26 危険人物だからこそ傍に置く
とりあえず、こっちの主導で事を進めていいという許可をもらったわけなのだけど、ソーニョの素性どうする気なんだろう?
「第三王女殿下」
「はい」
「カプラ大公子息は、現在身分詐称をしているわけなのですが、ご挨拶に行くのですよね?」
「もちろん」
「今、彼は母方のファミリーネームを名乗っていまして、伯爵子息という立場です。素性を明らかにさせるのであれば、現在使っている貴族男子寮から、僕らがいる寮館に移ることになりますが、その辺りをどうするのか確認してください。一応任意という形にはなってますが、おそらく理事や教師、それから寮管理人からは移動を勧められると思います」
これはね、防犯めんどいから、男子はまとめとけやーってことですよ。
女子は貴族女子寮でまとめられてるけれど、男子はね僕らの学年で王子殿下二人に、辺境伯子息一人、それから養子ではあるけれど侯爵家子息がいるってことで、王族御用達の寮館を使用させてもらってるじゃん?
王族が学園にいる間は、高位貴族は寮館の方を使用してくれと要請が出てるはず。
今期から入ってきたオティーリエの弟君も、寮館のほうに入ってきたからね。
だからソーニョが、レオナルド・ソーニョ伯爵令息という身分詐称を正して、ジュスティス・レオナルド・ソーニョ・カプラ大公令息と身分を明らかにしたら、おのずと寮移動お願いしますってことになるんだよ。
移動は任意ではあるんだけど、顰蹙は買うよね。
防犯のために固まっていてほしいのに、一人だけ貴族寮とか、よけーな手間かけさせやがってとは思うよ。
「こちらとしては警備に人員を割きたくないので、貴族寮に残るとごねるようでしたら、移動するようにリトス王族として『命令』してください。ただでさえ身分詐称の件で心象を悪くさせているのに、警備の手間をかけさせるなと」
僕がそう言ったら、第三王女殿下は驚いた顔する。
「良いのですか?」
「何がです?」
「その……、リューゲン第一王子殿下から見ても、アレは警戒対象ですよね? 傍に置くことは……」
「警戒対象者だからこそ、傍に置くのでは?」
「え?!」
「目につくところにいてくれた方が何をするかわかるでしょう?」
大事な話をソーニョの前でしなきゃいいだけの話だからね。盗み聞き、できるもんならやってみなってもんだよ。
「……考え方が違います」
「なんの?」
「いえ、その……、上に立つ者としての考え方というのでしょうか。リューゲン第一王子殿下は、王族の人間の中でもとびぬけて、できるかたなのだと思います。ラーヴェ王国の未来は安泰ですね」
「それはどうも、ありがとうございます」
国王になるのは僕じゃなくってイジーなんだけどね。そのことは言わないよ。
いくら第三王女殿下が卒業後に出家するとしても、リトス王家の人間であることは変わりない。ラーヴェ王国の情報をリトスの国王陛下に報告する義務だってあるだろう。
その辺まーだ信用できねーからな。
「カプラ大公子息の件は、もし本人が捕まらない状態でしたら協力しますのでいつでも言ってきてください」
騎士科にはテオがいるからな。同じクラスのテオに頼んで捕獲して貰えばいいのだよ。
「第三王女殿下の話を聞く限り、カプラ大公子息は第三王女殿下のことは侮ってはいないと思いますよ。ですから自分の計画に縛りができたと思うでしょう」
「縛り……」
「彼が何かをするにしても、第三王女殿下がいるということは、行動に制限がかかるとわかっていると思いますよ。第三王女殿下はたまーにカプラ大公子息を訪ねて声掛けしてください。それだけで彼にとってはプレッシャーになると思います」
「わ、わかりました」
「あと、これだけは絶対にして欲しくない、しないでくださいと、お願いしたいことがあります」
「何でしょうか?」
「カプラ大公子息の件で騒ぎが起きた場合、騒ぎのもとに行くのは構いません。自国の人間が関わっているとなったら無視できないことですし、何よりも要注意人物の動向なんですから気になるのは当然です。なにがあったのか現状把握しておきたいと思うのも当然のことでしょう。ですがその場合、必ず単独行動はなさらないように。必ずそちらのお二人と一緒に行動してください。いいですか?」
「わかりました」
第三王女殿下の返事を聞いて僕は第三王女殿下の後ろにいる二人にも声をかける。
「お分かりだとは思いますが、お二方も第三王女殿下のお傍から離れないでくださいね。どこかで事故や騒ぎが起きても、第三王女殿下を置いて様子を見に行くとか、そういうのは他の人にやらせてください。人手が足りないなら貸し出します。貴方がたの任務は第三王女殿下の護衛とお世話であることを忘れないでください」
第三王女殿下の傍から離れて、単独行動なんてするんじゃねーぞと念押しだ。
たまーにいるからね。
危険に近づけたくないから、自分が様子を見に行きますって言って護衛対象者から離れるやつ。
その場合八割の確率で、手薄になった第三王女殿下が狙われることになる。もしくは様子を見に行ったお付きの人間が変なことに巻き込まれて大怪我するフラグよ。
怪我をするならご主人の肉壁になって怪我しろや。
おめーらの仕事は第三王女殿下のお世話と、万が一の肉壁になることで、よけーな仕事を増やすことじゃねーぞ。
言外に含んだ僕の言葉を察したのか、第三王女殿下のお付きの二人は、ビクビクと怯えながら承知いたしましたと返事をする。
「お、恐ろしい」
「王族ってもっと慈悲深いはず」
おい、しっかり聞こえてるぞ! 内緒話は本人がいないところで言え。
次回更新は5/13です





