34 ハプニング勃発
みんなにリトス王国でソーニョが何をしたかってことを伝えてから数日。
今のところオティーリエは第三王女殿下の接待役をやってくれている。
中途半端な時期に留学してきた第三王女殿下はやはり浮いていて、クラスメイトからは距離を置かれているのだ。
いくら留学目的がソーニョへの復讐と言えども、そして遊びに来たわけではないと言えども、周囲と上手くやっていけないのは問題だ。
建前として、第三王女殿下はラーヴェ王国の学習に興味を持ったからという体での留学なわけで、外交ほどがっちりしたものではなくても、留学先での同世代との交流は必要不可欠である。
同世代と交流できない王族ってどうなん?と、厳しい目で見られるのだ。
そしてこの手のゴシップ話は、なぜか拡散されるスピードが速い。
成人後の社交で、『そう言えばリトスの第三王女殿下がラーヴェ王国に留学されていたそうですけれども、留学先での交流は一切されなかったとか』なーんて言い広められるだけならまだしも、その話を歪曲して第三王女殿下が王族として至らないって感じになっちゃうんだよ。
この世界にはないけれど、いわゆる『有名税』ってやつだ。
王族をゴシップネタにすればそれ相応の痛手を負うことになるし、それこそ王家から目を付けられることになるわけだけど、第三王女殿下は王家に残らず、そして他国の王家やどこかの有力貴族に嫁ぐこともなく出家する。
出家したなら王族関係ないって考えるやつが一定数いるんだよなぁ。
あんまりやりすぎると目を付けられるけど、この手のゴシップを取り扱う人って狡猾な性格してるから、逃げられる可能性もあるだろうね。
第三王女殿下もその辺のことはわかっているので、ラーヴェ王国民、特に公女であるオティーリエとの交流は積極的だ。
僕としてもね、第三王女殿下がオティーリエと一緒に行動してくれるなら、ソーニョが近づいてきたとしても、強引な手は使ってこないんじゃないかなと思ってるんだよね。
いうて、犯罪行為に走るようなことはしないはず。
だってソーニョの目的ってラーヴェ王国の良いところの貴族に婿入りなわけだし、そこに来てオティーリエを誘拐監禁したら、本末転倒じゃないか。指名手配だよ。
だから、強引な手って言うのは、オティーリエの婿の座を他に取られないように、周囲に見せびらかすように口説いたりすること。いわゆる牽制ってやつだ。
だけどなー、あいつ自分の素性を隠してるわけじゃない?
表向き、リトス王国の伯爵令息って立場で、周囲を牽制したとしても、あんまり効果ないと思うんだよ。
あいつ、何がしたいんだろう?
うちの国王陛下並みに意味不明なんだよなぁ。
しかもさぁ、あいつまだ寮移動してこねーのよ。どうなってんだろう?
その件がどうなっているのか、第三王女殿下とヘッダ、それからなぜか僕も一緒にトーア学長と話をすることになったのだ。
学長室に向かいながらヘッダの話を聞く。
「通達はしているはずですのよ? ただご本人、素性を隠しての留学でしたでしょう? 周囲に自分の素性を知られたくないのだろうと推測してましたので、貴族男子寮の管理人から内密に連絡していただいてるはずですわ」
つまり貴族男子寮の管理人が、ソーニョに転寮の通達をしていないのか、通達をしているのにソーニョが動かないのかってことだよね?
「貴族男子寮の管理人も呼び出ししてるの?」
「えぇ。もちろん」
笑顔で肯定するヘッダに、第三王女殿下は顔を強張らせている。
これはきっとヘッダの勢いに呑まれてるんだろうな。
ヘッダと第三王女殿下は同じ寮だし、すでに挨拶は済ませているけれど、まだそれほど親しくないのだろうね。
「ところでイグナーツ様はどうされましたの?」
「オティーリエと一緒。なーんか嫌な感じがするんだって」
「どういうことですの?」
「ソーニョの件でトーア学長のところに話に行くから、オティーリエたち女子だけになるでしょう? 最近はわざとそういった隙を作って別行動してるんだけど、今日に限ってイジーが、嫌な感じがするからオティーリエたちを寮まで送るって言いだしたの」
「あらあら、まぁまぁ」
目を見開いてヘッダが声を上げる。
イジーがそんなこと言うなんて、珍しいって思ってるんだろうなぁ。
「リューゲン第一王子殿下の大切な方なのですから、弟君であるイグナーツ第二王子殿下も気がかりなのでしょう?」
第三王女殿下は僕とオティーリエが恋人同士で婚約寸前という話をどこかで仕入れたのだろろう。
訂正してもいいんだけど、どこでそれが漏れるかわからないから、あえてそれには触れずに、話題を逸らすことにした。
「第三王女殿下。僕のことはアルベルトと呼んでください。第一王子殿下も省略して構いません」
「え? あ、はい。わかりました。でしたらわたくしのことも名前で呼んでいただけませんか?」
ふむ、それもそうか。
「エウラリア様、エウラリア殿下、どちらがいいですか?」
「敬称はなくても」
「それはダメです。ご自分のお立場を考えてください」
敬称なしで名前を呼ぶほど、まだ親密度上がってないよ?
「堅苦しくない方で、エウラリア様とお呼びします。弟にも同じように伝えておきますが、それでいいですか?」
「はい」
嫌とは言えんだろうな。
「あ、ア、アルベルト様!!」
そんな話をしながら学長室に向かっている途中で、前方からパタパタと小走りで近づいてきたのはアンジェリカだった。
「アンジェ様?」
「どうしたの? イジーたちと先に帰ったんじゃ」
「よ、よ、よかったっ」
ぜーぜー呼吸を乱す様子を見るに、僕のこと捜してた?
「ま、まだ、お帰りになっていなかったのですね」
「うん、これから学長室に」
「も、申し訳ありません。御用がおありなのはわかっているのですが、助けてください。また、ギーア男爵令嬢がオティーリエ様に絡んできて、それからえっと、なんでしたっけ? ほら、あの、例の騎士科の、留学生のっ」
「ソーニョ?」
「はいっ。その方も出てきて、そうしたら、オティーリエ様がいきなり悲鳴をあげられて」
オティーリエが?
「それで、ギーア男爵令嬢がオティーリエ様に言い掛かりをつけてる横で、イグナーツ様がソーニョ様と言い争うような感じになってしまって」
イジーまで?!
一体、なにがあったんだよ。
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