、一縷花の願いは遥と仲良くなることだ。きっかけこそあまり良いものではないが、これで仲良くなってくれるなら御の字だ。


「そういや、周防さんは遥にお礼が言いたいんだろ?」


 二麻と争っていたはずの四暮が突然話題を切り出すと、皆が目を見開き、一縷花に視線が集まった。


「あ、えっと……」


 言い淀む一縷花に二麻は四暮の脇腹に肘を当てて、ヒソヒソと話し始める。


「何やってんだよバカ」


「だってよ、余所余所しいし、遥も切りださねぇからよ」


 一縷花が挨拶した時もその話題は出ることなく、いつの間にか体育祭の話になっていたし、五織も遥の口からその話を聞きたかったところだ。

 それにいつまでも話さないと四暮がポロッと口に出してしまいそうで、おそらく本人もそう思って尋ねたのだろう。何にせよ、ここで遠回しに聞いたのはかなりナイスだ。


「その……遥くん。こないだは助けてくれてありがとう」


 辿々しく、一縷花が口に出すと、遥は「ああ」と思い出したように目を見開いて、そして優しく笑った。


「いいよ全然。あんな状況、助けない方がおかしいし」


「何があったんだ?」


 四暮がとぼけたようにそう問うと、遥は「あれ?」と首を傾げた。


「てっきり周防さんから聞いてるのかと思った。四暮がずっとソワソワしてるみたいだったし」


「あ! いや、なんだよ。バレてんのかよ」


 四暮が白状したように頭の後ろをかくと、遥は悪戯に笑った。


「まぁ正直、五織たちも四暮の一挙一動にビビりすぎだけどね」


「なんだよ。バレてたのか。だったらそうと話を切り出してくれていいのに」


「自分が助けたんだーって? 流石に自分から切り出す話題じゃあないでしょ」


「それは確かに」


「ちょっと待って。わかってないの私だけ?」


 話題に置いてかれているのが自分だけだと気づいた澪が口を挟むと「あ、」とみんな口を開いた。



 ▶︎▷▶︎



「なるほどね。そんなことがあったんだ」


 澪のために遥が説明してあげると、聞き終わった澪はふむふむと頷いた。


「でも、その高校って牧高(まきこう)でしょ? きちんと諦めてくれるかな?」


 牧高とは大牧高校(おおまきこうこう)の略称であり、ここいらでは有名な不良高校である。最近は特に悪い噂が多く、警察沙汰になった数も少なくないらしい。

 そのため澪の言った通り、そんな彼らがやられっぱなしで終わるはずもなく、今後報復してくるというのもあり得ない話ではない。


「うん、そうだと思ってね。しばらくは周防さんと一緒に帰ろうかと思ってるんだ」


「え?!」


 遥の言葉に一縷花が驚きの声を上げると、遥は優しい表情を浮かべる。


「迷惑かな?」


「い、いやいや、アタシは嬉……ああ! いや、迷惑なんかじゃない……よ」


「そっか。じゃあよろしくね」


(遥って見かけによらず、かなり手慣れてる?)


 あまりにスムーズなやり取りに五織はそんなことを思いながら横目でそれを見ていると、目の前にいた澪も同じように思ったのか遥をじーっと見つめていた。


「でも一縷花ちゃんの最寄って遥の家とは逆側だよね?」


「え! そーなの? それじゃあさすがに悪いよ」


「構わないよ。それで周防さんが危険な目に遭う方が嫌だし」


「は、遥くん……」


(……やり手だ)


 元々遥の話題になるとタジタジになっていた一縷花であるが、もう遥の言葉で真っ赤だ。完全に乙女の顔だ。

 澪も幼馴染としては複雑なのか、パクパクと口を開いては言葉が出ないようだった。

 


