05 王宮の方でも問題になったらしい
オクタヴィア・ギーア嬢が何か言いたそうなそぶりをしていたけれど、ウイス教の方々はさっさと撤退してしまった。
まぁそうだろうな。
どこまで情報を得ているかは知らないけれど、成人したら王太子となるだろう第一王子が『王子二人をウイス教の小間使い扱いするってことは、ラーヴェ王国に戦争を吹っかける行為なんだが? そっちがその気なら受けて立つが?』と、遠回しに言ったのだ。
オクタヴィア・ギーア嬢と一緒に来ていたウイス教の方々が、どれほどの権威を持ってるかは知らんけど、ウイス教総本山の方に、第一王子殿下がこのようなことを言って大変ご立腹状態と、伝えるぐらいはできるだろう?
僕の発言を自分たちのところで留めて、ラーヴェ王国からウイス教国の総本山に抗議の手紙が来た場合、なぜ報告しなかったとなるわけだしな。
ちなみに僕は、宰相閣下に『ウイス教から新しく聖女になった女生徒の小間使いをしろと言われた。向こうからなんか言ってくるかもしれないから、あとヨロ~』って感じの手紙は出してある。
なんかその件で、国務会議で臣下貴族と国王陛下とで、ひと悶着あったらしいんだよね。
国王陛下がさぁ、なんかいらんことを言ったそうなんだよ。
なんて言い出したと思う?
その聖女を王家に取り込むために、王子のどちらかを婚約させては?と、寝言をほざいたらしい。
そうしたら、オブザーバー参加してた王妃様が、『聖女を王族に取り込みたいと言うならば、陛下の側妃として後宮に入れるのでもよかろう?』と言ったらしくって、国王陛下がなんでそうなるんだとか焦りだしたそうだ。
なんでそうなるんだって言うのは、国議に出てる大臣たちだったと思うよ?
何度も言ってるけど、政治に宗教入れんじゃねーつーのが、ラーヴェ王国の方針なんだよ。
おそらく、これは僕の予想なんだけど、国王陛下は『聖女』=宗教、ウイス教って図式が頭に入ってない。
『聖女』って言う単体でものを考えていて、それをラーヴェ王国のために利用できるのでは?ってことなんだと思うんだよ。
ただ、ウイス教の『聖女』って、国の役に立つ何かがあるかと言えば、そうではない。
例えば魔獣の脅威を抑える結界が張れるとか、怪我や病気を癒す治癒の力があるとか、瘴気を浄化する力があるとか、そんな特殊能力はないのだ。
ウイス教の『聖女』は『女神の声が聴こえる』ってことだけなんだよ。つまり、神道だと審神者のような役割なんだよね。
武器の付喪神を励起して戦ってもらう方の審神者ではなく、声を聴くだけの審神者な。
これをどうラーヴェ王国の益にできるのかって話よ。
まぁ、この世界の神は偶像的なものじゃなくって、ちゃんと『いる』から、そこを考えると、超常的な危機が迫ってきたときに、聖女を通して女神に助けてもらえるかもと期待するって言うのも、一つの手だ。
だけどさ、よく考えてみてよ。神託ってさぁ、上から下への一方通行っぽくない?
下から上にお願いしますっていうのはできるの? 聖女ができることって、どこからどこまでなのかってことなんだよね。
ラーヴェ王国は宗教が政に口出すなを突き通しているから、聖女を引き入れて余計なものくっついてきたらどうするんだって言う懸念が、宰相閣下筆頭に大臣たちにはある。
そして聖女を王家に入れることなんだけどさ……、どういった立場で迎え入れる訳よ。
オクタヴィア・ギーア嬢は、正体不明、出生もあやふや、ついでに男爵令嬢。これだけで、もうすでに、『王妃』として迎え入れる資格がない。
なら、側妃か寵姫かってことになるわけね。
僕は成人したら王籍を抜け、マルコシアス家の人間になる。王家の外戚という立場も放棄するので、僕に娶らせることはできない。
じゃぁ次期王太子となるイジーの側妃にするのか?
まず側妃を入れる理由は、王妃に子ができない場合と、王妃との間にいる子がいても、一人しかいない場合だ。いわゆる跡継ぎのスペアをいくつか用意しておきたいってことね。
結婚さえしていないイジーに結婚当初から側妃を取らせると言うことは、王妃となる人物の家門に喧嘩を売ることになる。
この場合は、ハント゠エアフォルク公爵家と事を構えるつもりなのか? ってことだ。
今は国の重鎮貴族が一丸となって、他国からの口出しを阻止しようとしている段階なのに、内乱起きるようなことはできんだろう?
そこまで馬鹿はいない。そんな馬鹿ばかりだったら、もうとっくにラーヴェ王国は王朝が変わるか、他国に呑み込まれてるかしている。
つまり僕にもイジーにも、聖女を妃として娶らすことはできないと、国議に出ている貴族はみんな理解しているし、そんなことは阻止したい。
だから王妃様が仰ったのだ。『なら言い出しっぺの国王陛下が側妃として迎え入れればいいじゃん』と……。
国王陛下も、最愛の王妃様からそんなことを言われるとは思わなかったんだろうね。
なんでそうなるんだと騒ぎだした国王陛下に、王妃様筆頭に会議に出ていた貴族全員が、王子二人と聖女を婚姻させられない理由、聖女を王家に取り入れたいなら、王子を使うのではなく自分の身を使えと、滔々と説教をしたらしい。
時々、やらかすんだよなぁ、あのおっさん。
そんなわけで、一応ラーヴェ王国からウイス教国の総本山に、聖女の小間使いとしてうちの王子殿下たちを使おうとは何事だ。どんな了見で王族を使用人扱いしようとした? 納得できない回答だったらただじゃおかねーぞ。という抗議&問答書を送り付けたそうだ。
あちらからの回答が来たら、またご連絡しますと、宰相閣下から返信が届いていた。
安易に王族を聖女の世話役に使おうとすれば、そんなことを王族にさせるんじゃねぇ!って、国から抗議されるのは当たり前のことでしょ。





