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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第三章 体育祭編
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第29話 人の恋路は気になるだろ

「今日は二人に大事な話がある」


 生徒会長であり、五織(いおり)菜月(はづき)の所属する写真部の部長でもある十河(そごう)久遠(くおん)が神妙な面持ちでそう言う。

 いつもどこか飄々としている久遠にしては珍しく真剣な表情なため、五織は少しだけ身構えて久遠の次の言葉を待った。


「――このままでは写真部は廃部になる」


「え?!」


「どうしてですか?」


 五織が驚きの声を上げると同時、こちらもまた珍しく菜月が前のめりになって久遠に問いただすと、久遠は額に手を当てた。


「……部活動を行うにあたっての規則は知ってるか?」


「顧問一人に部員五名以上ですよね?」


「そう。だが、見ての通り今この部には三人しかいない」


「いやいやいや、久遠先輩の友達とかが来ないけど部員だって言っていたじゃないですか」


「そうなんだが……」


 五織が入部した際、久遠は「俺の他にあと四人いるんだが、今はほぼ幽霊でな。まぁでも突然廃部になるとかはないから安心してくれ!」と言っていた。なのにも関わらず、どうやら写真部は廃部の危機に陥っているらしい。

 五織が菜月の方を見ると、菜月は静かに俯いたまま動かないでいた。その無表情からはわかりにくいが、せっかく入った部活が廃部になると聞いてショックなのは間違いない。それにこないだの林間学校では本当に楽しそうに写真を撮っていたのだ。そんな菜月から写真部を失わせるわけにはいかないと五織は久遠に改めて問う。


「それで何があったんです?」


「……体育祭が近づいているだろう? 体育祭の催しとして部対抗リレーがあるんだが、今年は運動部とは別の枠で文化部も走ることになってな。五人出場できないと部員が欠員していることが先生達にバレるんだ」


「……でも幽霊部員の先輩達を呼べば、足りるんじゃないですか?」


「何を思ったか知らないが、ほぼ不登校な幽霊部員の一人を除いて、みんな応援団に入っていてな。応援団はその時間応援合戦があるから基本出れないんだ。加えて俺は俺で生徒会としてリレーに参加するから実質三人足りない」


「……えぇ」


「だから、どうにか三人部員補充をすれば危機は脱せる。リレーだけでも出てくれれば後は会長権限で有耶無耶にできるから」


 最後にとんでもないことを言った気がするが、とりあえず体育祭までに部員を補充できればいいらしい。それならばそんなにキツくないかもと五織は俯く菜月に声をかける。


「大丈夫。三人くらいならすぐ集まるよ」


「……繰生さんがそう言うのなら」


「すまないな五織。俺も少し知り合いをあたってみるからよろしく頼む」


「了解です」



 ▶︎▷▶︎



「ん? いいぞ」


「ウチも別に構わないよ。それに菜月と仲良くなるチャンスだしな」


「本当ですか?」


 林間学校が終わってからというもの五織、(みお)(はるか)四暮(しぐれ)二麻(にま)といういつものメンバーに加え、菜月も一緒にお昼ご飯を囲むようになっていた。

 その中で部活に所属していない二人、四暮と二麻に聞いてみるとあっさり了承してくれた。


「ごめんね。五織くん、菜月ちゃん。バスケ部は兼部が許されてないんだ」


「いやいや、強豪だし仕方がないよ」


 全国大会常連の部活であるバスケ部に所属している澪と遥は五織の誘いに申し訳なさそうにそう断った。

 緑英高校では部活に複数入ることは了承されている。ただし、部活動によっては兼部を許されず、特に活動が盛んな運動部はこれに当たる。五織もそのことは知っていたし、ダメ元での誘いであった。


