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最終話 夢の終わり


 薄っすらと光が差す中かで目覚めた。漂う動かない人形のような人間に僕は抱きついている。僕が以前収納した人達だ。メイドやエルフ、盗賊、盗賊に襲われた人達。


 今では僕の心を繋ぎ止める唯一の存在だ。


 僕はもう何十年もこの空間に漂い続けていて、そのほとんどを寝て過ごしているため、どれだけここにいるかもわからない。


 今日も動かないメイドを抱いて、また寝る。その繰り返しだ。



「あ……あった……やっと見つけた……」

そこには僕がずっと探していた、細身の剣が漂っていた。時間停止亜空間の中でもその危険性から最奥へとしまってしまい、見つけられなかった次元を斬る剣。


 僕はその柄を取り、横薙ぎに剣を振るうと、体内をえぐられたような感覚のあと、薄暗な空間に光が差して、森が見えた。

「で……出られた……」

眩しくて目が開けられないが、おそらく遺跡のあった森の中だ。

体も思うように動かせない。目を(つむ)ったまま、地面を這いつくばって木に腰掛ける。


 ずっと無重力にいたせいか、立つことができない。


 指にしていた指輪で姿を透明にして周囲の魔物から身を隠し、身体強化を念じると、少し体が動くようになった。


 魔物から逃げるように森を歩いた。森を抜けてビトリアの街に着いた。


 ゆっくりと歩き、診療所を目指す。診療所は誰もいなくなっており、立入禁止の看板が立ててあった。中に入ると埃をかぶっており、しばらく使われていなかったことがわかる。エリザベッタが患者を見て、子どもたちが案内をしていた様子がフラッシュバックする。


 2階にゆっくりと上がっていき、イレーネの部屋、カーラの部屋、トリニダの部屋、ゲートをつないだ扉を見て回る。もうそこには誰もいない。


 きしむ扉を開けて外に出た。

「あら、あんた勝手に入ったらだめだよ。教会に目をつけられるよ!」

「すみませんが、ここでなにがあったか教えてもらえませんか。」

50歳ほどのおばさんにすがるように泣きついた。

「えっ…ここでって、診療所のことかい?もう20年になるかね……若い女の子が子どもたちと診療所を開いてたんだけど教会に目をつけられてね……みんな教会に連れられていってしまったよ……」


 そうか教会に……その後、重い足取りのまま教会に行ったが、僕の身なりを見て門前払いされてしまった。もうあれから20年経ったのか。エリザベッタは、キアラは、カーラは、トリニダは、オルテンシアは、チェチーリアはどうなってしまったんだ。僕は街道の隅で蹲り、身を縮めて泣いた。


 魔王も教会も全部ぶち壊してやる……。


 僕は胸の中の黒い渦のような激情を抑えることができずそのまま、夜まで道で過ごした。

「おいおい、小僧!こんなのところで寝てるんじゃねぇ!」

突然お腹を蹴られた。


 僕は立ち上がり酔っ払いの顔を軽く殴るとパンッと音を立てて弾け飛んだ。

「ひいっ、ゆ……許してくれ……」

もう一人の男も首から上を弾け飛ばした。


 歩いてきた真っ暗な道を戻り、教会の前に立った。

「昼の坊主じゃねぇか。何度来ても入れねぇよ。」

門を守る衛兵の顔を吹き飛ばす。首から下がドサッと膝から崩れ落ちる。門を無理矢理にこじ開けて中に入ると音を聞きつけた衛兵等が集まってくるが目に入るやつはすべて殺して回った。


