06 頼もしい側近と愛しい人に相談する
ラーヴェ王国からウイス教国への抗議で、オクタヴィア・ギーア嬢が大人しくなると思いきや、そうは問屋が卸さなかった。
あのお嬢ちゃんね、ことあるごとに僕とイジー、そして僕らと一緒にいるオティーリエに付きまとうようになったんだよ。
いやー、付きまといも二種類あるんだね。
僕とイジーには、『なぜシュタム会に入らないのか』『お二人なら立派なヴェルツェルになれる』『お二人にはヴェルツェルになって、学園をもっと素晴らしくしてほしい』『お二人がシュタム会に入ったなら、私もお手伝いします』的なことを言いかたを変えながら何度も言ってきたり、誰とははっきり言わないけれど、嫌がらせを受けている的なことを遠回しに匂わせることを言ってくる。
おめーのその態度じゃぁ、嫌がらせも仕方がないのでは? と、思うけれど、お口チャックだ。
オティーリエに対しては姿を見つけると、わざと近くを通りかかって、すれ違いに大袈裟に転ぶ。そのあとは痛い痛いと騒ぎだして、人目を集めるんだよね。
学園祭の準備期間の時と同じように見えるんだけど、一点だけ違うのは、オティーリエに何かされたと具体的な発言をしていないのだ。
前回、僕が来たときは、『酷い』という言葉を繰り返して、『オティーリエ様に』と言って泣き出していた。
けれど僕が来る前に、『わざと足を引っかけた』『公爵令嬢だからって』と発言して、明らかにオティーリエに何かされたと雰囲気にもっていこうとした。
実際ぶつかったのはアンジェリカだったし、しかもオティーリエは『公爵令嬢』ではなく『公女』だと、ほとんどの生徒は知っている。
ヒルトの話によると、あのあと、淑女科にいるアインホルン公爵の寄子家のご令嬢が、オクタヴィア・ギーア嬢に抗議したそうだ。
曰く、許されてもいないのにオティーリエの名を気安く呼ぶな。ついでに公爵令嬢ではなく公女様だとね。
オティーリエは寄子家のご令嬢から、慕われてるんだよね。
昔、僕の悪い噂や風評被害が広まって、それが自分の行動が発端だったとことを付き合いがあるご令嬢や、寄子家のご令嬢たちに説明して回ったそうなのだ。
第一王子殿下の悪い噂は、誤解されるような態度をしていた自分のせいで起きたことである。
付き合いのあったご令嬢の家に訪れて、自分はみんなが思っているような、清く正しい人間ではなく、手本になる立派な令嬢でもなく、小心者の怖がりで狡い人間なのだと、そう説明していったらしい。
今後ほかのお呼ばれや茶会で、第一王子殿下の悪い話が出たら、全部事実無根であることと、その話が広まったのはオティーリエのせいだと伝えてほしいとお願いして回った。
今オティーリエの傍にいる令嬢たちは、そんなオティーリエを受け入れた者たちで、だからなのかもしれないけれど、しつこくオティーリエに突っかかってくるオクタヴィア・ギーア嬢に腹を立てているらしい。
ただ僕は、このオティーリエの寄子家のご令嬢たちが、オクタヴィア・ギーア嬢に腹を立てている話を聞いて、ちょっと危ういなーとは思った。
貴族であるなら、高位の貴族令嬢の名を許可なく呼ぶことや、継承権を持っている公女を公爵令嬢呼びすることは、してはならないと、当たり前のように知っている。
その当たり前を知らないオクタヴィア・ギーア嬢に注意するのも、まぁわかる。
ただねぇ……、この流れってオティーリエが寄子家のご令嬢を使っていじめを行っていると、そう思われてしまう感じなんだよねぇ。
僕が注意するのは簡単だけど、この件はオティーリエが方をつけないといけないような気がするんだよね。
意地悪で言ってるんでも、面倒だからってオティーリエに押し付けるってわけでもなくって、オティーリエは次期アインホルン公爵になるのだ。
次期公爵となる身なのに、家門の寄子家のご令嬢たちをコントロールできないのは、次期当主としてはどうなのか?と、そういう話なのだ。
気づいてないのかなぁ? 教えてあげた方が良いのかなぁ? って色々考えてしまうのだけど……。
イマジナリー・ヘッダがにやーんと猫ちゃんみたいな笑顔を浮かべて、『アルベルト様は甘いですわねぇ~』って、言ってるんだよ。
そう、ここで僕がオティーリエに何か言うのは、次期公爵としてやっていくオティーリエの成長を止めることになるのだ。
難しい話だ。
ここで僕一人が悶々と悩んでいても、どうかな?と思うので、優秀で頼りがいのある側近二人と愛しのイヴに相談しよう! そうしよう!
というわけで、週一デートの日に、この話をすることにしたのだ。
「あのね、イヴ。相談したいことがあるんだ」
「……私にだけ?」
今日は先週から美術館でユトリロ展が開催されて、それを見に来たのだ。
ユトリロというのは、シュラート物語を題材に似た絵を描く絵画作家さんで、人物もなんだけど風景画やそれから魔獣……、特にドラゴンと英雄シュラートの絵がめっちゃ有名なんだよね。
その絵画展が学園都市の美術館で開催されることになって、僕らも見に来たのだ。
ユトリロ展で展示されている作品を見ながら、こそっとイヴに耳打ちしたら、イヴは光の加減で金にも見える琥珀色の瞳を僕に向けて、訊き返してきた。
うぐ! 勘がいい!
「ネーベルとヒルトも一緒に」
「いいわよ」
わーい、って素直に喜べないなー。
僕がイヴにお願いした週一デートは、双方だったり片方だったりの都合で、流れる場合もあるから、毎週毎週デートできるわけでもない。
だから、イヴとの週一デートの時間は、僕にとっては貴重なので、そんなときに、オティーリエのこととか聖女のこととか、話したくねー!!
でも心にもやもやしたものを残して、イヴとの時間を心あらずな状態で過ごしたくない!
僕はイヴと一緒に時間を過ごすときは、イヴのことだけを考えていたいよー!!





