61 フルフトバールで魔獣狩りだ! そのいち
妙な噂を立てられてしまったけれど、夏の長期休暇に突入した。
王子としての公務を終わらせ、毎年恒例、王都での聖霊祭典の演武もやって、今年はフルフトバールで魔獣狩りバカンス!!
あれ? 魔獣狩りってバカンスになる? いや僕の中ではバカンス!
積もりに積もったストレスを、ここぞとばかりに魔獣狩りで発散するのだ!!
イジーのフルフトバール行きも許可してもらったし、王妃様からはすっごい分厚い手紙を渡された。
母上に渡してほしいって。
王妃様さぁ……、母上のこと好きだよね?
マティルデ様もさぁ、母上のこと大好きなんだよ。
マティルデ様はさぁ、たぶん母上が男だったら押しかけ女房していたと思うし、マティルデ様が男だったら、母上が頷くまで求婚しまくってたと思うんだよなぁ。
母上、異性の求婚者も多かったし、同性にも好かれるし……、もしかして魅了持ちなんだろうか?
いや、持っていたとしても、あの女神の魅了とは、違うだろうな。
だって、もし女神の魅了だったとしたら、王宮の使用人たちが、冷遇されている母上の味方になって、国王陛下やその側近に物申すってやってたはずだ。
国王陛下だって、母上をあんな風に扱わなかっただろう。
ともかく、王妃様から分厚い手紙を受け取って、僕はみんなと一緒にフルフトバールに帰領した。
今回は不帰の樹海で、泊まり込みの魔獣狩りをするから、お忍びではなく、ちゃんと街の旅館を利用しての普通の移動。
だって今回はイジーたちだけじゃなく、マルクスも一緒だからね。
僕とネーベルは、長期休暇でする公務の中に、魔獣被害の多いところに出向いて魔獣狩りをするのもあるから、不帰の樹海の低層程度の魔獣なら、単独でも斃せるようになってる。
テオとクルトも休みの間は実家の方で魔獣狩りをしているみたいだし、魔獣討伐には慣れているから、ある程度の危険回避はできるはず。
でも今回は団体行動だし、それにイジーとリュディガーとマルクスは初めてだから、無理をさせたくない。
イジーは今まで一回もこういった実践を体験したことはないけれど、時間さえあればテオと手合わせしているから、ソコソコの動きはできると思うんだ。
問題はリュディガーとマルクス。
リュディガーは、身体を動かすのが苦手ってわけじゃないけれど、文官系なんだよ。
そしてマルクスはどうなのかな? 将来オティーリエの補佐になると公言してるけれど、たまにテオとイジーに手合わせをお願いしてるから、剣術に興味があると思う。
魔獣狩りは危険なものだから、低層の魔獣でも油断できないし、だから二人は無理することはなく、領都内でお留守番でもいいよ?と言ったら、二人してブンブンと首を横に振ってついていくと言われてしまった。
「しょ、正直言いますと、おれはたぶん剣を持つのには向いていません。でも、イグナーツ様のお傍に居たい!」
と、リュディガーに力説されてしまって。
「あの、僕、アルベルト兄様たちのようにはできないと思うんですけど、魔獣狩りには興味があって……」
と、マルクスに言われた。
そしてなんとクルトにも。
「僕もたまには息抜きしたいですねー。テオ様のお守りはアルベルト様たちにお任せして、リュディガーたちとのんびりしたいです」
なんて言われてしまった。
クルト~。わかってる、わかってるよ? 本当は、魔獣狩りに全く慣れてないリュディガーやマルクスにくっついて、指導してくれるんでしょう? 危険を察知したらすぐ対処できるように気にかけてくれるんだよね?
テオの腕を信用してるし、僕やネーベルがいるから、好きなように暴れさせてあげたいって思ってるんでしょ?
でも、言い方ぁ!!
リュディガーとマルクスは、自分でも戦力外だって自覚してたので、安地拠点でお留守番をしながら、一緒についてきてくれる料理人のガーベルとピルツ、それからクルトと一緒に、小型の魔獣を狩るのはどうかな?と提案したら、そうしたいと嬉しそうに賛同してくれた。
そうしたら今回も一緒についてきてくれるフェアヴァルターが、「なら、今回は中層近くにある安地拠点を使いましょう」と言ってくれた。
その場所だと、中層の方にも足を延ばせるらしい。
ただ、中層に近いなら、中層の魔獣がそこまで出てきてしまうのでは?と、思ったら、そうでもないようだ。
たとえば最深層や深層そして中層の魔獣が、低層側に降りる場合、その層でなにか異変があったときなんだって。
これは長年、不帰の樹海で魔獣狩りをしている者たちも、これといった理由がつかめないそうだ。
異変と言ったら、自然災害かな?と思ったんだけど、ラーヴェ王国って大陸の内側で、海がないんだよね。
山はあるけれど火山じゃないし、海もないからプレートの地殻変動の影響が少ない。
僕が生まれてから一度も地震が起きてないし、過去の文献に、その手の資料も残ってない。
だから、地震で魔獣たちが異変を察して低層に来るって言うのは、全くないわけではないけれど、可能性としては低い。
あと考えられるとしたら、不帰の樹海にいる魔獣のテリトリー争いかな?
能力とか力のランクが上の魔獣に、低ランクの魔獣が喧嘩を売ってしまったとか、そういうのはありそうだな。
ただ、前回、僕の初狩の儀で不帰の樹海に入った時に、本来深層にいるはずのヒポグリフが低層に現れたあれは、深層から中層低層に移動したというよりも、深層からいきなり低層に転送させられたって感じだったみたい。
それというのも、あの後の調べで、ヒポグリフの移動跡が見当たらなかったんだって。
あの件に関してシルバードラゴンは何も言ってないし、僕としては女神が僕を消そうとして嗾けたのかな?っていう予想なんだけど、それもはっきりしたことはわからない。
なんせ女神に話が聞けるわけでもないしさ。
今回はそんなことが……ないとも限らないから、慎重にやっていかないとね。





