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異世界帰りの勇者、恋愛に現を抜かす  作者: ミゾレ
第二章 林間学校編
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第22話 先が見えない

『その気持ちも全部俺が持っていくから』

『三宮寺さんがいなかったら七瀬は助からなかった。そして俺も助からなかった。本当にありがとう』

『……そうだ。俺がタイムリーパーだ』


 突然パッと視界が切り替わり、自身に起こったことを理解した三宮寺澪はその場に頽れ、額に手を当てた。


「……五織くん」


「澪! 大丈夫か?」


 隣にいた二麻は突然その場に崩れ込んだ澪を心配し、背中に手を当て、澪の顔を覗きこむ。青ざめた澪は二麻の視線に気づくと、小さく首を横に振った。


「うん。ごめん、二麻。急にくらついて……」


「先生呼ぼうか?」


「ううん、ただの貧血だから……」


「いやでも、顔色が」


「ホント、大丈夫だから」


 澪は二麻が肩に添えていた手を握ると、ゆるゆると立ち上がり、口を開いた。


「……五織くんの場所わかる?」


「五織? わかんないけど、今行くと皇さんがいるんじゃない?」


「うん。邪魔しちゃうかもだけど、ちょっと急用を思い出して」


「? ……もしかしたら食堂の方じゃない? あくまで予想だけど。食事の時間終わるとひと気がないところだし」


「ありがとう」


「え、ちょ――」


 二麻にお礼を言うと、澪は一目散に駆けて行き、二麻はその場に一人取り残される。


「……? なんなの?」


 二麻は眉を顰め、小首を傾げた。



 ▶︎▷▶︎



「それじゃ、五織くん! また後で!」


「あっ――待っ――すめ……」


 突然戻された意識に追いつかず、奏乃がその場から去るのを見届けてしまった五織は手を伸ばしたまま立ち尽くした。


(行ってしまった……)


 これから四暮を捜さなければいけないため、キャンプファイヤーにはほぼ間に合わない。

 もしかしたら四暮は近くにいるかもしれないが、五織は間違いなく誰かに背中を押されて暗闇へと落っこちた。それが五織を狙ってのことかはわからないが、少なくとも人を殺めるような人間がこの近くに潜んでいる時点で、四暮を見つけたところでその事件性は拭えない。

 つまりは奏乃との約束は果たせないことは確定しているのだ。それはあの満面の笑みを取消すことと同義であるが、五織の心が痛んだとしても、きっとこのままズルズルと引き摺る方が奏乃にとっても良くない。

 わかっている。わかっているのだが、いざあの笑顔とまた対面してしまうとその決心が揺らいでしまって、五織は声が出せなかった。


「……とにかく」


 五織は首を振って、自身の頬をパチンと叩く。


(まずは四暮だ)


 クヨクヨしていた自身を叱咤し、当初の目的に意識を当てる。四暮がいなくなったと知ったのは今から4時間後だ。それならばこの時間にはまだホテルの中にいるかもしれないと五織はホテル内を捜索しながら、道ゆく生徒に声をかける。


「四暮がどこにいるか知ってる?」


「ん? ああ、さっき中村と外出てくの見たぞ」


「ホント?!」


「おう。裏からな。あの2人が一緒にいるなんて珍しいなーって思ったから間違いねーよ」


「ありがとう!」


 最初に出会った通行人でまさかの有力情報が得られ、五織はすぐさまホテルの裏口へと向かう。


(……まじか)


 だが、裏口の前には2人の先生が立ち話をしており、五織は廊下から覗き見る。

 どうやら昨日今日と隠れて出ていく生徒がいるのがバレているらしく、キャンプファイヤーが終わるまで交代でそこにいるようだった。


(タイミング悪い……)


 五織は裏口から出るのを諦め、2階へと上がると、空き部屋に入る。そこは1日目に「脱出口探しだ」とか言って見つけた一つであった。ただ2階の塀から1階塀に飛び移る必要があり、危険度を伴うため使えそうにないという話になっていた。


「運動能力向上を舐めるなよ」


 五織はパルクールの要領でぴょんぴょんと塀を簡単に飛ぶと、地面へと着地する。


「こうなってくると、ありがたみがあるな」


 正々堂々と戦いたい五織にとって運動能力向上は余計なモノでしかなく、制御するのに意識を使うため、普段の生活の中で最も要らない能力と言っていいだろう。しかし、こういった非常事態においては皮肉にもありがたみを感じてしまう。


 五織は目の前に広がる暗闇に目を向け、辺りを見回す。


「外に出れたのはいいけど……」


 だが、どれだけ見ても一寸先も闇。四暮がどこに向かったのかは全くわからない。五織は腕時計を見ると6時を過ぎていた。最悪、このループでは手当たり次第捜し、5時間以内に戻れば問題ないはず。かと言って制限がある以上、余裕があるわけではない。


