第11話 スタンビート
「ご主人様…ひどいです…」
朝起きるとエリザベッタが少し拗ねていた。昨日ベッドの下でさわがしくしていたので起きたのだろう。抱きしめて、キスをすると機嫌は直り、抱き返してきた。
親子はもう起きていて、テントの外で子どもを遊ばせていた。朝食を出して、食べていると時折、母親が僕の方を見て照れて視線を外した。
襲ってくる魔物や盗賊は見えた瞬間に亜空間に収納したため、なんの障害もなく馬車は進んだ。
夕方にはレウスの街が見えてきたが遠くからでもわかるほど中心の城が大きく高い。その城を中心に街が広がっており、その大きさは今まで暮らしたビトリアの街の比ではないほど大きい。
馬車から降りて門兵に100シーロ(1万円相当)を払い、街の中に入ると、城壁で見えなかった美しい街並みを見ることができた。城門からまっすぐに繋がる街道は広く、馬車と歩行者がゆったりと行き来していて、人通りも多い。店先では売り子が声をかけていたり、オープンテラスのように店先で飲食している人たちが見える。
一緒にいた親子はここで別れて、エリザベッタについて依頼を受けていた商工組合へ歩いていくことにした。
商工組合は3階建て木造の大きな建物で、門兵にエリザベッタが名を告げるとすぐに中に通された。3階まで階段で上がり、1つのドアをノックする。
「エリザベッタです。南の森の報告にきました。」
「入れ。」
「オーク大量発生の件ですが、森の奥のサイクロプス増殖が原因と思われます。」
「そうか。それでその少年は?」
「僕はミロと言います。今回、エリザベッタの調査をお手伝いさせていただきました。エリザベッタの言うサイクロプスの奥には進化種のギガンテスが大量にいました。」
「そうか。それでは君はサイクロプスもギガンテスも倒せると?」
「はい。」
「サイクロプス1匹倒すことすら、一部例外を除き、何人もの冒険者でやっと倒すのが現状だ。そこで君にはサイクロプスとギガンテスの討伐を依頼したい。」
「僕は冒険者ではありませんので、その依頼は受けることはできません。」
「まあ、あまり固く考えないでほしい。依頼といっても正式なものではないからなるべく多く狩ってもらうだけでいい。それだけでもこの街の安全に直結する。報酬は買取価格に上乗せさせてもらう歩合制だ。」
「それくらいでしたら構いませんよ。」
「そうか。素材買取所にこの札を見せてくれればいい。」
エリザベッタと扉開けて商工組合を出ると窓から先程の男が二人を見下ろしていた。
「この街の存亡はあの少年に託されているかもしれんな……」
レウスの街は中心の城以外にも大聖堂や大規模商店など大きな建物が多い。ビトリアの質素な教会がおもちゃに見えるほどだ。
教会の中に入ろうとすると寄付金を集めるシスターに半強制的に寄付をさせられた。中に入ると正面に大きなステンドグラス、何かの神様の像がある。近くにいたシスターに聞くとユーピテルという世界の守護神らしい。
僕には関係のないことだがキアラの教会の運営を見ているので教会にはいいイメージはない。どの教会関係者も綺麗な服を着て、年上の人ほど太っている人が多い。
帰り際に若いシスターに再度寄付をしたいと申し出て、白金貨を10枚、10万シーロ(1000万円相当)を渡す。
「きゃ!白金貨!」
静かな大聖堂に大きな声が響き、近くの一際豪華な服を着た司祭らしき老人が声をかけてきた。
「そんなに大きな声をあげるものではありません。どうしましたか。」
「すみません…あまりに多額の寄付金を頂いたものですから…」
「こんな大金をありがとうございます。私はこの教会の司祭をしております、カルロと申します。よろしければ奥でお話させてくださいませんか。」
「わかりました、僕はミロと言います。」
奥のドアから廊下を通り、一つの部屋に入ると凝った調度品、絨毯などがある。まるで貴族だ。
「本日は多額のご寄付を頂きありがとうございます。多額の寄付をいただいた方にはこのロザリオをお渡ししております。」
カルロから金のロザリオを渡される。ロザリオには守護神ユーピテルが祈るトップが付いている。
「このロザリオを持つものは1級信徒と呼ばれ、神からのさらなるご加護を得られます。」
そのあと長い話を聞かされてエリザベッタと教会を出た。
「ミロ様、一級信徒なんてすごいですわ!金のロザリオなんて私始めて見ました。」
「そうですかね…」
僕は金のロザリオをエリザベッタにつけてあげた。
「エリザベッタに加護があるといいね。」
「わっ私なんかが……」