「写真とか全くやったことないけど大丈夫か?」


「とりあえず席を置いてくれるだけで廃部にはならないみたいだから」


「そうかそうか! でもお嬢は大丈夫なん? 写真NGとかあるんじゃねーの?」


「問題ねぇよ」


 林間学校のことがあってから相変わらず四暮は二麻のことをお嬢と呼んでいて、最初はやめろと言っていた二麻だったが、どうやら諦めたらしく最近はもうツッコミすらしない。


「じゃああと一人だ。心当たりあるの?」


 澪がそう問うと五織は頬をかいて、少しだけ「うーん」と頭を悩ませる素振りを見せた。


「あー、そういうこと」


 何故かその五織の反応だけでわかったらしく、何のことかわかっていない菜月と四暮だけはハテナを浮かべ、二麻はニヤニヤと、遥と澪は苦笑いを浮かべた。

 一応、アテが一つ。いや、一人いるのだが、菜月の前ではなんだか気恥ずかしく五織は名前を出すのを躊躇った。



 ▶︎▷▶︎



「五織くん! どうしたの?」


 五織の心当たり。(すめらぎ)奏乃(かの)の教室に着くと、五織が呼ぶ前に奏乃の方が五織に気づいてすぐに教室の入り口に顔を出した。


「えっと、今時間ある?」


「うん? 大丈夫だけど……七瀬さん?」


 少し気まずそうにしている五織に違和感を覚えていると、その横にいる存在に気づいて奏乃は首を傾げた。


「初めまして。七瀬菜月です。本日はお時間をいただきありがとうございます」


「あ、えっと初めまして。皇奏乃です」


 同級生に対しての初対面の挨拶にしてはだいぶかしこまったモノだが、優しい奏乃は特に不思議がる様子もなく対応する。


「初対面でこんなことをお願いするのもなんですが、実は皇さんに写真部に入っていただきたく」


「写真部? 私に?」


「はい。つきましてはこの書類にサインを――」


「待て待て待て。色々省きすぎだし、悪質な勧誘か!」


 五織が止めに入ると菜月は首を傾げた。


「何か問題が?」


「問題しかないけど?」


「え、でも澪さんが繰生さんの頼みなら絶対引き受け――むがむが」


「ごめん、皇さん。ちゃんと説明するから」


 五織が手で菜月の口を封じて、あたふたしながら奏乃にそう言うと、奏乃はクスッと小さく笑った。


「仲良しだね。二人とも」


「えっと……」


「そうですか?」


「うん、妬いちゃうくらい」


 菜月の言葉に奏乃はそう返すと五織にウインクをする。その悪戯な表情に思わず五織はドキッとしてしまう。普段は温厚で物静かな感じなのに、恋愛事になると意外と積極的になる彼女のギャップに何も感じないわけがなかった。

 だが、五織はそんな自分を心の中で叱咤して、首を振ると話を本題に戻す。


「体育祭の部対抗リレーに出れないと部員が足りないことがバレて廃部になりそうなんだ。だから体育祭まででもいいから入ってくれる人を探してて」


 五織がそう言うと奏乃は「そっか」と言って考えるように俯いた。

 それから2、3秒経って奏乃は「ごめんなさい」と頭を下げた。


「吹部は今年から兼部できないことになってて、五織くんのためなら辞める覚悟もあるけど、流石に周りに迷惑をかけることはできないから」


 奏乃の答えに五織は「ううん」と首を振った。


「こちらこそ急に無理を言ってごめん。そっかぁ、今年からか」


「うん、今の先輩達の代が上手い人が多くて、今年は全国狙いに行くからって」


「去年はダメ金だったって聞いたから、もしかしたらそうかもなって思ってたし大丈夫」


「本当にごめんね。五織くんの力になりたかったけど……他に何かできることがあったらいつでも言って! 協力するから」


「うん! ありがとう」


 五織は奏乃にお礼を言って教室を後にすると、ついてきた菜月が五織の横に並んで口を開いた。


「随分と親身になってくれますね。すごい信頼を置いているというか……。繰生さん何かしたんですか?」


「誰かさんの球から助けたおかげ?」


「……弾? 銃撃戦でもしたんですか?」


「わかんないならいいよ」


 五織の認識としては林間学校で菜月の豪速球から助けたことが彼女と話すようになったきっかけだ。

 正直色んなことがあったせいで催しの記憶が薄いが、その中でもみんなの印象にも残るシーンだったはずだ。それなのにどうやらこの朴念仁は自身が元凶だったそのことすら覚えていないらしい。


