49 好きな子に問い詰められた そのさん
ヒルトの話を聞いてイヴは考え込んでしまった。
えー、あー、どうしよう。こんな時、気の利くようなことが言えない自分が不甲斐ない。
でも、イヴに、嘘を言いたくないから、今言えることを告げる。
「イヴ。僕がしている隠し事はね、僕らの卒業プロムが無事に終えたなら、伝えることができるよ」
「卒業、プロム?」
イヴは琥珀色の目を細めて、じっと僕を見上げてくる。
「うん」
「……ふうん。じゃあ、その卒業プロムが終わったら、やっと聞かせてくれるわけ?」
腰に手を当てて、イヴは斜め上から、覗き込むように言ってくる。
「ずるいのね、アルベルト様って。私には好きだなんて言っておいて、自分の大事なことは隠すんだ」
刺々しい言い方だけど、怒ってる感じじゃなかった。呆れてるような、困ってるような、それでいて、少し、寂しそう。
「プロムで何か起きたらダメってこと? 最初から逃げ道を用意してる人に、本当に大事なことなんて話せるの?」
イヴはそう言ってから、わずかに視線をそらす。
「……まぁ、アルベルト様がそこまで言うなら、待ってあげる。でも、ちゃんと話して。逃げたら、承知しないから」
ふ、不謹慎だけど、拗ねてるイヴが、めちゃくちゃ可愛い!!
なにこの子! なんでこんなに可愛いの?! もう一回告白したい。いや、そうじゃねーんだわ。
返事、返事をしなければ!
「うん。ちゃんと話すよ。信じてって……なんて、なんか逆に嘘くさいね。僕もその言い回し好きじゃないから、そうだな……。約束するよ。卒業プロムが終わったら、ちゃんと話す約束をね」
もちろんプロムで、僕がざまぁされたら、話しするどころじゃないけれど。
でも甘んじてやられっぱなしでいるつもりはない。もう、全力で抵抗してやらぁ。
僕も、覚悟を決めないと。
イヴにもう一度告白するのは、卒業プロムが終わった後だ。
そこでちゃんと、保留してもらっている返事を聞こう。
卒業は、僕にとってはただの通過儀礼じゃなく、人生の転換点……ターニングポイントだ。
だけど、卒業を無事に乗り切ったとしても、あともう一つ、不安要素はある。
それは、卒業後に控えてる社交界デビューの大舞台、いわゆる成人パーティー。女子はデビュタントって言うよね。
ラーヴェ王国も、昔は成人する年齢が定まってなくて、だいたい十六歳から二十歳までの間というアバウトな感じだったそうだ。
だけどおじい様の年代よりずっと前に、ラーヴェ王国は男女ともに十八歳で成人と定められた。
今は、王立学園卒業して一年後、十八歳になるタイミングで、王都で盛大なお披露目夜会が開かれるのが通例だ。
そして同じ日の日中には、ラーヴェ王国の王族の立太子の儀が行われるわけだよ。
そう、王太子が正式に発表される、重たい儀式。
そのあと、夜には社交界の新入りたちがデビューする、煌びやかで華やかな宴が開かれる流れになってる。
で、その成人パーティーの夜会が、第二のざまぁ断罪フラグの舞台ってわけだ。
しかも卒業後のプロムと違って、成人パーティーの夜会には、ゲストとして他国の王族や高位貴族が招かれる。ラーヴェ王国の外交の顔ともいえる式典だ。つまり、ざまぁされるには最悪の舞台。
ただ、ほらオティーリエの話によると、例のラノベで王太子が悪役令嬢に婚約破棄するのは、卒業後のパーティーだって言う話なんだよ。
どうもここら辺が実際の流れと違って、ラノベだと卒業パーティーに、国王陛下や国の重鎮、保護者達も出席する夜会らしいんだよね。
実際は、卒業式後に在校生が卒業生を見送るプロムだ。時間帯も午前中に卒業式が行われて、そのすぐ後にプロムが行われる。
出席者は、卒業生と在校生。学園関係者のみ。国王陛下や保護者が出席することはない。
プロムの時間も、夜遅くまでではなく、日が暮れる前に終わる。
女神が『悪役令嬢オティーリエ』をヒロインにした筋書きを書いているのだとしたら、僕のざまぁフラグが立っているのは、卒業後のプロムなのかな?っと思うんだけど、この辺は絶対とは言い切れないから、歯がゆいね。
本命、卒業後のプロム。対抗、成人パーティーの夜会。って感じかな。
イヴは僕が話すまで「待つ」って言ってくれたけど、そのことに驕ってはダメだ。
待ってくれる=僕の期待する返事をくれるってわけじゃないんだから、イヴが不安になるような態度は論外。
だから少しでも誠意を伝えたくって、今日はショップ街の人気カフェで、流行りのスイーツと上質な茶葉を買ってプレゼントした。
寮に帰ったら、ヒルトと一緒に食べてほしい。
本当は、女の子が喜ぶアクセサリーを贈るのがセオリーなんだろうけれど、僕としてはそういう特別な贈り物は、恋人同士になってからが筋だと思ってる。
せこいと思う? みみっちいって思う?
だけどイヴが僕の気持ちに応えてくれなかった場合を考えると、アクセサリーなんて形に残る物を贈ったら、イヴの未来の相手は、いい気分にはならないよね。
それにきっとイヴは、高価なものを贈られたら、施しを受けたと思うんじゃないかな?
嫌な顔をして『これで私が喜ぶと思うか、バーカ』って言いそうだ。もしくは『あら、ありがとう。換金して、将来のための貯蓄にするわ』って、皮肉交じりに言うと思うぞ。
女の子の好感度って、上がるのは時間がかかるのに、下がるのは予測不能で一瞬なんだよ。ほんとーにシビアだ。
好きな子に喜んでもらうって、なんでこんなに難しいんだろう。





