63 フルフトバールで魔獣狩りだぁ! そのさん
安地拠点に到着したので、スレイプニルが牽く荷車から荷物を降ろすのを手伝いながら、ふと疑問が浮かぶ。
そういえば、スレイプニル……魔獣なのに、安地拠点の魔獣除けに反応しないのはどうしてなんだろう?
まじまじとスレイプニルを見てると、ネーベルに声を掛けられた。
「アル? どうしたんだ?」
「スレイプニルが魔獣除けに反応しないのは、なんでだろうって思って」
「いわれてみれば、そうだな。普通なら足を止めてもおかしくない」
「スレイプニルには、魔獣除けを相殺する魔石を付けさせているんですよ」
背後から声をかけられて、ネーベルと同時に振り向くと、そこにいたのは、とても魔獣狩りをしているとは思えない優しい雰囲気の、細目の男性。
「トレッフ!?」
「お帰りなさい、若殿」
「俺もいますよ~! 若殿~!」
トレッフの後ろから顔を出したのはピート。
「ピートも? どうして?」
二人ともいつもは不帰の樹海の深層に潜っている、魔獣狩りのエキスパートだ。
前回は僕の初狩りの儀をしなければいけなかったのもあって、ベテランの二人についてきてもらっていた。
でも今回は、僕らもだいぶ魔獣狩りに慣れてきたし、精鋭である二人をわざわざ僕らに付き合わせるのもってことで、インストラクター役はフェアヴァルターとゲルプに頼んだのだ。
「も~! 若殿、水臭いじゃないですか! 若殿が不帰の樹海で魔獣狩りするなら、俺たちも同行します!」
ピートはちょっと興奮気味に言う。
「でも、ピートたちも深層での狩りがあるんじゃ?」
「俺たちのグループは長期で深層に潜っていますからね。潜ってた期間と同じ日数の休暇に入ってるんですよ」
今度はトレッフが答える。
休暇なら、なおさら自宅でゆっくりしていた方がと思ったんだけど、トレッフとピートぐらいになると、中層の魔獣は単独で狩れてしまうらしい。
「主君にも許可をいただいてるので、安心してください」
おじい様が許可を出してるなら、僕に否はない。
「付き合ってくれるのはありがたいんだけど、でもトレッフたちには、物足りないかもよ?」
ベテランのトレッフとピートには、中層の魔獣は手応えがないんじゃないか?
そう思っていたら、二人とも笑顔を見せながら言った。
「今回の俺たちのメインは、若殿の魔獣狩りの見学です」
「前回それどころじゃなかったですからね」
うわっ、ベテランの余裕。
まぁ、四年前は、早々にヒポグリフと遭遇して、もう何が何だかわからない状態で討伐戦に入っちゃったし、何とか倒したと思ったら、僕とネーベルはシルバードラゴンのところに飛ばされたし。
二人がいてくれるなら心強いのはたしかなんだよね。
「荷降ろし手伝いますよ」
そう言ってトレッフとピートも荷降ろしを手伝ってくれる。
僕とネーベルも、引き続き荷降ろしの作業を再開した。
「では設営を始めましょう。日が傾く前に、寝床を整えます」
安地拠点は、森の奥とは思えないほど開けた場所で、周囲を石垣で囲い、中には簡易の炊事場と半ば常設になってる天幕の骨組みがいくつも並んでいる。
前回の使用した場所よりも規模は大きい。
前回の場所は、日帰りコースの為の休憩場所っぽい感じで、井戸や炊事場はあったけど、寝泊まりする天幕の骨組みはなかった。
フェアヴァルターの指示に従って、僕とネーベルは焚火の場所、テオとクルト、マルクスは今回使用する天幕の場所を清掃し、イジーとリュディガーは荷物の仕分けと水の確認を行う。
今回ついてきてくれたガーベルとピルツは炊事場の掃除と点検をして、フェアヴァルターは少しだけ周囲を確認してくると安地拠点から離れていった。
何か気になることでもあったのかな?
トレッフとピートは、テオたちが清掃した場所から順番に、手慣れた様子で天幕を張って、あっという間に一張り完成させてしまう。
「すげー! 俺もやる! やりたい!!」
トレッフとピートの手際の良さに、感化されたテオが自分もやりたいと言い出して、二人にレクチャーしてもらいながら天幕を張り始めた。
テオはああいうの、好きだよねぇ。
「アル、火を頼む」
「うん」
ネーベルに言われて、火打石をカチカチと打ち合わせる。
「これ、難しいねぇ」
なかなか火がつかなくって、何度目かの挑戦でようやく小さな枝に火がついた。
火がついた枝を組んだ薪の下に潜り込ませて、慎重に息を吹きかけて、酸素を送る。
「よし、火が大きくなってきた」
焚火の炎が形になったころに、見回りに行っていたフェアヴァルターが戻ってきた。
肩には小ぶりな茶色の毛玉がぶら下がってる。
「戻りました。ガーベル、これを」
フェアヴァルターがガーベルに渡したのは、角のある大兎、ホーンラビットだった。
「これはいい肉付きですね。有り難く使わせていただきます。ピルツ、下処理の準備!」
「了解!」
ガーベルとピルツは受け取ったホーンラビットを炊事場へと運んでいく。
「……ホーンラビット、食べれるんですか?」
いつの間にか傍にいたマルクスが、恐々といった様子で、運ばれて行くホーンラビットを見ていた。
「可哀想って思った?」
「いえ、メッケルの方でも、ホーンラビットは駆除対象でしたし、狩られているのは見てたので、そうは思ってません」
ホーンラビットの角と毛皮は商品価値が高いし、市場にも出回ってるから、狩ること自体に忌避感はないみたいだね。
あー、もしかして、メッケルの方では、魔獣の肉を食べる習慣がないのかな?
「魔獣の肉を食べるの初めてとか?」
そう訊ねると、小さく頷く。
「ん? いや、マルクス。お前、魔獣の肉、食べてたぞ?」
僕らの会話に、テオが笑顔で割り込んできた。
「え? 食べたことないですよ?」
「いや、食ってるよ。ブランダイヤの肉。よくディナーに出てたじゃん。お前、美味しいって言ってただろ?」
「え?! ま、まさか、あのステーキ肉のことですか?」
「そーそー、あれ、魔獣だぞ」
知らなかったって顔をするマルクス。
ブランダイヤって? もちろん魔獣だよね?
僕の顔を見て、テオが説明してくれる。
「あー、ブランダイヤってぇのは、鹿系の魔獣でさ。メッケルのトゥルム山脈がある山岳地帯に群れで出るんだ。毛並みはいいし肉の臭みが少ないから、うちではいい収入源なんだけど、あれ、冬になると山から下りて、領地の果樹園を荒らすから厄介なんだよぁ。毎年、親父たちが頭抱えてる」
「美味しい?」
「美味い」
食べてみたいなー! 美味しいお肉大好きだよー!!





