第10話 エリザベッタ
朝起きるとカーラが僕のほうを見ていた。
「ミロ様…娘のこと…お願いいたします。」
「イレーネは奴隷から解放しましょう。」
「ありがとうございます。私はあなたのものとしてこの身を捧げます。」
ゲートから診療所2階に出るとイレーネがゲートの見張りをしている。
「ご主人様、おはようございます。」
「イレーネ、ついてきてください。」
2人で診療所を出て、奴隷商の館に入る。
「いらっしゃいませ。イレーネはうまくやっているでしょうか。」
「はい。とてもよくやっています。今日はイレーネの奴隷を解放しにきました。」
「えっ…ご主人様……」
「ミロ様、かしこまりました。」
「ミ…ミロ様……どうして…私…何か至らぬところがあったでしょうか…」
「イレーネ、あなたの働きが悪いわけではありませんが、あの診療所の2階にずっといてもらうにはもったいない人物と思っただけです。」
「ミロ様…私はミロ様の奴隷になったことを後悔したことはありません。母の病気を治すために、薬屋に出向き、材料を調達しに森に入ったこと、エリザベッタを手配頂いたこと、呪いをかけた組織に交渉に行ったこと、トリニダに全て聞きました。
私は一生あなた様のおそばに仕えたいと存じます。どうか奴隷契約はそのまま、私をおそばにおいてください。」
「イレーネ、君の覚悟は受け取りました。今後は私の奴隷ではなく、私の騎士としてずっとそばで支えてください。」
「あっ…ありがとうございます。」
イレーネはその場で跪いて頭を下げた。頰を伝う涙が床にポタポタと落ち、すぐに床に染み込んでいった。
その後、跪いたままのイレーネと奴隷契約の解除を行った。
「戦闘奴隷を買いたいのですが、見せてもらえますか。」
部屋に入ってきた奴隷からイレーネに3人選ばせた。前回見た時よりもいい奴隷が入っていた。
「イレーネ、この者たちにあのゲートを守らせてください。あと、優秀な人材がいたら私に教えて下さい。」
イレーネにゲートを任せて、診療所へ顔を出すと、エリザベッタがすぐに駆け寄ってきた。
「ミロ様、診療所の開設はもう少し先になりそうなので、私が拠点にしていたレウスの街へ行きたいと思いますがよろしいでしょうか。」
「はい、いいですよ。私もレウスの街に興味がありますので案内してもらえますか。」
「はい、よろこんで。」
エリザベッタはゲート守備の手配を奴隷達に指示して、僕と乗り合い馬車発着場へ向かった。
「いらっしゃい。レウスの町まですぐ出られるよ。」
「2人頼む。」
エリザベッタに渡しておいたお金から100シーロ(1万円相当)を支払い、乗り合い馬車に乗ると他にも5人ほどの同乗者がいた。
僕たちが乗るとすぐに馬車は出発した。エリザベッタは僕の隣に座っているが、場所に余裕があるのに横にピッタリと密着して座っている。エリザベッタはとても真面目な顔で周りを警戒しているようだ。
護衛らしき冒険者として2人、親子が2人、商人が1人乗っている。街道を馬車が進み、しばらくすると馬車が急停車した。
「護衛の方、盗賊かもしれません。」
御者が後ろを向いてそう言うと、護衛の2人が馬車を降りた。
馬車から外を覗くと前方から2人が近づいてきているがただの通行人の雰囲気ではない。武装しているし、剣を抜いている。護衛が気づいているかわからないがすでに20人ほどに囲まれている。あの護衛だけでは無理だろうな。
「旦那様、危険です。私の後ろに。」
「エリザベッタ、盗賊のアジトを突き止めたいので、一度、屋敷に戻ってもらえますか。」
「旦那様が危険です。私がお守りします。」
「僕は特殊な力を持っていてね。これくらいの連中なら何百人いても敵じゃないですよ。」
「わっ、わかりました。」
驚くエリザベッタを診療所へ転移させる。
外を見ると護衛2人は森に潜んでいた数人に斬られ、倒れて動かなくなっている。盗賊が馬車の中に入ってくると子どもをかばった父親が剣で刺された。
「この子ども2人は売れそうだな。お前も金になりそうだ、ついて来い。」
盗賊たちは馬車と護衛、御者を指輪に収納して痕跡を消し、目隠しをされた僕たちはしばらく悪路をつまづきながら歩かされた。
しばらく歩くと目隠しを取られた。そこは洞窟の中で、商人は身ぐるみを剥がされて、収納の魔道具から様々な物資が出されているところだった。
「お願いです。それは差し上げますから、命だけはお助けください。」
膝をつく商人の後ろから盗賊によって首を切られ、ゴロゴロと地面を首が転がった。
「きゃ!もういや…」
