22 復讐したいのはわかるけれども
第三王女殿下の立場を自分に置き換えたなら、そりゃぁ、コロコロするのは簡単だけど、それ以上苦しませることができないから、ものたりないか。
今までの行いが行いなだけに、第三王女殿下は、ソーニョが改心するなんて微塵も思っていない。
むしろ今までの行いを反省して急に『善人』になられては、復讐のしがいがない。だから『善人』にはなって欲しくない。
まぁ、ソーニョが心を入れ替えたとしても、それで憎しみが消えるってわけじゃないんだよね。
「筋違いなお願いなのはわかっています。ご迷惑をおかけしてしまうのも重々承知の上ですですが、どうか、わたくしの復讐を見逃してください。ラーヴェ王国で騒ぎを起こしてしまうことをお許しください」
手伝ってとか協力してじゃなくって、見逃してくださいか。
何が何でも自分の手で、ソーニョを甚振りたいんだろう。
王族はさ、基本こんなこと自分ではやらんのよ。指先一つの指示でおしまい。その代わりやったことが知れ渡ったときの責任は、全部自分でやらなきゃいけない。
中にはほかに擦り付けて逃げ出す奴もいるけれどね。
第三王女殿下は自分の立場をよく理解しているだろうから、生半可な気持ちで復讐したいなんて言ってるわけじゃないだろう。
「カプラ大公子息は……、まぁ、確かにラーヴェ王国の公女をつけ狙っているので、第三王女殿下の懸念は外れではありません」
「兄上」
僕の言葉にイジーがこっちの事情を話すのかって感じで見てくる。
「大丈夫。僕らがソーニョを警戒してるのは事実だし、実は第三王女殿下がソーニョと繋がって、オティーリエとくっつけようとしてるんだったら、そこはもう国際問題にできる案件だからね」
「そのようなことはわたくしの名前と立場に誓って致しません」
ほらね。
「第三王女殿下のお気持ちは理解しました」
ただなぁ、それで、はいそうですかってわけにはいかんのよ。
ソーニョの手綱を握ってコントロールできてるならまだしも、それができない状態なんでしょ?
僕としてはソーニョがやらかしてくれるなら、それを理由にイジーの件で口挟んでくるリトスの国王陛下に脅しをかけられるし、女神と何となーく関連してるんじゃねーか?と疑いがあるソーニョをラーヴェ王国から追い出すことができる。
第三王女殿下がソーニョを相手してくれるならそれでいいんだけれど、そいつの狙いがオティーリエなんだから、ラーヴェも無関係ですってわけにはいかんでしょう?
あと、第三王女が言ってる復讐。
「第三王女殿下は明確な復讐案があるんですか?」
僕の問いかけに、第三王女殿下はピクリと肩を揺らす。
「正直に言いますと、ソー……カプラ大公子息には、何をやっても堪えないと思います。第三王女殿下の話を聞く限り、カプラ大公子息は自分のやらかしが明るみになったから、ラーヴェ王国に逃亡したのは事実だと思います。でもそれは、『怖い人を怒らせて命の危険があるから』ではなく『善人でないことがばれて、今までの方法が通用しなくなったから』だと思います。言うなれば、遣り難くなったということですね。おそらく彼は、王族に対しての畏怖が全くありません。謝れば許される。刑に処されるとしても、禁固か労働かその辺りで済むと思っていますよ」
僕の話に第三王女は目を見開く。
まさかそれほどまでに不遜だとは思わなかったってことかな? いやソーニョの場合は不遜って言うんじゃないんだよねぇ。
「王族を怒らせるってこと自体がわかってないんですよ」
あれだけのことをやらかしてる人間の罰を、司法に委ねられた刑で済ませられると思う?
まぁ、表向きはそうなるよ? 捕まえて、罪状を明らかにして、このぐらいの刑を執行します、ってね。そんな風に公表するよね。
でも実際はさ、違うからね。そこは恨みを持つ人間の立場や匙加減によるけれど、王族相手なら、表向きの公表なんていくらでも捏造できるでしょう?
僕だってやったよ? 国王陛下の元側近たちのことね。
「カプラ大公子息は、第四王女殿下の心を壊しはしたけれど、それで自分が殺されるかもしれないなんて微塵も思っちゃいませんよ。そんなことできないだろうって高を括ってるんじゃないんです。そういう考え方が、できない、知らない、わかっていない」
「そ、そんな……」
「だって牢にぶち込まなかったんでしょう? 自分の罪の重さを理解してませんよ。あと、たぶん彼は自分が王族ではないということは理解してると思いますが、王族の傍系であることはわかってるんですよねぇ……。だから王族ほどではないけれど、それに近しい恩恵があってしかるべきだと思ってるんじゃないですか?」
やらかした父親のせいで、肩身の狭い思いをして、自分の地位向上のために第四王女殿下を利用したんだとすれば……、あいつ、王になる気だったのかなぁ?
リトス王家の継承権って男子優先で、今のところ直系男子は王妃殿下が産んだ末子の王子だけ。
でそれ以外の王族の血を引く男子は、国王陛下の弟たち。カプラ大公と、双子の片割れの元王子、あと臣籍降下でもともと所有していた伯爵となった王子。それから番外のヴァッハ。
双子の片割れの元王子は結婚して子供はいるけれど全員女子、なんだよね。国王陛下の妹君たちの子供に男子はいるけれど降嫁先の跡継ぎだからなぁ。
伯爵になった元王子は結婚してねーんだわ。代わりに愛人を何人かお持ちで、子供はなし。たぶん避妊してるんじゃないか?
もし、王妃殿下の産んだ末子の王子様が亡くなった場合、今のリトスの国王陛下の跡継ぎにできるのって、直近で言うとソーニョになるんじゃ?って思うじゃん。
でもそれ、やっぱり無理。
やらかしたカプラ大公の子供だからって言うだけじゃなくってさぁ……、カプラ大公って、たぶん先王陛下の子供じゃない。
ついでに言うと、国王陛下と国王陛下の同胎の王妹殿下、それから双子の王子と王女以外は、先王陛下の子供じゃない。
先王陛下は自分の子供たちの扱いに差があって、国王陛下と同胎の王妹殿下そして双子の王子と王女のことは、自分の足で赴いて様子見をしていたけれど、それ以外はまんべんなく報告書に目を通して口出しも何もしなかったってあったじゃん。
あれ、自分の子供じゃないから口出ししなかったんだよ。
自分の血を引いてる子供のことは、ちゃんと自分で確認してたけれど、そうじゃない子供は報告書で目を通すだけで充分。
で、その報告書側の子供に、カプラ大公もいたと。
先王陛下の血を引いていないカプラ大公は、絶対に国王にはなれないし、その子供であるソーニョも然りってことだ。
やっぱりあれかなぁ、目の色。カプラ大公殿下の目の色ってさぁ、赤系って言うよりも茶系の色なんだよね。
次回更新は4/15になります。
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