エリザベッタは自分の首から下げられた金のロザリオを手に取り、うっとりと眺めている。エリザベッタには悪いが寄付金の多い少ないで信徒に階級を与えるやり方が気に入らない。そして寄付金を使って自分たちの身の回りを豊かにする教会関係者、宗教を金儲けのツールとしているとしか思えない。
その後、エリザベッタと素材買取所へ向かう。素材買取所も大きな建物で大勢の人で賑わっていた。
「あ!エリザベッタ!」
遠くから黒髪の少女が人をかき分けて走ってきた。
「最近見なかったじゃない!モレノは?」
「モレノは……」
「そう……今、オーク大量発生の緊急依頼が出ていて、冒険者がみんな招集されているんだ。」
「そうなんだね。私は冒険者はやめようと思っているの。このミロ様に救っていただいて、診療所をビトリアで開く準備をしているの。」
「エリザベッタは治癒士だもんね。いいと思う。ミロさん、私、セレナと言います。エリザベッタのこと、よろしくお願いします。」
エリザベッタの妹のようなかわいい少女は素材買取所のカウンターに並ぶ仲間のところへ戻っていった。
「エリザベッタ、込んでいるようだからまた、出直そう。」
人でごった返している素材買取所を後にして街道をエリザベッタと歩く。エリザベッタはセレナのことやモレノのことを思い出しているようでぼーっとしてしまっている。
しばらく歩いているとどこからか鐘を鳴らす音が響き渡った。
「ミロ様!魔物侵攻の鐘です!」
「そうか、もうこの街までサイクロプスが来たのか。向かおう。」
僕はエリザベッタとともに、鐘がなるほうへ転移していって、鐘が鳴る塔の屋根上まで転移した。
塔は城門の上に建てられており、そこから監視して、鐘を鳴らす仕組みになっていた。
塔の下をのぞき込むとオークが城壁を囲み、地面を覆い隠してとんでもない数になっている。オークの上にオークが乗り、高さ約10mの城壁を乗り越えてなだれこんでいる。遠くに見える森のあたりにはサイクロプスが列をなしてこちらに向かってきているのが見える。
城壁の外側に落とし穴のようにゲートを開く、なるべく大きく念じると縦10m横100mほどのゲートを開くことができた。そのゲートから次から次へとオークが落ちて行って時間停止亜空間に放り込まれていく。それにしても数が多すぎる。地平線まで続く城壁いっぱいにオークが連なっている。
ゲートを開いた場所以外からオークが次々と城壁の内部に入っていっていくのが見える。
「な…なんてこと…」
「エリザベッタ、僕のそばから離れないでください。守れなくなります。」
「わ、わかりました。」
オークは城壁の中で住人を追い回しては持っている斧や片手剣、拳で頭をたたき割ったり、泣き叫ぶ女の服を剥いで覆いかぶさってている。
その中に先ほど素材買取所にいたセレナがいた。セレナの仲間はすでに頭から血を噴き出して地面に転がっている。セレナはオークに服をひきちぎられてオークに覆いかぶさられて、その真っ白な素肌を蹂躙されている。
「セレナ!」
エリザベッタが塔から乗り出そうとしたのでエリザベッタの手を後ろから取ってセレナの元に転移した。巨体をセレナの華奢な体に打ち付けているオークを片手剣で両断した。
「セレナ……」
「エリザベッタ……見ないで……うぅ……」
セレナを取り合えず時間停止亜空間に収納する。周りを見ると街の冒険者はオークと戦っている者もいるが、次々と瞬殺する実力がない者は数の脅威で次々と血飛沫をあげて地面に倒れた。
次の瞬間、空からヒューッという音がいくつも響くのが聞こる。空を見上げると炎を纏う大量の隕石が城壁の外に降り注いだ。
「隕石魔法か……」
城壁上に転移して城壁の外を見ると隕石が地面に落下した衝撃でクレーターができ、隕石周辺の魔物は消し飛び、その破片でオークを戦闘不能にしている。
僕は大量のギガンテスやサイクロプスを上空から雨のように降らせて、地面にいる魔物もゲートの落とし穴を移動させて次々と魔物を収納していく。
城壁の横を見るといつのまにか何人ものエルフが整列し、構えて次々と矢を放っていた。矢は着弾と同時に大きな爆発を起こしている。隕石魔法はその後も絶え間なく降り注いでいて、城壁を壁に背を預けて、真っ黒な鎧に身を包んだ騎士が次々とギガンテスを葬り去っているのが見える。
城壁の上を転位して見て回ったが、鐘が鳴った南側の城壁に魔物は集中しており、他の被害は少なかった。城壁の中も腕の立つ冒険者が頑張ったようで掃討は終わったようだ。
「ミロ様お疲れ様でした。私の街を救って頂き、ありがとうございました。」
エリザベッタに抱きつかれたので、抱きしめ返して、キスをする。