「とりあえず、大通りに出る方に向かうか」


 五織は北極星の位置から大体のあたりをつけて、大通りのある方へと歩を進める。

 そこそこ歩いたところで五織は木々についているバツの印に気づく。

 見るからに新しく付けられた印であり、誰かがここを通ったことは間違いなかった。


「もしかして四暮か?」


 五織はそのバツ印を辿っていくように歩くと、大通りへと出た。


「暗いな」


 昼間は明るくのどかだったその道は今は街灯もほとんどないために真っ暗で不気味な印象だ。

 大通りに出たはいいが、五織が立っているのは法枠工の上であり、五織は降りるところがないかキョロキョロと辺りを見回す。すると、その通りの向こうから光が見えて、車が通りを過ぎていった。


「こんな夜中に来る人もいるんだな」


 五織は通り過ぎて行った車を見届け、下へ降りようとした時だった――


 突然頭に衝撃を受け、五織は通りへ転がり落ちた。


 カランっ――


 鉄の棒が地面に落ちた音がして、五織は朧げな視界でその音の方へと顔を向けると、影はゆっくりとこちらに向かってきて五織の顔をのぞいた。


(――中村)


 クラスメイトの顔が五織の視界に映り込み、そうして五織は意識を失った。



 ▶︎▷▶︎



「ホント?! 嬉しい!」


 弾ける笑顔。その屈託のなくこちらまで笑顔になってしまいそうな表情とは裏腹に五織は片頰を固めた。


(――なんで……)


 自身の意図しないやり直し。その原因が自分のクラスメイトだったことに五織はショックを受け、拳を握りしめた。


「……五織くん? どうしたの? 具合悪い?」


 その表情に違和感を覚えたのか、奏乃が心配そうに五織の顔を覗き込んだ。そうして映った彼女の薄い灰色の瞳が五織の感情をまた揺らがせる。


「……ごめん。実はさっきからちょっと具合が良くなくて」


「! こっちこそごめん! 気付けなくて。先生に言おうか?」


「……ううん。とりあえず今日はもう休もうと思う。だから……本当にごめん」


「なんで謝るの? 確かにキャンプファイヤーを見れないのは残念だけど、五織くんが体調悪くしちゃう方が私は嫌だから」


 逆に裏があるんじゃないかと思うほど良い子だと五織は思う。その表情から本当に心から心配をしてくれているのが伝わってきて、自身が嘘をついて騙していることに罪悪感が押し寄せくる。


