13 第三王女殿下からの謝罪
正直、聖女の件とソーニョの件で、これ以上面倒ごとはいらねーと思っているんだけど、他国からの留学生に来るなとは言えないからね。
僕はイジーが変なことに巻き込まれたり、リトス王家の人間からくっだらないことを吹き込まれたりさえしなければ、好きにせーよと思っているのだ。
そうしてやってきた王女様は、予想通り領地経営科にやってきた。
「エウラリア・ミリアム・アツァ・トレ・コルサール・リトスですわ。どうぞよしなに」
エウラリアはファーストネーム、ミリアムはセカンドネーム。アツァはリトス王家の女子という意味で、トレは王の三番目の子供という意味。コルサールはリトスの王朝名ね。
リトス王国の第三王女殿下は、レモンイエローの髪に、ワインレッドの瞳をしていた。
リトス王家の直系の血を引く子供は、色の濃さはまちまちだけど、赤系色の瞳を受け継ぐんだよね。
王妃様は直系から外れているけれど、ガーネットみたいな瞳の色だったし、ヴァッハはローズレッドの瞳だ。
ソーニョは大公子息だけど緑眼。母親の方の血が濃かったのかな?
編入したその日のうちにリトスの第三王女殿下は、僕とイジーにコンタクトをとってきた。
ラーヴェ王国の王子殿下がたに会談を申し込みたい。って内容でね。
同じクラスだからさ、王族としての挨拶も、王女の編入紹介の時に教室内でやったんだよ。
その時に、留学生活で何か不都合なことが起きたなら公女であるオティーリエか、公爵令嬢であるヘッダに遠慮なくどうぞ。女性同士の方が話もあうでしょう?とさりげなーく、イジーにすり寄ってくんじゃねーぞと牽制したんだよ。
それで、こっちが警戒してるとわからせたと思ったんだけどなー?
でもさぁ、見方を変えれば、わざわざそんな風にいってきたってことは、僕らに何か話すべきことがあるってことなんだよね?
よろしい、受けて立ちましょう。
そんなわけで、日時を決めた後、放課後に学舎内の空き部屋をリザーブして、話し合うことにしたわけよ。
リトスの第三王女殿下は護衛の従者だろう少年と少女を連れてきていた。
まぁ僕とイジーも、ネーベルとリュディガーを連れてきていたからね。そんなことにいちいち気にしたりはせんよ。
「改めてお時間をとっていただきありがとう存じます」
カーテシーで挨拶をする第三王女殿下。
さすがは王族。公女のオティーリエや公爵令嬢のヘッダに負けず劣らずの、美しい所作だね。
「いいえ、アインホルン公女やハント゠エアフォルク公爵令嬢には相談できないお話なのでしょう? どうぞ座ってください」
相手に警戒されない笑顔を作るのは得意だ。
第三王女殿下に椅子をすすめて、着席したのを見計らって、僕とイジーも彼女に向かい合うように座る。
お互いの従者は後ろに。
いつもだったら、ネーベルやリュディガーにも一緒に座ってもらうけど、非公式でも形式は崩せない相手だからね。
「それで、何かありましたか?」
僕のきりだしに、第三王女殿下はうっすらと浮かべていた笑顔をひっこめて、真顔で僕を見る。
この表情のなさが、何となくイジーに似てるなーと思ってしまった。
「まずは謝罪を」
「されるようなことはないと思いますが」
「わたくし個人ではなく、ラーヴェ王国へ来ることがかなわずにいる王妃殿下の代わりと、リトス王家の一員としての謝罪です」
そう言って第三王女殿下は、深々と僕らに頭を下げた。
「王家の血を引くわが国の者が、短期での滞在ならまだしも、長期にわたり身分を偽り滞在したこと、深くお詫び申し上げます」
ふーん? ソーニョの件はすでにリトスの王家も把握していたってことか? それともラーヴェ王国からのクレームを受けて、それで第三王女殿下が来たってこと?
「謝罪、受けました。顔をお上げください」
顔を上げる第三王女殿下は、臆した様子はなく、かといって敵愾心のようなものもなく、まっすぐ僕らを見つめる。
「後始末にいらした、という見解でよろしいか?」
僕の問いかけに第三王女殿下の返事は『はい』でも『いいえ』でもなかった。
「厚かましいお願いをしにまいりました」
「連れ戻しに来たのではないのですか?」
謝罪したってことは、身分を偽って他国に長期滞在してる行動が問題だって、リトスでも思ったからでしょう?
「申しわけありません。無理に連れ戻しても、あの者はこちらに逃げ戻ることでしょう」
「第三王女殿下、それはリトスではカプラ大公子息の管理ができないと言ってるのと同じです」
「……軟禁、いえ、監禁したとしても、見張りがあの者に絆されてしまうのです」
なんだそれ。
「王家に対して忠誠を持ち、あの者にいい感情を持っていなくても、なぜかあの者に絆され見逃してしまうのです。あの者と引き離し時間が経つと、なぜあの者の言うとおりにしたのかわからないと。そしてさらに悪感情を抱くようになります」
それって……、いや、オティーリエの場合は、もとよりオティーリエに悪感情を持つ者は傍にいなかったし、ヘッダやテオもオティーリエに絆されたりはしなかったな。
オティーリエに対してヘッダとテオの態度がマシになったのは、オティーリエが自分の至らなさを反省して、あまあまなところをそぎ落としていったからだ。
もしオティーリエがヒロインムーブをかまし続けていたら、ヘッダは高笑いしながらこき下ろして、オティーリエの自尊心をバッキバキにへし折るだろうし、テオは相手にしないでさっさと離れるよ。
前に一度、ソーニョにも魅了があるかもって、疑ったことがあったけど……、第三王女殿下の話を聞くに、確定じゃないか?
ただ、やっぱりオティーリエとソーニョの魅了の性質っていうか、効能? 機能? ともかく種類が微妙に違う気がする。





