60 寮館でのカプラ大公令息の現状 そのよん
ヘッダに噂の内容を聞いたオティーリエは、硬直してしまう。
「え……っ」
あー、いじめのワードはオティーリエにとっては、トラウマワードになるか。
「い、じ……め……?」
「ジュスティス本人が、直接そう言ってるわけじゃないんだよ。ただ他の人が聞いたら、勘違いをさせてしまうような、そーいう匂わせる発言をしてるんだ。これって、たぶん似たようなことを『彼女』もやられていたんじゃない?」
その手腕を見れば、ジュスティスは、バカではないんだよね。
ジュスティスが自分の取り巻きに言ってるのは、「僕らと上手くいっていない」「疎外感を覚える」「やはりリトス王国の人間だから仲良くしてくれないのかも」って感じのことを、何重にも重ねた言い回しをしているところ。
問い詰めたとしても、「自分はいじめを受けてるとは言っていない」と言い逃れできる。
それに、寮館でジュスティスが疎外感を抱いてるのは事実だろうしね。
だって入寮の時に、日付け変更ぎりぎりにやってきやがったんだから、初っ端から顰蹙買ってるわけだし、その上イジーに対しても、あの時の詫び入れしてねーのよ。
なかったこと、みたいな態度だしな。
これに関しては、リュディガーが内心腹を立てている様で、でも頑張って顔や態度に出さないようにしてる。
それでいて、マルクスには、困ったことはないか?と、付きまとっている。
「う、噂ってそういう……」
僕らの話を聞いて、オティーリエは小さく漏らす。
やっぱなんか勘違いしてたみたいだな。
「テオの話によるとね、騎士科では改めてジュスティスが、隣国リトス王国のジュスティス・レオナルト・ソーニョ・カプラ大公令息であると通達されてから、今まで仲良くって言うか取り巻きだった生徒の一部が、遠巻きに見るようになったそうだよ」
遠巻きにしているのは、親からリトス王国のカプラ大公がどんな人物か聞かされている生徒なのだろう。
そしてジュスティスは、その状況を利用してる。
ジュスティスの正体が明かされた途端に、離反する取り巻きが出てきた。
そしてジュスティスは、移動した寮館で、元からいる寮生……特に王子殿下と上手くいっていないと触れ回っている。
この一見別々で繋がっていない話をうまく掛け合わせているんだ。
つまりこういうこと。
取り巻きが離反したのは、自分をよく思っていない王子殿下の指示。
最終的にはそう思わせる方向で、移動した寮館で先住寮生と上手くいっていないと零してるのだろう。
そして、この話の巧妙なところは、この話が僕の耳に入らないように、騎士科の取り巻きの生徒にのみにやってるところなんだ。
領地経営科にいる僕には、騎士科の生徒との繋がりがないと思っているのかな?
まず同じ寮館にいるテオが、騎士科の生徒なんだから、取り巻きに口止めしていようとも、テオの耳に入らないってわけがない。
ついでに騎士科には、ヒルトの家を主家としている家門や寄子家の生徒がいる。
ヒルトは僕のために自分のところの寄子家の生徒たちに、騎士科で起きてる情報を自分のところに持ってくるように伝えているので、まぁ……、殆どジュスティスのやってることは、筒抜け状態。
それからヴァッハの存在もある。
表向き、ジュスティスとヴァッハの間には、何もなかったようになっていて、同じ騎士科の生徒ってことぐらいしか接点がないようになってる。
けど、実際のところジュスティスはヴァッハの出生のネタを使って、自分の手駒にしようとしていたわけだ。
ジュスティスから離れたヴァッハは、以前のような一人でいるってことはなく、ちゃんと同じ科の生徒との交流を深めているから、騎士科内での噂に我関せずってことはなく、それとなく注意をしているそうだ。
この注意とはジュスティス本人へではなく、ジュスティスの取り巻きになっている生徒たちに、『他国の留学生の言うこと鵜呑みにして、自国の王子殿下を色眼鏡で見てたら、あとでどうなっても知らんぞ?』的なことを言っているらしい。
まぁ、それはそう。
リトスの大公令息に付くってことは、将来ラーヴェ王国から出奔する気なのか? リトス王国に帰化するつもりなのか?ってことだから。
聡い生徒なら、ヴァッハの言葉で正気に戻るだろうし、正気に戻ることなくジュスティスの肩を持つなら、それまでの話だ。
いい感じに、篩にかけられるってもんである。
イジーの治世に、愛国心がない者はいらんからな。
そしてジュスティスの凄いところはさ、オクタヴィア・ギーア男爵令嬢のように、直接僕に何かしかけてこないところなんだよ。
今言ったように、遠回しに遠回しに、そしていつでも言い逃れができるように予防線を張って、何重もの仲介を入れて、そして決定的な行動を起こすではなく、匂わせる程度の発言で、自分の傍にいる者に自発的に動くようにさせることなんだよ。
その証拠が、ヴァッハを使ったオティーリエへのマッチポンプ。
ヴァッハに対しても、直接その存在をリトス王家に報告するって言ってたわけじゃないようで、『君のことがリトス王家に知れたらどうなるんだろうね?』って、言い回しだったそうだ。
そしてオティーリエの周辺をヴァッハにうろつかせたときも、「彼女との接点を作る協力をして欲しい」って感じだったらしい。
僕にとっ掴まって全部吐かせられるまで、ヴァッハは自分の出自に関しては誰にも知られてはならないと気を張っていた。
ヴァッハ曰く、今冷静に考えれば、あの言い方はどっちにでも取れるような言い回しで、いかにも脅しと言った物言いではなかったそうだ。
でも、ヴァッハは言うことを聞かなければ、大事な家族を脅かされると疑心暗鬼になっていた。
そう言ったやり方はめちゃくちゃうまいんだよね。
でも、なんかちょっと抜けてる。
僕がジュスティスなら、僕らと上手くいってないって噂は、夏の長期休暇後にやる。
だって今やってももうすぐ夏の長期休暇に入っちゃうんだもん。噂なんてすぐに立ち消えちゃうよ。
効率的じゃない。
抜けてるのに、致命傷を負うことをぎりぎり回避してる。
これも女神の仕業?
シルバードラゴンは、女神は物事の先っぽにしか介入できないって言ってたけど、その先っぽにジュスティスがいたらどうなんだ?
もっと奥まで干渉してくるんじゃないだろうか?