「……埋め合わせするから」


「大丈夫。今はとりあえず部屋に戻ろう?」


 その罪悪感から思わず五織はそう言ってしまうが、奏乃は首を振ってそう言う。

 奏乃に連れられて部屋に戻ると、部屋には赤髪だけがいて、五織と奏乃を見て顔を顰めた。


「五織くんが体調悪そうだからお願いします」


「あ、うん? そう?」


 赤髪は何が何だかと言った表情を浮かべ、何故か親指を立てて了解すると、奏乃から五織を預かった。


「お前。せっかく皇に誘われたのに体調悪くしたのかよ? ホント勿体無いやつだな」


「……そうだね」


「おお、否定しないんだな」


 どうやら赤髪は昨日のやり取りからなんだかんだ五織は否定してくるのかと思っていたらしく、素直に賛同した五織を意外に思ったらしい。

 四天王だか五天王だか顔の良さという評価を置いといて、あの優しさに触れて、そう思わない人間はいないだろうと五織は素直に思う。

 自身がもう二度も死に追いやられて弱っているのもあるが、気持ちがシーソーのように傾きまくってしまっている。


 五織がモゾモゾと布団に入ると、赤髪は「良かったらこれ飲めよ」と言って枕の横にペットボトルのスポドリを置いてくれた。


「ありがとう」


「まぁ飲みかけでわりぃけど! そんじゃ、俺はキャンプファイヤーの準備係だから、そろそろ行くわ」


「遥がどこにいるか知ってる?」


「ん? 部屋には戻ってきてねぇけど。多分バスケ部と一緒なんじゃねーの?」


「そうだよね。ありがと」


「はいよー!」


 そう元気に返事をすると、赤髪は部屋から出ていき、静寂が流れた。


「情けない」


 奏乃の優しさに触れ、赤髪の優しさに触れ、嘘をついた自分が恥ずかしくなり、情けなくなってそう呟いた。

 五織は布団から起き上がると、押し入れからまだ使われていない布団を取り出して、自分の布団の中に丸めて入れて置く。念の為のカモフラージュだ。


「よし。行くか」


「あれ? 五織? 何やってるの?」


 準備万端だとそう思った矢先、遥が部屋に入ってきて首を傾げた。


「ちょうど良いところに!」


「ん?」



 ▶︎▷▶︎



 五織は遥と共に裏口へと出た。前のループでは裏の出口の扉の前には先生が立っていたはずだが、タイミングが良かったのか誰もそこにはおらず、難なく外に出ることができた。


「それで? 四暮が危ないってどういうこと?」


「なんか中村くんが感情的になってるらしくて、そんな中2人で出て行ったって聞いたからさ」


「……なんで中村くん? 四暮って中村くんと仲良かったっけ?」


「いや、俺もよくわかんないんだけど」


 苦し紛れに五織はなんとかそう取り繕うと、遥は「うーん」と悩ませるようにした。


「まぁ五織がそう言うなら信じるよ。四暮が見当たらないのは事実だし」


「ありがとう」


「それで? 2人はこんな真っ暗の中歩いて行ったってこと?」


 遥は目の前に広がる暗闇に目を向けて、そう不安そうに呟くが、五織はポケットから小さいライトを取り出してどんどんと進み始めた。


 どういう意図で中村が五織を襲ったのかはわからないが、遥と2人ではそう襲ってはこれないだろうと五織は考える。もし、襲われたとしても異世界を経験した五織だ。不意打ちされない限りはそうそう殺されるようなことはない。

 そして、五織と遥は四暮がつけたであろうバツ印の木まだ辿り着く。


「コレって、新しい痕だよね? 四暮がつけたってことなのかな?」


「多分だけど……」


 五織としてもあくまでそれは予想でしかなく、遥の問いに自信無さげに答える。


「もしかして! 繰生と一ノ瀬か!」


 突然上がった声に五織と遥はバッと振り返ると、その形相に驚いたのか中村はギョッと肩を振るわせた。


「中村くん?」


「あぁ、良かったぁ。気づいたら迷っててこんなところに――」


「四暮はどこだ!!」


 胸を撫で下ろした中村に食ってかかるように、五織はその距離を詰めると胸ぐらを掴み上げた。


「な、なんだよ急に」


「四暮はどこだって聞いてんだよ!」


「ちょっと! 五織!」


 掴み掛かった五織と中村の間に割って入ると、落ち着かない様子の五織の前に遥が立った。


「邪魔しないでくれ遥。俺は中村に用がある」


「どうしたの? らしくないよ?」


 五織もそう思う。だが、五織を殺したのは中村で間違いなく、おそらくだが、1回目の崖に突き落としたのも中村の仕業だ。そんな危険人物である彼が全ての犯人だとそう思うのは当然であり、気持ちが逸るのも仕方がない。今だってもしかしたら鉄の棒を隠し持っていて、隙を見て襲ってくるかもしれないのだ。悠長にはどうしてもしていられなかった。


「四暮はどこだ!」


 凄んだ五織に中村は遥の背中からひょっこと顔だけ出すと怖がるように答えた。


「し、知らねぇよ!」


「嘘をつくな! お前と2人で外に出たって聞いたぞ!」


「確かに一緒に外には出たけど……そっからあんまり覚えてねぇんだ! 気づいたらここにいて」


「誰がそんなこと信じるんだ! 四暮を……殺したんじゃないのか!」


 遂に核心をつく言葉を放つと、遥は振り返り、中村の顔を見た。だが、当の本人は大きく首を振ると、遥はまた五織の方へと視線を向けた。


「五織、流石に説明してよ。話が唐突過ぎるって」


「っ……」


 五織は言葉を言い淀んだ。突飛な話なのは自分でもわかっている。だが、自分がやり直しをしていて中村に2度も殺されて今に至っているなんて説明してもどうかしているとしか思われないだろう。

 つまりは五織にここで説明できるほどの要素はない。五織は遥の後ろに隠れている中村をジッと見つめ、大きなため息を吐いた。


「……悪かった。四暮が心配なあまりに冷静じゃなかった。……ただ答えてくれ。四暮はどこにいる?」


「だ、だから言ってるだろ? マジで知らねぇんだ。俺ももう何が何だか」


 頭を抱え、その場に頽れた中村を見て、五織もまた額に手を当てた。


「……じゃあ四暮は――」



 ▶︎▷▶︎



 五織と遥は中村を連れてホテルへと戻った。裏口から静かに入ると、なんだかホテル内は騒然としていた。


「まさか出て行ったのがバレて……」


 中村がそう不安を口にするが、その不安は五織達を見つけた二麻が解消してくれる。


「やっと見つけた! アンタらどこほっつき歩いてんだよ!」


「いや、ちょっとね……それよりどうしたの? なんか騒々しいけど」


 遥がそう問うと、二麻は切れた息を落ち着かせるようにしてから口を開いた。


「澪が……連れ去られた」

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