一緒に連れてこられた17歳くらいの少女は、ずっと震えて静かにしていたが、転がる首を見て大きな声を出してしまい、盗賊に頰を叩かれた。
「大人しくさせておけ。」
そう言うと、周りにいた盗賊がニヤリと口角をあげて、少女に近づいた。
3人の盗賊が首を振って抵抗する少女の頰を何度も叩いて言う事をきかせた。
「うぅ…もうやめて…家に返して…」
頬が赤くなり、涙が顔を横向きに流れる。叩かれるのが嫌なのか、抵抗をやめた少女を舐めたり、撫で回したりして、遊んでいる。
少女はその後、洞窟にいるほとんどの盗賊の相手をさせられ、震えながら横たわっている。少女と僕は手を縄で縛られて洞窟の奥に連れられていった。
洞窟の奥には他にも捕らえられていた人たちがいて、年上の女性や少女、少年など10人くらいが、俯いて生きる気力を失っていた。
その後、盗賊は思い出したように姿を表し、そのたびに悲鳴が洞窟に鳴き声や悲鳴が響いた。
僕は僕と一緒に捕らえられた少女と亜空間の屋敷に転移した。
「あれ……ここは……」
「ここは僕の屋敷ですよ。」
「た、助けて頂いたんですか。あっありがとうございます。うぅ…」
少女はステラと言う名前らしく、震えて、ベッドでうずくまっている。
ステラ
後ろから抱きしめてやり、頭を撫でてやると声を出して、泣き出した。
しばらく泣いたあと、こちらを向いて見つめてきたので顔を近づけると目を瞑って僕を受け入れた。そのまま、屋敷のベッドに寝かせておいた。
その後、洞窟にもどり、盗賊をバラバラに収納していく。盗賊の頭の部屋には宝箱が置いてあり、白金貨など大量の硬貨、魔道具が置いてあった。全て亜空間に収納してビトリアに戻ってエリザベッタと再び乗り合い馬車の発着所に向かい馬車に乗ることにした。
「ご主人様、大丈夫でしたか。」
「はい。手応えのない連中でしたが少女以外殺されてしまいました。」
「そうでしたか…」
エリザベッタは死んだ人のことを思い、黙祷している。
馬車は途中で1日野営することになった。転移で戻ることもできたが、そのまま野営することにした。同乗者はそれぞれ持ってきている携帯食を食べたり、焚き火をして、干し肉を炙ったりしている。僕はトリニダやオルテンシアが作ってくれた料理をテーブルに並べて、食べることにした。
「あの…少し分けていただくことはできませんでしょうか。」
同乗していた母子が声をかけてきた。子どもが僕たちの料理を凝視している。
「ええ、いいですよ。座ってください。」
「わがままを言って申し訳ありません。急に出ることになり、食事を持ってくることができなくて…」
女の子は並べられた料理をガツガツと食べて
お母さんがオドオドと僕たちのことを気にしながら食べている。
母子はテントも無いというので僕たちのテントに入ってもらうことにした。亜空間の屋敷から持ってきた大きなテントで5m四角ほどある。テントを出したあとはベッドやテーブル、絨毯を亜空間から出して設置する。
「こんなすごいテント始めて見ました。貴族の方でしたか…様々な失礼、申し訳ありませんでした。」
喜ぶ子どもとは逆にお母さんは顔を青くして外に出ようとしたので、腕をつかみ、テントから出るのを止める。
「僕は貴族ではありませんよ。気にしないでください。」
ホッとする親とベッドで寝転ぶ子どもをイレーネと眺める。
この親子は魔物が森で大量発生している話を聞いて慌てて街を出てきたらしい。サイクロプスやギガンテスのことかと思案しながら紅茶を啜った。
カンテラを消すと真っ暗になった。ベッドはあえて2つしか出しておらず、エリザベッタは床で寝ると言ったが僕が命令してベッドで寝かすことにした。エリザベッタは恥ずかしがり、ベッドから落ちそうなところで横を向いて寝ている。
しばらくしてエリザベッタのお尻をサワサワと触る。
「駄目ですよ…親子が、寝ています…明日ならどんなことでもしますから…」
小声で消え入りそうな声で囁くエリザベッタを構わずに撫でていく。
エリザベッタは震えて声を出さないように我慢している。服と布団を収納すると、すべすべの温かい素肌の感触がある。
「ミロ様…声が…出ちゃいます…んっ…」
「エリザベッタ、我慢してください。親子に聞こえますよ。」
エリザベッタの横で寝ているとベッドの横から母親が顔を出しているのがわかった。母親はそのまま僕の顔を片手で持ち、キスをしてきた。僕の体をベッドから少しづつ下ろしていき、床に寝かせられた。
「私達がいるのにあんな事するなんて…我慢できなくなるじゃないですか…」
そのまま2人で床に横たわった。