「全部ぶち壊してやる……」

心の中の黒い感情はもう抑えることはできない。ただ怒りに任せて殺して回った。


「ミ……ミロ様!」

僕を呼ぶ声の方を向くと黒髪の信徒の服を着た女性が僕に走り寄ってきた。

「エリザベッタ……遅くなってすまない……」

「ミロ様……これはミロ様が……」

「ああ…この教会を許すことはできない……」

「そうですか……私はこの教会で人の治癒を行っています。確かにこの教会は腐敗していますが、いい人もいます。もう人を殺すのはやめてもらえませんか。」


「エリザベッタ……もう僕は僕を抑えられない。この教会は潰すと決めた。」

「そ……そんな……それでしたら私を殺してからにしてください。私はもう教会の関係者です。」


 僕は握る拳にさらに力を込めたが、エリザベッタに手をあげることはできなかった。

「ミロ様……」


 僕はもうどうでも良くなった。教会も僕自身も。エリザベッタから離れるように歩いていくと、僕の中の魔力が、体から漏れ出した。


「エリザベッタ!僕から離れろ!」

「ミロ様……」

腰辺りから下がえぐれるように無くなったエリザベッタがそこにはいた。

「エリザベッタ!」

床に横たわる上半身だけになったエリザベッタを抱き上げる。周りでは僕の魔力で建物の壁や柱がどんどんと収納されていっている。


「ミロ様……私……ずっとミロ様のこと……待ってました……それなのに、私……ごめんなさい……」

エリザベッタは口からは血を噴き出して動かなくなった。胸に抱くエリザベッタは少しづつ僕の魔力に飲まれて消えていく。


「僕の全てが零れ落ちていく……」

周りを見渡すとそこにはもう教会はなくなっており、僕を中心にクレーターが出来ていた。



 僕は教会のあるレウスの街を後にして、空を転移し続け、山々に囲まれた城に着いた。その城は誰もいなかったので、その城で自分の魔力をコントロールできるように何年もの歳月を費やし、僕の感情が平静であれば、これまで通り、空間魔法は使えるようになった。また、邪魔な魔物や人間が城に入ってくるので、城をダンジョン化して魔物を大量に発生させることにした。 


 思いついたかのようにいつかの孤児院へ転移し、外から中を覗くと子どもたちの声が聞こえた。

「エリスまってよー」

「イーニャになんか追いつかれないよーだ。」


「エリザベッタ…イレーネ……」

2人にとても良く似た子供達だった。この子供たちにこの孤児院が役に立ってよかった。


 僕は孤児院の入口に白金貨を10枚置いて立ち去ることにした。


 僕は屋敷の中で感情を表に出さないように暮らしていたが監視していた魔物から通信が入った。

「この城の南で人間どもの戦線が張られ、大量にこちらの魔物が討伐されているようです。」


「そうか……せっかく落ち着いて暮らしていたのに……」


僕は上空から落下しながらその海から海まで続く戦線を確認した。

「あそこが中心ですか。」

長い日本刀を振り回してこちらの魔物を斬る気配があまり感じられない男と真っ赤な髪の角を生やした女の前に転移した。


「五右衛門、こいつ…魔王だぞ。気をつけろ。」

僕は魔王と名乗ったことはなかったが、赤髪の方は凄まじい魔力を感じる。


 赤髪の女は魔力を溢れ出して真っ赤なドラゴンになり、炎が濃縮されたレーザーのようなブレスを放ってきたが、丸ごと亜空間に収納して、そのまま赤色のドラゴンも収納した。


 次の瞬間、五右衛門と呼ばれる男は僕の間合いに入り、首を狙ってきた。


しかし、首をすり抜け空振りに終わる。

「確かに斬ったはずだが……」

男を収納しようとしたが(かわ)されて半身だけ収納してしまった。


 収納してわかったがこいつ等はなにかに操られている、いや血で従属させられているのか。


 次の瞬間、何者かが転移で目の前に姿を現した。こいつが血の主か。僕の城を大量の魔物を操って囲んだ元凶か。くそくそくそくそ!


