46 聖女の素性 そのに
オクタヴィア・ギーア嬢がリトスの孤児院出身という話と、ジュスティスの家でメイドではなく侍女をしていた話。そして現在のラーヴェ王国の男爵令嬢という立場。
疑問だらけだ。
「リトスでは何て呼ばれてたんですか?」
もちろんオクタヴィア・ギーア嬢のことだ。
たぶん、オクタヴィアという名前は本当の名前じゃない。ギーア男爵令嬢となるために付けた名前だろう。
エウラリア様が、一介の使用人の名前を憶えているとは思えないけれど、人前で侍女の名前を呼ばないということもない、はず。
エウラリア様もすぐには思い出せないようで、しばらく考え込んでから、はっと顔を上げた。
「たしか……リステアと」
リステア、ねぇ。
オクタヴィアとかすりもしない。
「エウラリア様」
「なんでしょうか?」
「お願いしたいことがあります」
これは、うちのアッテンテータを使うよりも、リトスの王族であるエウラリア様に頼んだ方が良いだろう。
「何でしょうか」
「ギーア男爵令嬢……、リステア嬢の経歴を調べてほしいんです」
「彼女、ですか?」
「エウラリア様はオクタヴィア・ギーア男爵令嬢が、ウイス教の聖女に認定されたことを知っていますか?」
「え?」
初耳だと言わんばかりの様子に、エウラリア様もジュスティスのことは注視していても、その周囲の人間までは気にしていないことがわかった。
まぁ、そう。
エウラリア様にとっては第四王女殿下の敵であるジュスティスしか目に入っていなかったんだろう。
でもジュスティスの協力者が傍にいることは頭に入れておかなきゃ。
「彼女、女神からの神託を受けて、それで聖女認定されたそうです。そのことはご存じですか?」
「いいえ」
「女神に、ラーヴェ王国の王子殿下を導くようにという神託だったそうです。それが理由なのかは知りませんが、彼女はウイス教の聖女に認定されています」
「そ、そんなことがあったのですか……」
それも初耳のようだ。
「他にも、いろいろちっちゃいことですが、やらかしてるんですよね」
「やらかし……どのような?」
「王太子の妃になるのは自分だと触れ回ってた時期がありました。僕たちを付け回すようなこともしていましたし、僕と仲の良いアインホルン公女に対しても、彼女の中では僕らが婚約関係だと勘違いをしているんですよね。権力で無理やり婚約者となったと思い込んでいるようで、その件でアインホルン公女に突っかかっているんですよ。この間の騒ぎもそれが原因でしたし」
「そんな理由で?! なんて不遜な!」
エウラリア様は驚愕に目を見開き、口を押える。
「僕が知っているのは、彼女がラーヴェ王国の男爵令嬢であること、女神の神託を聞いたと触れ回ってウイス教に目をつけられて聖女になったということでした。そこに来て、エウラリア様から、元はリトスの孤児院出身で、ジュスティスの家で侍女をしていたと聞かされたわけです。そんな怪しげな存在を放置なんてできないでしょう?」
「はい……。仰る通りです」
「なので、なぜ孤児院に入れられていたのか。親がいたのか、捨て子だったのか。孤児院にいたときはどんな様子だったのか。大公家の使用人に採用された理由。孤児が下働きではなく、ジュスティスの侍女になっているのはどうしてなのか。それからこれは一番重要なんですが……」
一度、言葉を区切って、深呼吸をしてから続けた。
「孤児院は教会管轄なのか。それとも神殿管轄か」
僕がそう問いかけると、エウラリア様ははっと息を呑んだ。隣に座っていたネーベルも、僕の言葉の真意に気づいたのか、鋭い視線を向ける。
「神殿、ですか?」
「つまりウイス教の孤児院だったのか、それともシュッツ神道の孤児院だったのか」
「聖女に認定されたのなら、ウイス教の孤児院ではないのですか?」
「ですから、そこを確認したいのです。ウイス教の孤児院出身だったのなら、その頃から仕込みが入っていたのかということですよね」
ウイス教がラーヴェ王国に食い込むために、昔から計画されていたことがわかるというものだ。
「それにメイドは下働きですが、侍女は貴族の身の回りの世話をする、いわば側近のような存在です。孤児をいきなり侍女に採用するのは、非常に異例です。大公令息であるジュスティスが、そこまで彼女を高く評価していたのか、それとも……」
僕の言葉はそこで途切れたが、言いたいことはエウラリア様にも伝わっただろう。ジュスティスが彼女を特別扱いするだけの理由があったのか、それとも別の誰かの意図が働いていたのか。
エウラリア様は、厳しい表情で僕を見つめた。
「アルベルト殿下……わかりました。リトス王家として、この件は看過できません。ギーア男爵令嬢……いえ、リステア嬢の過去を徹底的に調べさせます。すぐにリトス本国に連絡を入れましょう」
「ありがとうございます、エウラリア様」
僕は頭を下げた。これで、オクタヴィア・ギーア嬢の過去が解明されたら儲けものだ。
「ただ、一つだけ……」
エウラリア様が、何か言いづらそうに口を開いた。
「何でしょうか?」
「ジュスティスの、……大公家を調べるとなると、少し厄介かもしれません。彼の父親である大公は、ラーヴェ王妃殿下との婚約が破談になってから、周囲に対して懐疑的になっているのです。王家に支援されて生活を維持していると、そういった認識が全くないというわけではないのでしょうが、私生活に踏み込まれることを非常に厭っているのです。なので、もし何か壁にぶつかったら、ご容赦ください」
「えぇ、それはもちろん。ご無理のない範囲で、ご協力いただければ幸いです。何か情報を得られましたら、すぐに僕に知らせていただけますか?」
「はい。必ず」
エウラリア様は力強く頷いた。
カプラ大公かぁ……。まぁ、それでも、働かずに遊んで暮らしてるわけなんでしょう?
あと、王妃様の周辺をたびたび探ってるんだよねぇ?
よそに嫁に行った元婚約者に、なんの用があるのだろうね?
昨日から、カクヨムオンリーで、現代ラブコメの新作が始まってます。
カクヨムオンリーなのは、ムーンで掲載するほどのがっつりした表現はない、けれどなろうでやるにはバンの対象なんじゃねーの?と判断に迷うぎりぎりなラインだからです。
興味を持たれたら読んでみてね!
https://kakuyomu.jp/works/7667601420085035359