72 フルフトバールで魔獣狩りだぁ! そのじゅうに
「母上は王立学園に入学するまで、社交シーズンで王都のタウンハウスには居たけれど、基本的にフルフトバールから離れなかったみたいなんだよね。おばあ様が自分の傍から放したがらなかったんだって」
この辺のことは、おじい様も他の人たちもあんまり教えてくれない。
何かあったんだろうなぁ、とは思う。
「だから、婚約が決まっても、わざわざ王都のタウンハウスに居を移して、王宮に通って王妃教育を受けるなんてことはしなかったそうだよ。その代わり、王宮から年配の女官と、家庭教師が派遣されたんだってさ」
女官の方はこれから王族となるべき相手の補佐で、家庭教師の方は国外情勢の勉強を受けさせるために派遣されたんだと思う。
母上は侯爵家だから、生まれながらにして高位貴族のマナーを学ばされたし、教育だって他に跡取りがいない状況だったんだもん。
領地のことや国内の貴族情勢もろもろのことは、受けさせられていたんじゃないかなぁ?
「幼い頃に婚約が決まって、王妃教育を受けさせるために王宮に通わせるっていうのはさ、ほとんどの場合、家族関係に問題があるからだと思う」
「どういうことだよ?」
口を挟んでくるテオに僕は答える。
「だから『王妃教育』を受けさせるっていう建前で、血縁関係者と引き離して王城住まいにさせるってこと。よくよく考えてみてよ。十年もかけなければ履修出来ない王妃教育って、なに?」
そう言った途端、みんな黙り込んでしまった。
「貴族と王家の教育は確かに違うよ? マナーなんかも傅くものと傅かれるものは違う。でもそれならさ、王族の教育係を派遣させればいいだけの話だよね? あとは王妃教育って、結局のところ王家の人間としての心構えとか、対他国王家への外交に必要な知識になるわけ」
その場合、まず言語と周辺諸国の情勢と、その国ではタブーにされている仕草とか、王家の人間に、これは絶対やっちゃダメってことを覚えるわけだけど、そういうことって大体その人たちと会う時に準備として覚えることだし、言語の方は最低でも共通語を取得していれば大丈夫なんだよね。
「いやいやいやいや、ちょーっと待て」
再びテオが待ったをかけてくる。
「確かにアルの言う通りかも知んねー。でも、ほら、よく王妃教育の中には、門外不出の王家の秘密があるから、それを知ってるから婚約者を代えられないとか、婚約者を代える場合は、毒杯を受けなきゃいけないとかあるじゃん? それはどうなんだよ」
「ないよ、そんなもん」
テオが言いたいのは、それがあるから、ヘッダは王妃教育を受けていないんじゃないかって言いたいんだろうけど、違うんだよなぁ。
「はぁ?! どういうことだよ」
「そもそも、『王妃』っていうのは、元はその国の王族ではない人間なんだよ。国内国外どっちかわからないけど、まぁ高位貴族からお嫁さんを貰うから『王妃』なわけ、それはわかるよね?」
「あったり前だろ! それぐらいわかってる」
「外から来たお嫁さんにしか知らされない、その国の王家にとっての門外不出の秘密って、なにさ」
ラノベなんかでよくある設定で、小さい頃に婚約して、王宮に通って王妃教育を受けて、その王妃教育には外部に漏らせない秘匿があって、だから教育を受けた令嬢は婚約破棄もしくは解消させられたら死ぬしかないとかあるけれど、あれは完全にフィクションだから。
実際のところは、外部に漏らしてはいけない秘匿があったとしても、そんなの王妃になる前の相手に教えるわけねーのよ。
教えるとしたら王妃になったあと。
王妃って嫁いだら、もう死ぬまで王妃やるしかないから逃げられないでしょ。
離縁だってできねーのよ。どうしても別れたいって場合は、それこそ病死するしかないよね。
それだったら籍入れたまま、別居婚でいいんじゃねーの?ってなるじゃん。
頭のいい人ならそっちを選ぶよ?
そもそもそーいう門外不出の秘密なんてものは、普通は直系王族、それも王となった者だけが知らされるもんであって、婚約者の段階で教えたりしたら、どんだけ情報管理を疎かにしとるんじゃいって話になるじゃん。
「だからさ、それもさっき言ったのと同じに、そういう建前で、国の外に出したくない相手を囲っておくってことなんだよ。その場合、王家との結婚が一番手っ取り早いでしょ?」
僕の説明に、テオとクルトは顔を引きつらせて、リュディガーとマルクスは顔を青くさせる。
イジーはさすがに王族だから、まぁそうだろうな思っている様子で、ネーベルも僕との付き合いが長いから、これぐらいのことでは動じなくなっている。
「まぁいろいろ言ったけれど、そもそもギフテッドでジーニアスなヘッダには、王妃教育をする必要がないんだよ。あの子、一回教われば、全部頭の中に入っちゃうし」
そして僕は、イジーを見る。
「だからイジーが気にしている、王妃となるべく課せられているものっていうのは、ヘッダにはないけど……。う~ん、それでも気になるようなことがある?」
もしかして、心の……というか、気持ちの問題かな?
王妃になれないヘッダが可哀想だから……なんて言ったら、さすがに、お前はどんだけ自惚れてんのかと怒らなきゃいかんけど、イジーはそんな考えをする子じゃないと思うしなぁ。
「よく、わからないです」
イジーの反応に、思わずテオと顔を見合わせてしまう。
「でも、話をしなきゃいけないのは、ちゃんとわかってます。わかってるんですけれど……」
もしや、もしや。
「先に言っておくけど、その話し合いに、僕やテオを同席させるのはなしだからね?」
僕がそう言った途端、イジーははじかれたように顔を上げて、そしてテオは『なんでー?』って言いたげな顔をしてる。
もー!!
この話は、イジーとヘッダの将来の話なんだから、まず二人が話し合わなきゃダメだって、言ってるじゃんかー。
その話し合いに、他の人を入れてどうするんだってーの!!