「あなたがその血の持ち主ですか。随分と楽しんでいるみたいですねぇ。あなたのものは全ていただきます。はははははっ!」


 僕は自分の体から魔力を込めた霧を発生させる。僕から溢れる魔力には他の転移を妨害する力がある。こいつみたいに丸腰の奴はだいたい亜空間に武器を仕込んでいる。僕は魔力をこの男に(まと)わせ、呪いのように染み込ませる。


 この男の力は危険だ。すぐに片付ける必要がある。男の胸元から心臓だけを僕の手の上に転移させた。


 男は崩れ落ちたので、トドメを刺そうと思ったが、いつの間にか消えていた。転移は使えないはずだが。


 あの怪我では自由に動けまい。僕はやつの心臓を使い、近くの魔物を従わせた。すぐに心臓は動かなくなり、使い物にならなくなってしまったが、赤い鬼やアースドラゴン、金色のサハギンなどの強い魔物には僕の脅威となるものを排除するように命令した。


 僕はまた亜空間の屋敷に引きこもり、時間停止亜空間の女たちを(もてあそ)んだ。



 − 6年後 −

野放しにしていた魔物が次々と討伐されていると魔物から通信がはいった。金のサハギンや、鬼人、アースドラゴンなどの兵を総括する魔物が短期間の間にやられている。


 また、僕を脅かす誰かが攻め込んできているかもしれない。


 通信で連絡のあった、オビエドの近くに転移すると、500人ほどの軍が待機していた。城壁の上の奴が元凶か。僕は中心に立つ男から少し離れた位置に転移した。

「あなたですか。僕の手下を殺した人は。この前、処理したはずなのにすぐ次の人が出てくる。面倒です。本当に……。あれ、飛べないぞ。どうしたんだ。」

どういうわけか、転移ができない。するとすぐに3人が斬り掛かってきた。見えないほどの連撃だが、僕には亜空間の障壁がある。剣は僕をすり抜けて当たりはしない。


「仕方ないな。これを出すのは久しぶりだ。」

理屈はわからないが危険なやつだ。次元を斬る剣を亜空間から取り出した。


 僕は斬り掛かってくる1人を横に薙ぎ払う。剣を受けようとするが剣を斬り、腕を切り落とした。

「あれ、よけられたのかな。おかしいな。」

胴体を真っ二つにしたと思ったのに躱されたようだ。


「気をつけろ、あの剣、時空ごと斬られるぞ。」

いつの間にかライオンの獣人が増え、斬りつけてきた。数は増えても亜空間の障壁を破れるわけではない。



 僕の腕が宙を舞っているのに気がついた。僕は咄嗟に飛んでいる腕を抱えた。亜空間の障壁で攻撃は到達しないはずだ。

「どうして…そんなはずない…」



「来い!五右衛門(ごえもん)!」

後ろで誰がか叫ぶと自分の内臓の中を(うごめ)くような感覚があった。何が起こっているんだ。


 線状に後ろで空間が開き、着物を来た侍が這い出てきた。亜空間を斬る武器を持っているのかもしれない。一旦この場を離れたほうがいい。


 転移はできないため屋敷へのゲートを開いた瞬間、ゲートを貫き、僕の体を剣が突き刺さった。

「随分と世話になったな。死ね。」

そう後ろから言われて振り返ると以前、心臓を転移で抜き取った奴だった。……生きていたのか。


 体の自由が聞かない。僕は死ぬのか……。


 立つことが出来なくなった僕は地面に倒れ、池のようになった自分の血の中で目を閉じた。


 僕はこの世界に何も残すことができなかった。ただ力におぼれ、誰かを守れず、大切な人も僕の力で失った。瞼の裏に孤児院で遊ぶ2人の少女が見える。


「あの子供達は何と言う名前だったか…………」

 お読み頂き、ありがとうございました。

 面白かったら、「いいね」と「ブックマーク」、

✩✩✩✩✩を★★★★★にお願いします。

挿絵(By みてみん)


 本編は

「俺の血を飲ませて秘書系美女たちを従属させていく異世界生活」

で御覧いただけます。ぜひそちらもお読みください。

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