 ▶︎▷▶︎



「あの……ありがと。アンタ達のおかげでなんか……遥くんと一緒に帰ることになった」


 顔を赤らめながら報告する一縷花を見て、菜月以外の四人、五織、四暮、二麻、久遠はニコニコと笑う。いや、二麻に関してはニヤニヤというのが正しい。


「良かったじゃん! じゃあ今日は遥の部活終わるまでここで待つ的な?」


 二麻の問いに一縷花は小さく頷く。どうやら今日はダンス部は休みらしく、一縷花は机に座って足をパタパタさせていた。


「……邪魔だったら出て行っても良いけど」


「なんでです? 周防さんも写真部の一員ですし、邪魔ではないでしょう?」


 菜月の全く裏表のない疑問に、一縷花は罰の悪そうに眉を顰めた。元々、一縷花は遥と仲良くなれるならという条件付きでやって来たのだ。二麻と四暮と違って一縷花はまだ入部届を書いていないし、部の一員というにはまだ気が早い。

 だが、お昼休みや下校と、遥と一緒にいれる時間は作れたし、ほぼ面識なしからここまで進んだのだから条件はクリアしたと言ってもいいだろう。

 そんなみんなからの視線に一縷花はバンっと机を叩くと、久遠の方に視線を向けた。


「久遠先輩。書くから持ってきて」


「! はいよー!」


 久遠は目を輝かせて答えると、すぐに引き出しを開けて書類を取り出した。

 

 そうして、一縷花が無事入部することが決まると、五織も一つ肩の荷が降りたようで、ふぅと息を吐いた。


「……あ、そういえばなんだが、俺の代わりに体育祭で使う備品の買い出しに行ってほしくてな。明後日の水曜日誰か空いてるか?」


 久遠が思い出したように手を合わせてそう言うと、真っ先に一縷花がヒラヒラ手を挙げた。


「アタシは無理。部活あるし」


「ウチもバイトだ」


「俺もクラブがあるなー」


 一縷花が断り、二麻、四暮もそれぞれ予定があると立て続けに断られ、久遠は五織と菜月の方を向いた。


「構わないですけど、久遠先輩は?」


「おお……五織。助かる。俺は生徒会活動で体育祭の準備をしなくちゃいけないからさ」


「そういうことですか。でも買い出しって本来生徒会の仕事ですよね?」


「まぁそうなんだが、これに乗じて三脚を新調しようかと思ってな。部の経費ではなく、学校の経費で落とせるからさ。生徒会メンバーに行かせたら写真部で使えないし」


「……なんつーか、会長さん」


「セコいっすね」


「中学の時もこんなんだったよ。この人」


「五織〜〜部員が増えたら増えたでいじめられるようになってしまったよお」


 二麻と四暮の連携に一縷花が追い討ちをかけると、久遠が涙ながらに五織に助けを求め、五織はハハハと苦笑いする。


「まぁセコいのはセコいですけど」


「七瀬ちゃーん」


「三脚だけでもそこそこ荷物になりますし、私もお手伝いしますよ? 繰生さん」


 久遠が助けを求めるも、菜月は完全に無視して、お手伝いを名乗り出る。


「おお。助かるけど、いいの? 水曜はいつも早めに帰ってる気がするけど」


 写真部の活動はそれほど活発ではないのは幽霊部員がいることからわかるが、菜月は真面目に毎日活動に来ている。だが、水曜日だけは少し顔を出す程度なため、何が用があると思っていたのだが。


「……繰生さんって随分人のこと見ているんですね」


「い、いや、同じ部員だし。そのくらいはさ?」


 少しだけ目を細め、そう言った菜月に五織は目線を逸らしてしどろもどろにそう答えると、菜月は「そうですか」と言う。


「気遣いありがとうございます。買い出しとはいえ、部活動の一環ですし、絶対に早く帰らなきゃいけないわけではないので、お手伝いしますよ」


「そっか。それじゃあよろしく!」


「はい」


 五織はニコッと笑いかけるが、突如として決まった菜月とのデートに内心はてんやわんやであった。

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