20 隣国の王家で起こったこと、そのご
第四王女殿下と入れ替わって、ソーニョの訪問を待ち構えて……。
そこで第三王女殿下は知ったそうだ。
「アレの厄介さは、助言のような物言いをするところです。特に気にするほどでもない、誰も気が付かないような些細なことなのですが、そんなことをしていると、みんなから嘲笑される。気を付けた方が良いと」
取るに足らない些細なことを、恥ずかしい失敗のように、とても人前に出られないようなことをしたかのように、まるで大罪を犯した者のように、言ったそうだ。
「そして、自分はそんなことは気にしないけれど、困るのは第四王女殿下だと、さも相手を想ってのことのように言うのです」
ソーニョの言いかたは、実に絶妙なのだそうだ。よくよく聞けばそれは相手を……、この場合は第四王女殿下を貶めている。
誰でもできることができないなんてみっともない。そんな失敗は誰もしない。自分なら恥ずかしくて二度と人前に出ることはできない。はっきりとそういうわけではなく、遠回しにそう受け取られるように言うのだそうだ。
それでいて、でも自分が第四王女殿下をサポートするから大丈夫。どんなに恥ずかしくても、傍にいてみていてあげると。
いや、ほんとーに、絶妙な言い回しじゃないか。
「心が弱っている第四王女殿下はマヒしていたのでしょう。正常な感覚でいる者が聞いていたら、どんなに丁寧な言いかたをしていても、言われている相手を貶めているとわかります。念のため収音できる魔導具と映像の魔導具を起動させていたので、見舞に来ていたアレが第四王女殿下に何を言っていったのか記録ができました」
身代わり作戦は何度か行っていたそうだ。
そして証拠をいくつか入手した第三王女殿下は、王妃殿下と側妃、王家に残っている第一王女殿下を招集し、まずはこの映像と音源を聞いてほしいと、何の説明もせずに魔導具で録画した映像と音声を聞かせた。
映像と音声を聞いて真っ青になったのは側妃で、取り乱しながら第四王女殿下のもとに行こうとしたのをとどめ、第三王女殿下は自分から見た視点ではあるが、第四王女殿下の精神が不安定になっていったのは、ソーニョとのかかわりが増えていき周囲もその関係を推していくようになってからだと報告した。
「その証拠の魔導具を信用できないのならと、アレの見舞い現場を見せましたよ」
当時のことを思い出したのか、ソーニョにたいしてへこませたことを笑う第三王女殿下だが、これは周囲の『良かれと思って』という親切心にも腹を立てていたのだろうなと思った。
第四王女殿下がソーニョに対して恋愛感情を抱いていたとしても、ふたりを結びつけることは絶対にならないと、徹底して周知していなかったことが許せなかったのだろうね。
今だけのことだからとか、結ばれないとわかっているのだからひと時の間だけでもとか、そういった悲恋的な状況に感情移入する者が多かったからこそ起きた問題だ。
そうしてことが発覚したのだが、ここからがまた厄介なところになる。
ソーニョは、第四王女殿下を貶めるような発言は、自分ではなく周囲がそう言っていると持っていく言いかたをしていたのだ。
だから、ソーニョがいつものように第四王女殿下を貶める発言をして、それを隠れて聞いていた王妃殿下や側妃、そして第一王女殿下が飛び出して問い詰めたところで、『人から聞いていた』『誰が言っていたか覚えていない』とはぐらかされる始末だった。
「人を貶めるということに長けていない人間が、アレを問い詰めたところで、言い逃れされるのは目に見えていました。ですがわたくしは違います」
ソーニョが『人から聞いた』と言えば『では誰に聞いた?』と第三王女殿下が問い、『覚えていない』と言ったなら、『その公務に出席して、第四王女殿下とお前と会話した相手を片っ端から尋問しよう』と、ことごとく逃げ道をふさいだそうだ。
お前は第四王女殿下が貶められていたことを知っている証人なのだから、他の者の尋問が終わるまで王宮で保護してやろうと、ソーニョを逃がさないように、王宮の一室で監禁することにした。
実際、第三王女殿下は、第四王女殿下とソーニョと会話した相手を洗い出して、尋問を行ったそうだ。
もちろん、公務での場所で、第四王女殿下を貶める発言をした者などいない。いたとしてもソーニョによって誘導発言をしてしまった者ぐらいだ。
「アレもそこまでくれば自分の形勢が不利になっていることに気が付いたのでしょう。自分が言った発言を『聞いたような気がする』と曖昧にぼかすようになったのです。まぁそれでも、魔導具の映像と音声記録が残っていますからね。そんな言い訳は全部叩き潰して差し上げましたよ」
その時のことを思い出しているのか、それはもう楽しそうに、第三王女殿下は言った。
バッカだなぁ~、ソーニョの奴。こんなおっかないのは、相手にするもんじゃないよ。もう徹底的に逃げの一手を取らなきゃ、握りつぶされるっつーのに、自分なら大丈夫だって慢心しやがったな。
結局、ソーニョは蛙の子は蛙だと、リトスの王陛下筆頭に王宮に残っている王族や、王宮勤めの者たちに知られることになったそうだ。
その一件でソーニョは王宮へ立ち入り禁止となり、学園に入学するまで自宅謹慎とされ、王族との接触も規制がかけられた。
それでも甘いと言っちゃ甘いのだけれど、敵愾心を持つものでもソーニョを見逃してしまうという現象がある以上、それこそ牢屋にぶち込む以外に手立てがないのだ。
なら牢屋にぶち込めばいいじゃんって話になるんだけど、そう簡単にはいかないんだよね。
だって、一応親は大公で、籍には入れられないし継承権も持たせられんが、直系の王族の血は引いているのだ。
そして不敬は不敬なんだけれど、やったことがあんまりにもちっちゃすぎる。
大事になったのはひとえに第四王女殿下が打たれ弱い性格で病んでしまったからで、同じことを第三王女殿下にしたところで反撃していただろう。
もっと決定的な大罪を犯していたなら、牢にぶち込めたけれど、そうじゃなかったために、親である大公同様、ソーニョは監視対象者として、常に様子を見張ることになった。
そうしてソーニョは隙を見てラーヴェ王国に逃げてしまったというわけである。
GAノベルから
4月15日に発売します