31 情報報告はディナーの後で そのよん
僕の話にテオは眉間にしわを寄せる。
「どっちが魅了ってやつに影響されるのかって、聞くまでもねーか。ウイス教だと魅了に影響されんの?」
「あくまでも、可能性ね。検証したことないから、何とも言えない。この魅了ってやつは女神が人間に対してやってる権能だと僕は思ってる。問題はそこじゃなくって、発動条件だよ。オティーリエの場合は魔力と連動してたんだよね。ヘッダに魔力制御の魔導具作ってもらってからは落ち着いてるでしょ?」
「オリーがお姫様じゃなくなったのってそれ?!」
気づくのが遅いよぉ!
もっとさぁ、従妹のことなんだから気にかけてあげなよぉ。
まぁ、テオは自分に何らかの影響がなければ気にしないか。
テオの場合、暗示とか精神に作用する魔術とか自力で解除しそうだし、そもそも抵抗力が強そうだからなぁ。
「僕とネーベル、イジー、テオ、クルトは大丈夫だと思うんだけど、リュディガーとマルクスがねぇ影響されそうで怖い。その中でも特にマルクスね」
「僕、ですか?」
「リュディガーは日中ネーベルと一緒だから、もしソーニョが接触して魅了にかかったとしても、すぐに変化がわかる。問題はマルクスね。まぁー、ソーニョがわざわざ下学部の学舎に行くとは思えんけど、放課後はわからないでしょう? そういうわけで、一日一回。寝る前にお話しようか? 一日、何があったか。ソーニョとの接触があったか程度の報告でいいよ?」
「は、はい」
昔、ヘッダにオティーリエの魅了を抑える魔導具を作ってもらうときに、影響を受けないための魔導具の開発も一緒にお願いしたいって頼んだんだよね。
そっちはやっぱり仕様が難しいのか、時間がかかってる。
ひな形はできてるみたいなんだけどね。
「ソーニョの狙いはオティーリエだから、そうそう簡単に手を引いたりしない。得るものが大きすぎるもの。絶対に逃がしたくないよね。そこを考えるとますますお近づきになりたいのはマルクスかなぁ。身内から落とすのは定石だ」
「え?!」
驚きの声を上げたのはマルクスだった。
「姉様が狙われてるって……」
「オティーリエは次期公爵になるでしょう? ソーニョの狙いは居づらいリトス王国からラーヴェ王国に移住すること。で、一番手っ取り早いのはラーヴェ王国の貴族の家に入り婿に入ることね。貴族のなかでもアインホルン家は公爵家で、しかも筆頭が頭に付いちゃうところだよ。地位があって金持ち。是が非でも婿入りしたくなる場所だよね?」
僕の返事を聞いて、マルクスは真っ青になる。
「ぼ、僕に近づくのは、姉様の懐柔に利用するため、ですか?」
「家族からの支援があれば、オティーリエを落とすのが楽になるからね。だけど、そんなに心配しなくても大丈夫。マルクスも知ってると思うけれど、オティーリエと僕の噂が流れてるでしょう?」
一度は噂を消そうと思ったけど、結構早い段階でソーニョがオティーリエを狙ってるってわかったから、利用する方向に動いててよかったぁ。
僕とオティーリエの噂に関しては王妃様と宰相閣下にも連絡してあるし、その辺はうまくごまかしてくれるはず。
一応イヴにも噂のことに関してはちゃんと言ってあるからね。
誤解しないと思うけど、また次のデートの時に、もう一度、説明しておこう。
「ソーニョがオティーリエを落とすのに必要なのは、自分がいかにお買い得な人間で、オティーリエに尽くすスパダリであるかをわかってもらうこと。次にオティーリエと噂がある僕の排除だ」
僕がそう言うとテオがやれやれと肩をすくめる。
「ソーニョの分岐点だな」
「分岐点? 何の?」
「なんのって、そりゃぁ。生きるか死ぬか、だろう? ソーニョが見掛け倒しの張りぼて野郎だったら、まんまとアルの罠に嵌って社会的に抹消コース。でもバカじゃなく引き際がわかる奴だったら、どんなに旨味があったとしても、さっさとオリーから手を引いて逃亡する」
まぁ、それはそう。だけどちょっと聞き捨てならないことを言われたぞ。
「まるで僕が悪の手先みたいじゃないか」
「手先じゃねーよ。お前は言うなれば……、ソーニョの前に立ちはだかる、越えられない壁。絶対に勝つことができない最大の敵。物語なら、最後に主人公の前に出てくる敵だ。でもソーニョの物語は、お前を倒して愛しのオリーと結ばれてハッピーエンドじゃねー。意気揚々とお前に戦いを挑んだのに首ちょんぱされて、悲願達成することなく終了する打ち切りエンド。先が見えたな」
「相手が悪いんですよ」
「兄上に戦いを挑むこと自体が、すでに負けを意味してるだろう?」
「戦いを挑んじゃダメなんですよ」
みんな、ひっど! なんでそんなこと言うんだよぉ!
ネーベル!! ネーベルは違うよね? そんなこと思ってないよね?!
「正直に言うと、俺はアルがソーニョに後れを取って、不利な状況に追いやられる想像ができない。テオドーア様やイグナーツ様が言ったように、もともとの土台が違う。それにアルはたとえ羽虫を始末するにも全力でやるってわかってる」
酷い、ネーベルまでそんなこと言うなんて。
確かに僕は、黒いあのガサガサいう奴が出てきたら、バルサン焚くよりも家を壊して作り直した方が良いと思うたちだけども!
「そんなことよりも、俺はあの一応聖女のギーア男爵令嬢の方が気になって仕方がない」
ネーベルの発言に、僕だけじゃなく、マルクス以外のみんながピタッと固まる。
「正体がわかってるソーニョよりも、聖女と認定されてアルの周辺をうろついているギーア男爵令嬢の方が、得体が知れなくって不気味だ。俺はあっちの方を早目に排除したい」
忘れているわけじゃなかったけれど、そっちの問題があった。
ネーベルの言うことは、間違っていない。
ソーニョの対策は第三王女殿下の牽制があればある程度抑えられる。
見張りもつけれるし、大体の予想も立てられるから行動の先回りができる。
それができないのが、あのオクタヴィア・ギーア男爵令嬢だ。
ほんと、あのご令嬢。一体何もんなんだよ。
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