12 留学生は隣国の王女殿下
イヴとデートした翌日、僕はオティーリエたちに留学生の話を聞くことにした。
「実はその件で、わたくしもアルベルト様にお話ししたかったのです」
オティーリエは公女だから、いち早くその情報が入ってきたのだろう。
「わたくしがお話を聞いたのは、十日前です。寮の管理者にお話を聞きました。ヘドヴィック様もご一緒です」
「ヘッダも一緒に?」
理事の一人だからなぁ。オティーリエに話す立場だったのか、それとも学園に通う生徒としてオティーリエと一緒に話を聞く立場だったのか。
「お相手が実際に入園するまでは緘口令を敷いていると言うことで、アルベルト様にお伝えしてもいいものなのか悩んだのです。それにアルベルト様にはヘドヴィック様からお伝えすると思いましたし」
「ヘッダは理事の仕事があるから忙しいと思う」
ソーニョの件もあるだろうし。
「そうですね、アルベルト様は留学生の話はどちらから?」
「ヒルトから、女子の貴族寮で高位貴族用の部屋を準備しているって話を聞いたよ。ついでにイヴからも同室の子から留学生が来るんじゃないかって話を聞いたらしい」
本当はイヴの話が先で、ヒルトが後なんだけれどね。どっちが先に言いだしたかで、気づかれちゃうかもしれないからなぁ。
ヘッダなら気づくだろう。ここに居なくてよかった。いや、でもヘレーネ嬢も侮れないんだけどね。
「そう、ですか。留学生が来る話は、貴族寮の生徒なら気づいてしまいますね。かなり大掛かりな入寮になってますから」
「もう荷物の搬入があるの?」
「はい……、本人が入寮する前に、全部整えておかなければいけないと」
やばい、それってただの高位貴族って話じゃないな。
僕の表情からオティーリエも気づかれたと読み取ったのか、声を潜めながら告げた。
「リトス王国の三番目の王女殿下です」
まじかー!
「三番目の王女殿下というと、側妃の子だよね?」
「はい」
リトス王家の王位継承権は、うちとは違って男子が優先される。
生まれる順番が後ろの方でも、まず王妃が産んだ男子に、王位継承権を一番に置かれるのだ。次に側妃が産んだ男子。男子が優先で、その次に女子になる。
今のリトス王家は王妃との間に先に二人王女を儲けていて、男子が生まれないので側妃を二名召し上げて、側妃二人も女子を産んでいる。
そのあとに王妃が男子を産んだのだ。
側妃のうち一人は産後の肥立ちが悪く、寝たきり状態なので離縁という形をとって実家で療養中。産んだ王女は王族だから、母親と一緒に王宮を出ることはかなわず状態。
残った側妃は、もとより王妃の側近的な立ち位置にいた令嬢だった。
側妃選定に王妃も一枚かんでるな。自分のところの子飼いから側妃を出した方が、側妃が男子を産んでも、派閥的には王妃の痛手にならない。
結局王妃は男子を産んでいるから、国母となったのはリトスの王妃だ。
「三番目の王女ってどっちの側妃の子供なんだろう?」
側妃二人は同じタイミングで懐妊して、同じタイミングで王女を産んでいる。
三番目と四番目の王女が、どっちの側妃の子供かまでは、僕もわからない。そこまで調べてないんだよね。
「どちらの側妃というのは?」
僕の呟きを拾ったオティーリエが、不思議そうに尋ねてくる。
「リトス国王陛下には側妃が二人いるんだけど、そのうち一人は離縁してるんだよ。産後の肥立ちが良くなくって実家に戻ってる。残ってるのは王妃と近しい側妃なんだけど、この二人の側妃、同じ時期に王女を産んでるんだ。第三王女が残ってる側妃の子なのか、それとも離縁した側妃の子なのか、そこまで僕は調べてないから、どっちの子なんだろうなって」
「……そうだったんですね。申し訳ありません。わたくしもそこまで気にしておりませんでした」
「普通は気にしないからね。僕は単純に自分の立場上知っておいた方が良いのかなって思っただけ」
あと、イジーにちょっかい出された場合だ。
もし、残ってる側妃の子供で、留学の目的がイジーだった場合は、そこからリトスに交渉持ち掛けられるからねぇ。
「兄上、良くないお顔ですよ」
イジーに注意されてしまった。
「王女殿下は来週入園されます。前日にヘドヴィック様と私が、王女殿下にお会いして、学舎をご案内する予定です」
決めたのはヘッダだろうなぁ。
まず相手の出方を見極めたいってことなんだろう。それには、理事であるヘッダと、そして公女であるオティーリエが出迎えた方が良い。
前日に学舎を案内するってことは、僕らとなるべく関わらせないためだろう。
それでも一度はお互いに挨拶はしなきゃダメだとは思う。
「会ってみないことには何とも言えないか」
留学の目的が、イジーかどうかも、まだわからない。でも純粋に勉強しに来るわけではないと思う。
ラーヴェ王国での学びを受けたいなら、上学部への進級時期にあわせて来るはずなんだよ。
なのに四年生から、しかも数か月後には夏の長期休暇に入るって時期になんて、中途半端すぎる。
明らかに、目的は勉強ではなくほかにあると見ていいだろう。
「オティーリエたちも、一応気を配っておいてね? 相手の目的は不明だけど、警戒しすぎて失礼な態度にならないようにしないとだめだし」
「そうですね。気を付けます」
オティーリエの返事を聞いた後、イヴに言われたことを思い出す。
「ヘレーネ嬢」
「はい、なんでしょうか?」
「僕、許可されていないご令嬢には嬢をつけることにしてるんだけど、イヴからヘレーネ嬢を呼ぶときもとってあげてって頼まれたんだ。とった方が良い?」
「てっきり親しみが足りない相手には嬢をつけているのかとばかり思っていました」
「違うよー。ほら許可もとっていないのに、馴れ馴れしく呼んだら失礼でしょう?」
オティーリエだってそうだったし、ヒルトとヘッダだってそうだったんだよ?
そのことを説明したら、ヘレーネ嬢はそうだったのかと納得した顔をする。
「では、呼び捨てでお願いします。イグナーツ様も」
「……わかった」
何も言いません。
えぇ、なんかひっかかるものがあったなーなんて、言わないよ、僕はね!