「……なんでそんなんなのに頭いいんだよ」


「? 何の話です?」


 変わらず自覚のない彼女を見て、五織はハァとため息をついた。



 ▶︎▷▶︎



「おお! 早速か」


 その日の放課後。勧誘した四暮と二麻を連れて部室に入ると、久遠が目を輝かせて椅子から立ち上がり、四暮と二麻の手を握ってブンブンと振った。


「ありがとうなぁ〜。俺はここの部長の十河久遠だ」


 嬉し涙を流してそう言う久遠に二麻は引き気味に「ども」と小さくお辞儀する。


「なんか会長。壇上で話してる時と違う感じっすね。思ったよりフランクっていうか」


「そりゃあ、生徒会長は威厳を保たないとなー。先生や先輩達も見てるしな」


「そういうことですか。どっかのお嬢様も俺らといる時と家にいる時とじゃ違うみたいだしTPOってやつっすね」


 四暮がニヤニヤと笑ってそう言うと二麻は眉を顰め四暮を睨みつけた。

 それを見ていた久遠は急に納得したように二麻の顔を見てうんうんと頷いた。


「そうか! 君があの不知火家のご令嬢か! 十河(うち)も不知火家には大変お世話になっている」


 久遠が深々と頭を下げると、二麻は慌てたように手を振って久遠の頭を上げさせる。


「やめてください。こんなところで」


「しかし……」


「それに今や十河家も不知火(うち)に追いつく勢いですし、お互い様でしょう」


「なんか学校でお嬢喋りしてると調子狂うな」


「さっきからずっとうるせぇ!」


 四暮が横やりを入れるととうとう堪忍袋の緒が切れた二麻が四暮の胸ぐらを掴み上げ、取っ組み合いを始めた。そのドンチャン騒ぎに久遠は引き気味に五織の肩をトントンと叩く。


「ちょ、五織。良いのか?」


「通常運転なので、そっとしておきましょう」


「えぇ……」


 最近は不知火家であることをバラしたからか二麻の方がずっと大人な対応をとっていたため、このいつもの光景を見て五織はなんだか安心してしまった。


 ――そんなこともありつつ、ようやく落ち着いて五人が席に着くと、自己紹介と入部届を書いて、少しだけ部の説明が久遠からされた。

 そしてそろそろお開きかとみんなが席を立とうとすると、久遠が「ちょっとだけ待ってくれ」と皆を引き留めた。


「実は俺の方でも一人入ってくれそうな奴を見つけたんだ。そろそろ来る頃合いだと思うが」


「え? じゃあその人が入ってくれれば廃部の危機脱出ですね」


「と言っても、正直まだ入ってくれるかは微妙なんだ。なんでも条件付きでさ」


「条件?」


 五織がそう聞き返したのと同時、入り口がノックされてガラッとドアが開かれる。


「お、ちょうど来たか」


 現れた生徒を確認して、久遠はその生徒の横に立つと「紹介するよ」と前おく。


「彼女は周防(すおう)一縷花(いるか)。君たちと同じ一年だ」


「あ、四天――」


「ストップ四暮」


 四天王の子だと口に出しそうになった四暮の口を咄嗟に五織は抑えた。四天王の話がどれだけ出回っているか知らないが、良く言われても悪く言われてもまるで格付のようなその呼び方をよく思う女子などいないだろう。

 そのやり取りが気になったのか、一縷花は眉を顰めて口を開いた。


「なに?」


「いや、これで五人揃ったなぁって」


「まだアタシ入るって言ってないけど」


 少し強気な口調に少々驚きつつも、彼女が四天王と揶揄されるのもわかると五織は納得する。

 金色ショートの髪には青いメッシュがかかり、耳には小さめのピアスがきらりと光っている。手足もスラリと長いモデル体型で、身長も170くらいだろう。

 まだ木野(きの)さんとやらには会ったことがないが、澪や奏乃とも違うベクトルの美人であり、四天王と並べられるのもよくわかる。


 久遠に促され、五織達とは対面に座る形で一縷花は席に着いた。


「なんか条件があるって聞いたけど」


 五織がそう言うと一縷花はキッと眼光が強くなったかと思えば、急に赤面して俯いた。


「――――」


「え? なに?」


 ボソッと何かを呟いた一縷花に二麻が聞き返すと、「えっと……」と言い淀んだ。

 さっきまでの態度が嘘のように消えて、もじもじとし出した彼女にみんなは目を合わせて首を傾げた。


「その……なんて言うか」


「うん、ゆっくりでいいよ」


 五織が声をかけてあげると、小さくこくりと頷いた。


「えっと……条件っていうのは、その。ある人と仲良くなりたくて取り持って欲しいというか」


「惚れた奴がいるって?」


「二麻さん」


 せっかく口を開いてくれたのに揶揄おうとする二麻を五織は牽制する。


「俺達にお願いするってことはAクラスの誰かって感じかな?」


「……うん」


 反応的に完全に恋する乙女である一縷花にちょっとずつ周りもドキドキし始めた。四天王と呼ばれる彼女が誰かに惚れたなんて話になれば男子の中では大ニュース。いやきっと女子もきゃっきゃっ言い出すだろう。


「その……」


「――――」


「……遥くんと仲良くなるにはどうすればいい?」


 顔を赤らめて告白した彼女の表情に「罪な奴め」と五織は心の中で思うのだった。

お読みいただきありがとうございます!

廃部の危機やら新キャラの恋路と共に第三章『体育祭編』開幕です!


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― 新着の感想 ―
第3章開幕おめでとうございます!写真部の危機、救えそうですね!お嬢と四暮のことはもっと知りたいな〜と思っていたので、ナイス入部ですね!そして四天王、まさかの遥くんかあああ!五織に負けないくらいモテるん…
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