17 隣国の王家で起こったこと、そのに
ソーニョと第四王女殿下の縁組をと言い出したものは、多くはなかったけれど一定数はいたそうだ。
その一定数の中には国王陛下もいたそうなのだが、この件に関しては王妃殿下が断固として拒否したそうだ。
リトスの王妃殿下はソーニョの生い立ちや親のことで不遇を強いられているソーニョを気の毒に思って支援はしていたけれど、ソーニョの存在自体がリトスにとっては危険分子であることは充分に理解しているそうだ。
だから情に流されることはせず、第四王女殿下との婚約、婚姻も反対した。
ここで二人の婚約に王命出したら、ヘネロシダー公爵の逆鱗に触れるが、おめーわかってんのか?と、遠回しに脅したそうだ。
うちの王妃様の実家であるヘネロシダー公爵は王家に忠誠を誓っているわけではなく、先王陛下に忠誠を誓っているというのはリトスでも有名な話なので、うちの王妃様とカプラ大公の一件で、リトスの現国王陛下はヘネロシダー公爵家を怒らせたくない。
だから王命を出してソーニョと第四王女殿下の二人を婚約させるということはしなかった。
うちも婚約ごとに関しては相当慎重になってるけれど、それはリトス王国も同じ。
それだけ、カプラ大公とうちの国王夫妻の出来事は、大事件だったんだよ。
もう、安易に人前で婚約破棄!なんて、するんじゃねーって風潮を広めたし、それから王家の婚約は、国民や諸外国への発表も、慎重にならざるを得なくなった。
ソーニョと第四王女殿下の婚約も、大人になって本人同士その気があったらまとめましょうってことで、でも誰もが無理だろうなという気持ちだったっぽい。
二人を結婚させるにしても、二人の間に絶対子供は作らせないというのが第一条件になるからね。
ソーニョはもう致し方がないよ。本人に咎はなくても親のせいで、血を後世に残すリスクよりも、断ち切る安全性を誰もが望んでいる。
ただ第四王女殿下はね……、王族の姫なんだもの。王族としての役割があるから、できれば子供を残してほしいってことだね。
ここでこの婚約話がそれほどまでに長く討論されなかったのは、ひとえに第四王女殿下の性格にもよる。
第四王女殿下は自己主張をあまりされないタイプで、ソーニョに対して恋心を持ちはしたものの、父親である国王陛下に自分の婚約者にしてほしいと、我儘を言って頼むことはしなかったからなのだそうだ。
傍にいるだけで幸せといった感じで、ソーニョにアプローチらしいアプローチはしなかったそうだ。
「アレは……自分が異性から好意を向けられる容姿であることを自覚しています。ですから自分の傍に寄ってくる令嬢にはことさらいい顔をしていましたよ」
でも決定的な態度はとっていなかったそうだ。
何となく自分だけは特別扱いしてくれるのかも、そう思わせるのもとても上手かったらしい。
「同年代の令嬢の中には、アレと結婚したいと言い出す貴族令嬢たちもいました。しかし親は、カプラ大公夫妻の醜聞を知っていますし、アレのことは王家の許可が必要となっていますからね。親の方はアレとの婚約、結婚という話は『王家の許可が必要』と言って宥めていました」
リトス王国の公爵家や侯爵家にも、ソーニョと年齢が釣り合う令嬢はいて、そういった令嬢たちはこぞってソーニョの婚約者になって将来結婚したいと望む者もいたそうだ。
だけど、やはり婚姻に関しては、王家から貴族へという形が通例だからね。貴族の方から王家に申し出をするわけにはいかない。
お伺いという形ならあるだろうけれど、カプラ大公夫妻の醜聞を知っているなら、そのお伺いさえも躊躇うだろう。
「人はダメと言われると余計欲しくなるものではないですか?」
第三王女殿下が言っているのは、ソーニョと婚約したいと望む令嬢たちのことを言っているのだろう。
「そしてアレの傍にはわたくしと第四王女殿下がいる。幼いながらも令嬢たちの嫉妬はすさまじかったですよ。しかし私たちは王族ですからね。嫉妬で事を起こして、下手に誹謗中傷などしたら、どうなるかぐらいはわかっていたと思います。期間を空けて二、三度ほど見せしめも行いましたから」
第三王女殿下と第四王女殿下に対して、突っかかってきた程度ではなく、貶めてきた令嬢がいたんだろうな。
幼い頃なら世間の仕組みもまだあやふやで、やらかしたご令嬢は、『王族には絶対に手を出してはいけない』なんてことも判断できなかったのだろう。
だからやっちまった令嬢や、令嬢を制御できていなかった親に、王族相手に喧嘩を売った落とし前をつけさせて、まだやらかしていないうぬぼれ令嬢たちの親には、おめーらの娘はちゃんとわかってるんだろうな? 把握していませんでしたじゃ済まされねーんだぞ? 王女相手に敵愾心持ってんなら教育を見直せやと圧をかけた。
バカじゃない親なら王族への不敬は絶対に許されないと、うぬぼれ令嬢たちに叩き込むだろう。
「それでも、危険なことに手を出す令嬢はいるのですよ。アレはそういった令嬢たちを煽って、第四王女殿下を中傷させたのです」
「動機は?」
「自分だけが味方だと、そう思わせるためです。自分に気がある令嬢たちが自主的に第四王女殿下を中傷するように仕向けておきながら、どこかの英雄のように颯爽と現れ助けに入るのです」
マッチポンプだなぁ。
「もちろん、煽った令嬢たちにも陰でフォローを入れて、アレに悪印象を与えないようにするのですからね。そこは本当に感服します」
どちらにもいい顔をして、でも破綻しないように、立ち回っていたんだろうな。
う~ん、惜しいなぁ。そういうさぁ、野心溢れてる人は、使いようによっては良い駒になるんだよねぇ。
ただ、僕らからするとソーニョは明らかに排除しておかなきゃいけないモノだから、惜しいとは思わずに始末するに限る。
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