第15話 魔王ヴァネッサ
亜空間屋敷のベッドでカーラを抱きしめながら目覚めると何か嫌な感じがしたので、時間停止亜空間の中に転移した。
時間停止亜空間の中は人や物がときの止まった中で浮遊しているのだが、動いている何かが見えた。それは僕がためていた硬貨をバクバクと食べるのに夢中なようで、こちらに気付いていないようだった。
亜空間の中に侵入されたようだ。僕は気付かれないようにそのゴツゴツした一角兎のような生き物の首だけを亜空間外に送るとボトっと首を落とした。
近寄ってみると体が鉱物でできているような2mほどの生き物だった。レウスの武器屋でその事を話すと次元獣という亜空間を破る特殊な魔物なようでドワーフに素材を持ち込んで武器にしてもらったらいいんじゃないかと相談を受けた。
ドワーフは隣の大陸にいるらしく、聞くとユースの町の北だと言うのでユースに転位して、チェチーリアのドラゴンで北を目指す。
「ご主人様、チェチーリアのドラゴン役に立っていますか?今日も注入してもらえますか?」
ドラゴンの上でチェチーリアを前に抱いて少しづつ魔素を注入すると体を震わせた。
「ご主人様、すぐしたくなっちゃいます……」
チェチーリアといちゃいちゃしながらドラゴンに乗っていると火山が見えてきてその麓に町が見えた。
ドラゴンを降りて火山麓に町に入る。町はムールという名だった。ムールの街はいたるところに鍛冶屋があったのでどの店に入ろうか迷ってしまう。
店頭に並べてある武器を見て性能がよさそうな店の中に入ってみると、背の低い、ヒゲモジャのいかにもドワーフな男性が出てきた。
「いらっしゃい。武器かい?」
「はい。この素材で作ってもらいたくてきました。」
「なんだこりゃ…初めて見るな。」
「亜空間で討伐した次元獣と言うらしいです。」
「そりゃ、おとぎ話に出てくる魔物じゃねーか……実在するとはな。どんな性能になるかはわからないが形にしてみよう。お前さんの武器を見せてくれ。」
僕は亜空間から片手剣を取り出す。
「オリハルコンか。ほとんど使われていないが吸ってる魔素が凄まじいな。」
「コイツを打ち直すがいいか?」
「はい。構いません。」
ダニオと呼ばれるドワーフに剣と次元獣を渡してムールの町をチェチーリアと散策する。小さな銭湯があったので入ってみるとそこは温泉だった。しかも混浴でチェチーリアが裸で入ってきたため、周りのおじさんたちの目を釘付けにした。
帰りに若い番頭に会った。本当は銭湯ではなく温泉を活かした旅館を営業したいと言うので、僕の中にある温泉旅館のイメージを話して100万シーロ(1億円相当)を渡した。
「よ……よろしいのですか……こんな大金……」
「頑張ってここを快適な温泉街にしてください。」
そう言ってムールの町を後にして、チェチーリアが建設中の孤児院を寄った。
孤児院に転移するとトリニダが抱きついてきて工事の進捗を話してくれた。その後、教会のマリカのところに行ったり時間停止亜空間収納に収納してあるメイドやお腹のすいたエルフを取り出して毎日を過ごした。
何日かするとムールのダニオから連絡があったので工房に向かう。
「おっ来たな。ようやく剣ができたぞ。次元獣の素材が扱いにくくて時間がかかっちまったが良い仕上がりになったと思うぞ。多分としか言えないが鑑定上、亜空間を斬る事が出来るはずだ。」
僕は自分の亜空間の中に入り、剣に魔力を流して横薙ぎに払う。すると横位置文字にムールの街が見えた。本当に亜空間を斬っている。すぐに亜空間すべてのものを時間停止亜空間に入れて、亜空間を再構築した。
その後、森の中の遺跡に転移した。行き止まりで行けなかった場所だ。僕は次元を斬る剣を上に振りかぶり、真下に振り下ろした。
不思議な手応えでまるで手応えがないが、目の前の壁は膜がはがれるように縦に線が入った。その後、壁を蹴破り、壁の先に進むと小部屋にたどり着いた。部屋の中心には丸い野球ボールくらいの大きさの七色に光る水晶玉が置いてある。
水晶玉を手に取ると、この遺跡の情報がが頭の中に飛び込んできた。階層を増やしたり、地形を変えたり、魔物を増やしたりする事が考えるだけで出来るようでこの遺跡の管理水晶のようだ。僕は遺跡の中の魔物をすべて一箇所に集めた。この遺跡の中のサイクロプスやギガンテスなど何百といる巨体達をまるごと収納した。
水晶玉を、持って外に出ると遺跡が崩れてしまったが、ダンジョンを再構築するかと、頭に呼びかけられた。どうやらここはダンジョンらしく、この水晶がダンジョンコアでどこにでもダンジョンを、作れるのもののようだ。
ダンジョンコアを亜空間に収容して、ムールの街に戻るとエリザベッタから通信が入ったようだが何も言わずに切れてしまった。
慌てて診療所へ行こうとしたが魔力を練ることができない。
「私のダンジョンを壊したのはお前か。」
目の前に大きな角を生やした黒髪の女性が現れた。
「私は魔王ヴァネッサ。身の程をわきまえるが良い。人間よ。」
とてつもない魔力量だ。僕は空間魔法で収納、転移をしようとしても魔力が上手く使えないみたいで何もできない。魔力に当てられて体が震えてしまっている。
ヴァネッサが僕に手を向けると激しい痛みの中、時間停止亜空間の中に強制的に転移させられた。
僕は魔力のコントロールが、うまく出来なくなり、亜空間の中に溜め込んだ魔素が強制的に僕の中に濁流のように入り込んだ。
「ああああああ!」
鼻や目や耳、爪から血が溢れてくる。目を押さえないと目が破裂しそうだ。
暗闇の中一向に収まることのない痛みに苦しみ続けた。
何日か何十日かわからないが体が破裂しそうな日が続き、ようやく収まると体がだるくうまく動かせない日々が続いた。魔力を、練ることもできないが、空腹や脱水症状にもなることも無くなった。
僕はどうなってしまったのだろう。エリザベッタのことが気になるが外に出ることもできない。
魔王ヴァネッサ