62 フルフトバールで魔獣狩りだぁ! そのに
フルフトバールに到着した二日後に、不帰の樹海へ入った。
いや、おじい様とおばあ様、それから母上やクリーガー父様と家族団欒するのは、やぶさかではないのだけれども、メッケル北方辺境からやってきたテオが、とにかくすぐに魔獣狩りをしたいと騒ぎ立てたからだ。
あと、まぁ、イジーもちょっと居心地悪かったと思うんだよ。
あ、言っておくけど、フルフトバール城の使用人の中に、イジーを敵視してる者はいないからね!
むしろ僕がフルフトバールに戻ってこれるのは、イジーが王太子になってくれるからって、感謝してる人ばかりなんだよ。
イジーが王太子になってくれるから、僕がフルフトバールに戻ることができるって、みんなわかってくれているんだよ。
でもイジーは、おじい様やフルフトバールの民は、国王陛下が僕にしていたことを恨んでいるだろうし、母上との婚約を解消してまで娶った王妃様との間にできたイジーのことも良く思っていないのでは、って考えてるんだ。
王位継承云々の話ではなく、おじい様や領民たちにとっては、大事な跡取りを虐げた原因が王妃様や自分なのでは?って、イジーは考えてるんだよ。
いわゆる、坊主憎けりゃ袈裟まで憎いってやつなのでは?ってね。
中にはそんな風に考える人もいると思うんだけど、おじい様やフルフトバール城にいる人たちはそんなこと考えてないよって言っても、気にはする。
イジーのこういうところは、すごく繊細なんだと思う。
だからテオたちが到着して、すぐに不帰の樹海に入ることにしたんだ。
不帰の樹海にある安地拠点への道は、魔獣狩りの人たちによって、定期的に整備されてるので、スレイプニルが牽く荷馬車も問題なく走らせることができる。
荷馬車の荷台で揺られながら、四年前にこの樹海であったことを思い出していると、リュディガーとマルクスがそわそわしていることに気付く。
「どうした? 寒いのか?」
二人の様子に気が付いたのは僕だけではなくイジーもで、落ち着きがない二人に声をかけていた。
「いえ、あの……。イグナーツ様は、大丈夫ですか?」
「なんだ?」
「この……樹海。アルベルト様から聞いてたから、ただの森じゃないって、わかってましたけど……」
口ごもるリュディガーの言葉を拾うようにマルクスがポツリと呟く。
「ピリピリする」
まぁ、確かに。
僕らも最初に不帰の樹海に入ったときは、肌がピリピリした。
たぶん僕らよりも、戦闘に慣れていないリュディガーやマルクスの方が、耐性がない分、より重圧を感じてると思う。
やっぱり不帰の樹海って、普通の森や山とはちょっと違うよね?
放っておくと樹海が平地の方に侵食してくるみたいだし。
しかしこの重圧を喜んでるのが一人いる。
「く~っ、これだよ。これ! やっぱ、フルフトバールの不帰の樹海は、メッケルのトゥルム山脈よりもビリビリすんだよ!」
怯えてるリュディガーとマルクスとは逆に、テオは目を爛々とさせていた。
「あの時は何にもできなかったから、今回はリベンジだ」
あー、ヒポグリフのことか。
「俺も、四年前とは違うからな」
ワクワクが止まらないと言わんばかりのテオに、クルトはやれやれと肩をすくめる。
「イジーはピリピリしない?」
イジーも魔獣狩りは初めてだから、心配で声をかける。
騎士団の人たちに稽古をしてもらってはいるけれど、王太子となるイジーにそういった危険なことをさせられないというのが、大臣たちの方針だからね。
だから魔獣被害があるところに出向いて討伐する公務は、僕がやってるのだ。
まぁそれも、宰相閣下にはあまりいい顔されてないんだけど。
「ピリピリというか、ザワザワって感じがします」
言いながら、イジーは自分の胸に手を当てる。
「気を抜くと、呑み込まれそうな感じです」
呑み込まれそう……。
うん、ピリピリ感の他に、確かに樹海に呑み込まれる感覚はある。
「それは、この不帰の樹海が、他の森や山に比べると魔獣の個体数が段違いに多いからです」
スレイプニルの手綱を握りながら、フェアヴァルターが穏やかに答える。
「すなわち、不帰の樹海は他の土地に比べると、魔素が濃密で膨大にあるということです」
フェアヴァルターの話を聞いていたネーベルが訊ねる。
「それは……昔、フェアヴァルターさんが、魔術を使わない魔獣も魔力を持ってると言っていたこと、関係しているんですか?」
「そうです。我々が水や食事を取るように、魔獣はこの魔素を体内に取り込んでいるんです」
あぁ、そうか。
濃度の強い魔素を体内に取り込んでいるから、この不帰の樹海の魔獣は、他のところの魔獣よりも強いのか。
フェアヴァルターが、周囲を見回しながら口を開いた。
「そろそろ、目的の安地拠点に到着しますよ」
鬱蒼としていた木々の密度が少し薄れて、日の光が差し込む場所が見えてきた。
四年前に使った安地拠点とは違う、もう一つの浅層の拠点。
前の拠点はここよりも、もっと樹海の入り口に近かったけれど、今度の拠点は更に奥のほうにある。
前の拠点と何か違う。何だろう?
安地拠点に設置されている魔獣除けの魔石は、いわゆる結界のようなもの。どんな魔獣も安地拠点から半径一キロは寄ってこない。
「もしかして魔獣除けの魔石の質が高い?」
僕の言葉に、フェアヴァルターが頷く。
「そうです。前に若殿が持ち帰られたドラゴンの鱗。アレを加工して、深層の安地拠点の魔獣除けの魔石を改良したので、それまで深層で使っていたものを中層に、中層で使っていたものをこちらに移したんです」
そうだったんだー。
シルバードラゴンの鱗、貰ったはいいけど僕にはどう使えばいいかわからなかったからさぁ、おじい様にフルフトバール領に役立てて欲しいって、丸投げしちゃったんだよね。
そうか抜け落ちた鱗でも、魔獣にとっては自分よりも上位種の一部だったものだ。そりゃぁ、ビビッて近寄れないよね。





