16 隣国の王家で起こったこと、そのいち
ソーニョに対しての憎悪を隠すことなく第三王女殿下は僕らに言った。
「アレが、我が国の第四王女殿下に何をしたか、お話ししましょうか?」
「悩みますね」
知りたい気持ちもあるけれど、リトスのごたごたに巻き込まれたくないというのもある。
ただなぁ……、第四王女殿下に何かしたっていうのがなぁ……。
ソーニョと第三王女殿下、第四王女殿下は同じ歳。
被害に遭ったのが、同性ではなく異性。
なーんとなく、イヤーな感じがするよね。
「リトスの揉め事にはかかわりたくない。けれど、ソー……カプラ大公子息は、僕に近しい親族をターゲットにしている節があるので、情報は得ておきたい気持ちもある」
僕がそう言うと第三王女殿下は目を見開いてまじまじと僕の顔を見つめ、落ち着きのない態度になる。
「ターゲットにされているのは女性ですか?」
そこを気にするということは?
「もし女性であるのならば、アレが我が国の第四王女殿下に何をしたのか知っていただいた方がよろしいかと思います」
厳しい顔つきでそう告げる第三王女殿下に、僕は心の中がざわざわとし始める。
なんだろう、このざわざわ。
扉の向こう側にあるものが、どんなものがあるのかわからないのに、でも目をそむけたいものがあるのだと、うすらぼんやりと気が付いてる、そんな感じと同じ。
見たくない聞きたくない、でも、きっと知らなきゃいけないのだろう。
「話を聞きましょうか」
腹をくくって、第三王女殿下の話を聞くことにした。
説明した通り、第三王女殿下と第四王女殿下、そしてソーニョは全員同じ歳だ。
そして第三王女殿下がさっき言っていたように、ソーニョが幼い頃は、王妃殿下が庇護をしていた。
つまり、ソーニョはある程度の年齢になってからは、王宮に出入りして、第三王女殿下と第四王女殿下とともにマナーや学問を学んでいたようだ。
「王妃殿下は、アレを王族にすることはできないが、場合によっては重要なポストにつけるようにと思っていたのかもしれません」
そのために王女殿下と交流をさせ、親睦を深めさせた。
第一王女殿下が一代大公として、第一王子殿下を支えることが決まっていたので、第二王女殿下がうちの王妃様のご実家とは違う公爵家へ降嫁していて、第三王女殿下と第四王女殿下は学園に通う年頃になったら、どうするか本人たちに決めさせるつもりでいたそうだ。
もちろんその前に婚約の申し込みがあったなら、相性を見て縁談をまとめることも視野に入れていたらしい。
リトスの王立学園は、ラーヴェ王国とは違い十五歳から三年間で、それまでは各家で基礎学習を済ませることになっている。
まぁ王家の人間はね、学園に通わなくたって優秀な教師をつけてもらえるし、本人が望むなら、専門分野の教師に来てもらうことだってできるんだよね。
リトスも同じで、学園に通うのは、どちらかといえば同世代との交流をして、人材発掘するためなんだそうな。
「先ほどもお伝えしましたが、アレは人の心に入るのが上手い。特に権威ある人物に対しては、謙虚な態度で、無害さや善良さを印象付ける。なにも知らない者はアレの生い立ちや身の上に絆され、親身になることでしょう」
「第三王女殿下は違うのですか?」
「わたくしはアレとの初対面のとき、なんて醜悪な存在なのだろうと思いました。まだアレの何をも知らなかったのですが、直感というのでしょうか? 予感、というか、まぁ、感覚的なものです」
つまり、第三王女殿下のゴーストが囁いたとか、そういうやつね。
「良いことなのか悪いことなのかわかりませんが、アレは容姿にも優れています。カプラ大公は顔だけは申し分なく美形ですし、大公夫人も可愛らしいと言われる容貌でした。二人とも美醜で区別するならば、美の方です」
ソーニョの容姿は、両親のいいとこどりなのだそうだ。
ふーん。それでもうちのイジーには劣るけれどね!
「わたくしとは逆に第四王女殿下はアレに心を奪われました」
ラーヴェ王家は血が濃すぎるのは良くないとしていて、近親婚にならないように調整されているが、リトスは従兄妹ならばいいのでは?と、おおらかなのだそうだ。
だから従兄妹同士である第四王女殿下がソーニョに恋心を抱いても、周囲が止めるということがなかった。
というかむしろソーニョの身の上、親のせいで不遇を強いられていることに心を痛めている人は、二人を婚約させて新たな家を興させてはどうだろうか? という話も出ていたらしい。
でもねー、それは諸刃の剣だよね。
なんというかカプラ大公の血を引き継ぐ子供を残すこと自体、よくないと見てる人もいるらしい。
そりゃそうだ。
だって、ソーニョの存在自体を阻止しなきゃいけなかったのに、対策せずに産まれさせちゃったわけでしょう?
親と子は違うといっても、現実ソーニョは色眼鏡で見られて、不遇を強いられた。後々のことを考えれば、過去に大スキャンダルを起こした元王子の血を引く子孫って、これはもうずっとついて回る文言なんだよ。
ソーニョだって王族にやらかしてラーヴェ王国に逃亡したんだし、子孫がやらかしたら『あの男の血を引く一族だから』って延々言われるんだもの。
ソーニョが産まれたことの件で対策を取らなかったことを悔いた人間は、絶対に許可しないだろう。
しかも相手は第四王女殿下だよ? 一応現国王の直系だよ? 用心を重ねる人間はその二人の間にできた子供が、相応の権力を持つことを理解してる。
つまりカプラ大公の血を残すことになるし、その血を引く人間を王家に戻すことになるし、権力も与えてしまうことになるのだ。
安易にくっつければいいなんて考えられない。
強固に反対する者が出てくるのは当然のことだよ。
GAノベルから
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