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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第二章 林間学校編
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第28話 最後は笑顔で終わりたいものだろ

「これは……ひどいな……」


「う……」


「怪我してないだけマシかな?」


「ホントにできなかったんだな!」


「じゃがいもが……」


 長かった夜が明け、今日は林間学校最終日。林間学校の最後の催しである飯盒炊爨でカレーを作っていた。

 それぞれ作業を分担していた五織たちだったが、野菜を切る担当の澪がじゃがいもを粉々にしてしまい、流石に苦笑いを浮かべるしかなかった。


「だって……芽は取らないとって……」


「いや、そうだけど……」


「その結果こうなるか?」


 澪の言い分では芽を取り除くためだったそうだが、じゃがいもは見るも無残な姿であり、五織は頭を抱えた。

 野菜を切るくらいは変な事が起こらないだろうと思って任せたのだが、流石にこれは予想外であった。


「そしたら、もう少し粉々にしよう。俺がやっておくから、澪さんは……遥と一緒に薪をよろしく」


「うう……」


 澪は泣く泣く五織の言う通りに薪の方へと歩いていった。


「サラダの方はもう出来ちゃうぞ!」


「あ、四暮。マヨネーズと胡椒だけ貸して」


「ん? おう。カレーに使うのか?」


「まぁ思いつきだけど」



 ▶︎▷▶︎



「いっただっきまーす!」


 カレーは無事出来上がり、五織たちは席について手を合わせる。


「すごい! ハッシュポテトになってる!」


「マヨネーズで和えて固めたのを焼いたんだ。良い感じになってよかったよ」


 澪の失敗をカバーし、五織たちの班のカレーは周りの班と一風変わったカレーになった。他の班も五織たちのカレーを見ては「えーすごい」と褒めてくれた。


「澪さんのおかげだね」


「えへへーそうかな?」


「いや、完全に五織のおかげだろ」


 調子に乗りそうになった澪を二麻はあっさり切り捨て、カレーを口に運んだ。


「……美味いな」


「お嬢様の舌も唸らせるか」


「おい、そのいじりやめろ」


「って! 悪かったって」


 四暮の言葉に二麻は眉を顰め、横っ腹に拳を入れた。

 3人がホテルに戻って合流したあと、事の顛末を聞いたとき五織も驚いた。普段の口調や格好から見ても、色々かけ離れていて、まさか二麻が財閥のお嬢様だとは思わなかった。

 だがここ最近は試験の点数が良かったり、たまに見せる何でもこなす姿だったりと、何となく良い家の育ちである片鱗は見せていたため、妙な納得感があった。

 なぜ緑英にいるのかはわからないが、彼女なりに何か考えがあってきたのだろう。あまり彼女としても不知火であることは公にしたくないらしく、五織も深くは突っ込まないようにしていた。


「ごちそうさまでした!」


 カレーはあっという間になくなり、5人は手を合わせる。食器を洗おうと五織が食器を集めて持っていこうとすると、澪に止められる。


「五織くんは働き過ぎだから、私たちに任せて」


「う、うん? じゃあ頼むね」


 五織は食器を手渡すと4人は洗い場の方へと行ってしまった。持て余した五織はどうしようかと、とりあえず座ってた場所に座り直す。すると、ポンポンと肩を叩かれる。


「五織くん、ちょっとだけいい?」


「皇さん?」


 奏乃について行くと、大きな広場に出た。そこは昨日キャンプファイヤーを行った場所であり、真ん中の石台には黒い灰の痕が残っていた。


「ごめんね。五織くん」


「え?」


「私のせいで色々大変になっちゃって」


「ううん、俺こそ巻き込んでごめん。それに中村くんのことも黙ってもらっちゃったし」


 中村だが、次に目を覚ましたときには何も覚えていないようだった。四暮と外に出たところまでは覚えていたそうだが、その後は全く心当たりがないようで自身の顔の傷にひどく驚いていた。

