59 寮館でのカプラ大公令息の現状 そのさん
女神とジュスティスは、直接やり取りできるのか、それとも聖女に認定されたオクタヴィア・ギーア男爵令嬢を介してやり取りをしているのか、そこは不明。
でも、繋がってるのは確かなはずだよ。
そしてこの世界は『彼女』が愛読していたラノベの世界に酷似していると、オティーリエは思ったのだから、女神は例のラノベと何らかの繋がりがあってもいいはずなんだ。
だから……、僕はそこに疑問を持ったんだ。
「『彼』はあのラノベのこと知ってた?」
するとオティーリエは、夏場に活発になる黒いアレを目撃したような顔をする。
あ、もしかしてこれも地雷だったかも。
「ごめん、話したくなければいいよ」
するとフルフルと首を横に振って、オティーリエは答えた。
「はっきりとは断言できませんが、知っていたと、思います」
話を聞く限り、『彼』は過保護というよりも、執着って言った方が正しい感じだったから、『彼女』が興味があるものも、調べていたかもしれないよね。
「勝手に……」
ぽつりと呟き、何度か深呼吸して、オティーリエは続けた。
「わた……、違う。『彼女』が、出かけて、いなかったのに、部屋、にっ、入って……」
その言葉に、僕だけではなくヘッダの顔色も変わる。
アウトー!!
それはもうマジでアウトだよー!!
「だからっ、鍵を……っ」
「オリー様、それ以上は仰らないで」
ヘッダはそう声をかけ、前かがみになって息を乱しているオティーリエの背中をさする。
思った以上に、最悪だった。
どんな状況でそうなったかは知らないけれど、オティーリエの様子を見れば、家族の誰か……いや誰かじゃなく、たぶん母親が勝手に『彼女』の不在時に、『彼』を『彼女』の部屋に通したのだろう。
父親は、娘の芸能活動を良しとしていないぐらいなんだから、異性関係にだって厳しいはずだ。
もし水面下で、『彼女』を『彼』のところに嫁がせようとしていたとしても、未成年である娘の部屋に、無許可で立ち入りさせるなんてありえないだろう。
それから、良識ある人間ならね、いくら相手の親に許可されたからって、異性の部屋に本人の許可無しで入る奴がいるか。
「ヘッダ。悪いんだけど、夏の休暇はそのままオティーリエを連れ帰ってくれるかな? アインホルン領に帰らせない方が良い」
「もちろんですわ」
「……ジュスティスが今の人生を『彼』の人生の延長だと思っているのなら、昔のオティーリエのように、この世界は、自分のために作られたもので、自分の思い通りになる都合のいい世界だと思っているのかもしれないね」
「そうですわねぇ。あの方、とてもポジティブな方ですし、何をやっても自分に悪いことは起こらないと、そう思っていらしてるのかもしれませんわ」
ヘッダも同じように思ってたみたいだね。
もしジュスティスがそう思っているのだとしたら、それは、リトス王家の対応の甘さが、後押ししているせいだと思う。
なにをやっても致命的な罰を受けなかったからだ。
「では、あの噂もその延長線なのかしら? 自国で許されたから、他国でも通用するとお思いなのでしょうね」
噂……、噂ねぇ。
ヘッダの漏らした言葉に、なんとも言えない気持ちになる。
「噂? 何の?」
オティーリエはずっと休んでいたから、知らないのも当然だ。
ヘッダの言っている噂は本当に出始めたばかりのもので、しかも周囲がすぐに消火活動してるから、そこまで大きくなっていない。
騎士科限定での噂話だ。
ヘッダがその噂を知っているのは理事の一人であるので、あっちこっちに自分の手駒を配置してるから。
それは僕も同じで、騎士科にはヒルトの家門を主家としている生徒や、寄子家の生徒がいるから、そこから情報が洩れてきている。
「アルベルト様。ヘドヴィック様。噂って何ですか」
自分の預かり知れないところで、自分に関しての何かが広まっているのかと、オティーリエは怯えている。
「貴女の噂じゃありませんことよ」
「噂は、僕というか僕たちがいる寮館のメンバーに関するものだね」
僕らの返事を聞いて、不思議そうにしていたオティーリエは、何かに気付いたようにはっとして、小声でぶつぶつと呟きはじめる。
「寮館……。アルベルト様達、男子メンバー……。噂って……はぅっ!」
そして僕と隠れてるネーベルを見比べて、徐々に顔を赤くさせたオティーリエは、ぐっとこぶしを握り締めて憤った。
「ふ、ふっ、不敬です! お、王子殿下たちに対してっ。な、なんてことっ」
なんか勘違いしてるな、これは。
「根も葉もないことですもの、不敬ではありますわねぇ。というか、オリー様。どんな噂が出ているのかご存じですの?」
ヘッダの突っ込みに、オティーリエは首を横に振りながら答える。
「え? いえ、し、知りません。けれど、アルベルト様たちがいらしてる寮館のメンバーに関してのことなのですよね?」
「えぇ、そうですわよ」
「う、噂の対象者にアルベルト様とイグナーツ様のお二方がいる以上、どんな内容であろうとも、軽はずみに口にしていいものではないはずです。特に、同じ学び舎にいらしてるのですから、いつご本人の耳に届くかわからないではありませんか。実際、アルベルト様は、その噂をお知りになられているようですし」
確かにそうなんだけど。
でもなぁ……。
「微妙な感じなんだよねぇ。ネーベルもそう思うよね?」
まだ黙って外の様子を伺っているネーベルが、視線だけをこちらに向けて口を開いた。
「ぎりぎりのところを攻めてくる感じ、だな」
「せめっ……」
ネーベルの返事に、さらにオティーリエの顔が赤くして、両手で口を押える。
「オリー様。お顔が赤いですわよ? お熱でも出てるのではありませんこと?」
「だ、だいじょうぶですっ」
「それならよろしいのですけれど」
ヘッダに無理はなさらないでと気遣われたオティーリエは、小さく頷く。
「迂闊なことをなさっている割には、あの方、意外と頭は使っていらしてるのよね。でも、いまいち詰めが甘い」
「そうなんだよね」
僕とヘッダの会話に、オティーリエは目を白黒させる。
「……あの、噂って。……あの方が発信源なのですか?」
「えぇ、そうですわよ。あの方、移動した寮館でいじめを受けていると、流布していらしてますのよ」
いやー本当に、そういう小賢しい策略は、巧みだよね。
感心しちゃうよ。
前世のオティーリエは、二次関連では腐女ではなく夢女ですが、腐知識はそれなりに持ってます。
nmmnのマナーもわかってますよ。





