40 煽りながら毒を仕込んでいる
女の子はさぁ、一度自分の敵だと定めた相手には、容赦なんかしねーからな。
相手の息の根を止めるか、それとも自分の息の根が止まるか、ガチでやるからなぁ。
ソーニョは女の子のこと舐めてるよぉ。
女の子がみんな自分の容姿に惹かれて、自分の思うように操れると思ってるんじゃないか?
まぁ、普通の女の子なら、そうなってただろうけれどね、相手はヘッダだよ。
ラーヴェ王国一の天才様だよ。
人を玩具にするのが大好きな破天荒なヘッダはね、ある意味取扱注意な破天荒なお姫様だ。
そんな子がさぁ、敵と定めた相手に容赦なんかするわけないでしょー?
じわじわとやるに決まってるじゃないですかー。
とりあえず、ソーニョへの忠告というか、さっさと寮移動しろやと言い聞かせたので、話し合いは終了。
学長室を出るとヘッダはにこやかに声をかけてきた。
「そうそう、アルベルト殿下。少々よろしくて?」
まだ、エウラリア様やソーニョがいるから、僕のことをわざと殿下付けしてくる。
「なにかな?」
「以前頼まれた、遠隔操作カメラのひな形出来ましてよ?」
ソーニョが傍にいるのに、とんでもねーこと言ってくる。
ヘッダにはいろんなものを頼んでるんだけど、今言われたのは例の競馬で活用してもらう小型のドローンだ。
競馬プロジェクトは王妃様主導で進んでいて、もう競馬場を作り始めている。
ゲート前には着順確認できる固定カメラをつけてるけれど、走ってる馬を追いかけて投影するカメラも欲しいってことで、ヘッダにお願いしたのだ。
現物を渡しながらヘッダが説明してくる。
「この大きさでしたら馬も気になりませんでしょう。音もしませんので、悪いことに使われると困ってしまいますわよねぇ? 例えば盗撮とか」
言いながら、ヘッダはちらりと傍にいるソーニョを見て笑う。
わざと聞かせてるなこれは。
「使用者を厳選しないとね」
「そうですわね。決められた者以外は使用できないように設定しますわ。アルベルト殿下の要望で、小鳥をイメージした飛行タイプで作りましたけど、でもこのカメラを縮小化すれば、テイムができる小型の魔獣にカメラを内蔵した首輪に付けて、相手に気づかれないように偵察もできますわねぇ」
煽ってる煽ってる。
これはヘッダからソーニョに対して、くだらないちょっかい掛けてくるんじゃねーぞという牽制だな。
そのちょっかいを出される相手は、言わずもがなオティーリエなんだけどね。
案の定ソーニョはちらりとヘッダの方を見て、すぐさま立ち去ってしまった。
さて、ヘッダの毒はどれぐらい効くかな?
「……アルベルト様やハント゠エアフォルク公爵令嬢を見ていますと、自分の至らなさを痛感します」
一連のやり取りを黙ってみていたエウラリア様が苦笑いをしながら呟いた。
「わたくしがお二人のようであったなら、あのようなことは起きなかったのでしょうね」
第四王女殿下の話か。
「あらあら、まぁまぁ。そのように悲観されなくても、よろしいのではありませんこと? 人には向き不向きというものがありますもの」
追い打ち~!!
でもヘッダの言うことも一理あるんだよなぁ。
エウラリア様は卒業したらシュッツ神道の神殿に出家するというし、陰謀系のことなんかできなくても不都合はないんじゃないか?
「アルベルト様。あともう一つ」
「なに?」
「例のインカムの方なのですが、魔術回路はあれ以上いじる必要はありませんことよ? よくできてますわ」
どうにもこうにも行き詰って、ヘッダに魔術回路の確認をしてもらってたんだよね。
魔術回路が問題じゃないなら、なんなんだろう。
「ヒントをおひとつ申し上げるのなら、『魔石』ですわね。あとはご自分でお考え下さいな」
教えてくれてもいいんだよ? なにがなんでも自分で仕上げたいってわけじゃないだけどなぁ。
まぁ最初から答えを出してくれないのがヘッダなんだけど。
「教えてくれてありがとう」
「どういたしまして」
ヘッダからヒントを貰ったんで、ネーベルと一緒に考えるか。夏の長期休暇までに仕上げたいんだよなぁ。
魔石か。使う魔石の属性は風で良いんだと思うんだよね。音を乗せるには風が一番だから。
ネーベルならなんか気が付いてくれるかな?
インカムのことで没頭しそうになって、忘れるところだったよ。
「ヘッダ」
エウラリア様と一緒に帰ろうとしたヘッダに声をかけて引き留める。
「何でしょう?」
「オティーリエにメンタル回復するまで休むように伝えてくれる? 学園に出てこようとしたら、寝台に括りつけてでも止めて。本人が騒いだら、僕からの指示だって言っていいよ」
さっき様子見に来てくれた先生に、明日説明するって言っちゃったけど、よくよく考えればあんな状態のオティーリエが、一日休んだ程度で回復するわけがない。
一皮むけたと言っても、あの子、昔っから打たれ弱いしね。
それにあれは、オティーリエというよりも、この世界がラノベの世界で、自分は転生者だと僕に伝えてきたときの『前世の彼女』のようだったぞ。
つまりオティーリエが『前世の彼女』になってしまうようなことに遭遇したってことだよ。
詳しい話は本人が持ち直したときに訊くにしても、寮に戻ったらイジーになにがあったか聞いてみた方が良いな。
まず先に、教員室に行って、明日からしばらくオティーリエを休ませるって、担任とそれからあの時に駆け付けてくれた教諭に伝えなきゃ。
「アルベルト様のご要望、承りましたわ」
僕の話を聞いたヘッダは、一度ぱちくりと瞬きした後、満面の笑みを浮かべる。
「全力でお応えしましてよ」
優雅なカーテシーをしながら答えるヘッダを見て、昔、似たようなことを言われたなぁっと、思い出した。