 そのため五織も中村の対応に困り、結果、中村も被害者だったとして収めることにした。ただ、奏乃にやっていた嫌がらせ行為は全て謝罪させ、その上で奏乃には今回の夜の出来事は黙ってもらうようにお願いした。

 最初は困惑の表情を見せた奏乃だったが、他でもない五織の頼みだったため了承してくれた。


「じゃあこの話はここでおしまい! お互い様ってことにしようよ」


「いや、でもそんな……」


 キャンプファイヤーの約束を反故にしたのもそうだが、奏乃には本当に怖い思いをさせてしまったし、その上で黙っててもらうなんて都合が良すぎると五織が奏乃の提案に答えないでいると、奏乃は「うーん」と頭を悩ませるようにした。


「じゃあ一つだけ頼みを聞いてもらっても良い?」


「え、ああ。もちろん。俺にできることなら」


「やった」


 そう言って奏乃はニコッと笑うと、五織の横に立って、もう消えてしまった炎の方に目を向ける。


「キャンプファイヤー。五織くんと見たかったんだ」


「いやでも、もう消えて……」


「それでいいから」


 屈託のない笑みを浮かべた奏乃。そうして数秒の時間が経って奏乃は五織の前に立った。


「私ね、五織くんのことが好き」


「え」


 突然の告白に五織は目を見開いた。奏乃の気持ちは知っていたものの、彼女から正式に言われたわけではなかった。だから五織は彼女になんて言えば良いのかわからなかった。


『……皇さん、俺――』


 あのとき言おうとした言葉が五織はふと頭によぎった。「話したいことがある」と。そしてそれは自分に好きな人がいることを告げることだった。


「皇さん、俺好きな人が――」


「七瀬さん」


 五織が言おうとしたその答えを奏乃が先に答えて、五織は驚いた表情を浮かべると、奏乃はその表情を見て悪戯に笑った。


「知ってるよ。それでも好きなの」


「でもそれはズルズル引き延ばすだけで――」


「五織くんが思っている以上に私は五織くんのことが好きなの。だから諦めてなんて言わないで」


 五織の言おうとしたことの全て見透かしたように彼女はそう言うと、また笑った。だが、その笑顔はいつもの弾ける笑顔ではなく、少しだけ陰っていた。


「それに五織くんが七瀬さんに振られる可能性もまだあるもんね」


「っな。それは……」


「なんてね」


 そう言って奏乃は背を翻した。


「私のことも見ててね。五織くん!」



 ▶︎▷▶︎



「あれ、帰りは大丈夫なんだ?」


「おうよ」


 帰りのバスも同じく四暮と隣だった五織は、しばらく走っていても大丈夫そうな四暮に声をかけると、四暮はポケットからカラカラと音を鳴らしてラムネを見せつけてきた。

 車酔いは気からと言うし、ラムネで暗示できてるならそれ以上突っ込まない方がいいだろうと五織は「ふーん」とだけ言っておいた。


 そんなやり取りをしつつ、バスがサービスエリアに着くと、飲み物を買いに外に出る。

 山の中だった林間学校の場所に比べて、だいぶ暑さが出てきて、五織は制服の袖を捲った。


 ――パシャ


 突然、カメラのシャッター音が聞こえて、五織はそっちに振り返る。


「七瀬?」


「はい、七瀬です」


 なんだか久々に見た気がする菜月の姿を五織がまじまじと見ていると、菜月は小首を傾げた。


「なんか付いてます?」


「いや、七瀬だなーって思っただけ」


「なんですかそれ」


「まぁいいじゃん。写真はいっぱい撮れた?」


「はい。繰生さんのおかげで気軽に撮れたので」


 そう言うと、菜月は首にかけていたストラップを外して、カメラの画面を五織に見せてきた。


「へぇ。マジでいっぱいあるじゃん」


 ピッピッというボタンの音ともに次々に流れていく写真。ピースをする男女グループ、はっちゃける男子。顔の横に半ハートを作ってポーズを取る女子達。知らない顔の方が多いくらいだが、いずれもみんな笑顔で、見ている五織も徐々に柔和な表情になる。


「あれ、澪さんと同部屋だったの?」


 二麻が一番前でその後ろに澪、Dクラスの女子とみんなでピースをして撮っている写真が目に留まり、五織が問うと菜月はこくこくと頷いた。


「はい。澪さんも二麻さんも友達になりました」


「そっか」


「お昼を一緒に食べる約束もしました!」


「お、だいぶ進歩したな」


「ふふふ、私もぼっち卒業です」


「それ笑ってんの?」


 あまりに下手くそ過ぎる菜月の笑いに五織がそう言うと、菜月は少しだけ眉を顰めた。


「笑顔……できてませんか?」


「うん、残念ながら」


 五織の言葉に菜月はガクッと肩を落とす。だがそれもほとんど無表情のままなため、思わず五織は吹き出して笑った。


「澪さんに笑顔のやり方教えてもらいな」


「そうします。ついでに繰生さんが私をいじめてくるって言っておきます」


「それは困る。澪さん、怒ると怖そうだからな」


「今怒ってもいいけど?」


 突如かかった声に五織はゆっくりと振り向くと、澪がニコーっと笑っていた。


「澪さん……」


「なんてね。そんなことで怒らないよ」


 澪はそう言って、いつもの笑顔を浮かべると、五織も安堵の息を吐いた。


「そうだよ。澪が本気で怒ったのは小学生の時に(あま)にぃが……痛い痛い」


「余計なこと言わなくていいから」


 遥が軽口を挟むと澪が耳を引っ張った。


「なぁ! お嬢がみんなで串焼き食べたいってみんなで――いてぇ!」


「お嬢呼びすんじゃねー!」


 四暮と二麻も相変わらずの調子でいがみ合いながら五織達の元へとやって来た。


「せっかく揃ったし、写真撮ろうよ!」


「いいね!」


 澪の言い出しに、四暮がグッドマークで返事すると、菜月が「じゃあ」と言ってカメラを構えた。


「違う違う、菜月ちゃんも一緒にだよ!」


「え」


 そう言って澪は自身の横に菜月の腕を引くと、少し遠くを歩いていた先生に声をかける。


「先生ー! 写真撮ってー!」


「はいよ!」


 先生が小走りで向かってくると、菜月のカメラを借りて構えた。


「あ、皇さんがいる! 皇さんも呼んできて五織くん」


「あ、うん」


 澪に言われるがままに奏乃の元に五織は駆け寄り、奏乃の手首を捕まえた。


「皇さん、こっち」


「え、あ、はい」


 わけもわからないまま奏乃は返事をして、みんなが集まっているところを見て「私もいいの?」と問いかける。


「もちろん!」


 五織と奏乃が合流し、先生がカメラを構えて手を挙げる。


「はい、じゃあいくよー! はいちーず!」

お読みいただきありがとうございます!

これにて第二章 林間学校編 完結になります。

第二章は四暮をメインに書くつもりでしたが、五織を追い込むためにと急遽、皇奏乃を登場させました。おかげで物語の幅も広がり、これが書きたかったんだというものが書けたと思います。

第二章が合わないなら勇カスはきっと合わないでしょうと言えるほどに勇カスらしさを詰めることができたので大変満足です。


さて、続く第三章ですが更新日は未定です。GW中毎日更新と銘打ってやってきましたが、おかげさまで書き溜めを全て放出してしまったので……そして他に書きたい短編も出てきてしまったので一旦そっちにシフトします。

と言っても勇カスは絶対に完結させたい物語なので、すぐ書き始めると思います。

戻ってきたらまたよろしくお願いします。


後書きが長くなりましたが、読者の皆さまの応援が励みになりますので、ブックマークと下の☆☆☆☆☆から評価頂けると幸いです

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― 新着の感想 ―
第2章完結おめでとうございます。 今日はここまで一気見しました!楽しみにしていた作品に追いついてしまったので、嬉しいような寂しいような気持ちを胸に3章をのんびり楽しみにしています。 新たなライバル奏乃…
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