04 持ち帰り再検討するそうだ
ピリピリとした不穏な空気の中、またしてもオクタヴィア・ギーア嬢が口を挟んできた
「ど、どうしてそんな酷いことを言うんですか?!」
おめー、空気読めよ。
「どこが酷いのでしょうか?」
「だって……、だって、困ってるのに助けてくれないなんて……」
いかにも自分を助けてくれない人が悪いですって雰囲気を醸し出してくるんだけどさぁ、どこが困ってんだよ。
そもそもおめーは普通に一年間淑女科でやっていけたじゃねーか。いまさら世話役つける意味なんかねーだろ。
「とても矛盾した発言ですね」
「どういうことですか?!」
「僕は君が困っているようには全く見えない」
僕がそう言うと、何を言ってるのかわかりませんって顔をしてくる。
天然ではなく養殖だと思うんだよなぁ。
「三年生の時は、何事もなく過ごせていたじゃないですか。つまり学園生活に支障があったとは思えません」
「オクタヴィア様が聖女に認定されたのは、今年に入ってからです」
ザイラ助祭はいやにオクタヴィア・ギーア嬢の肩を持つなぁ。
「その言い分では、ギーア男爵令嬢が困っていると言うのは、ウイス教の聖女に認定されたからということになりますね」
「そうです! 聖女に認定されて、そうしたらみんなよそよそしくなって」
よそよそしいのは、『女神の神託を聴いた』って吹聴してた頃からでしょ。良くもまぁ息をするように嘘を吐くなぁ。
おい女神、本当にこのお嬢ちゃんを手駒にする気か?
「みんな聖女に選ばれた私のことやっかんでるんです!」
僕はウイス教の方々を見る。
「ギーア男爵令嬢がお困りなのは、同級生との付き合いのようです。僕ら王族が手を出して問題解決をしろと、あなた方は思っているのでしょうか?」
「いえ……」
はっきりしない返事をしたのはザイラ助祭だ。
さっきからザイラ助祭ばかりが何か言って、バウチ司祭とクロメー助祭はなんも言わないなぁ。
どういうことだ?
「先ほども説明しましたが、王立学園には生徒自治会があります。この手の問題を解決するのは自分で行うか、それとも、教師か生徒自治会の力を借りることです。王族である僕らがやることではありません。どうしても聖女が心配だと言うなら、ウイス教から護衛とそれから世話役を派遣してはいかがですか?」
そうなんだよなー。聖女の世話役を学園に通っている生徒や王族にやらせるんじゃなくって、ウイス教の人間にやらせりゃいいんだよなー。
僕の提案にウイス教の方々は戸惑った様子を見せ、オクタヴィア・ギーア嬢は何か焦った表情を見せる。
「あ、あの、でも……」
「トーア学長」
何かを言おうとしたオクタヴィア・ギーア嬢を無視して、僕はトーア学長に声をかける。
「王立学園に通っている生徒が、聖女に嫌がらせをしているとなれば、ウイス教国との問題になります。特例としてウイス教から聖女の護衛と世話役を派遣してもらって、ギーア男爵令嬢についてもらうというのはどうでしょうか?」
「それが一番いいでしょう」
トーア学長はうんうんと何度も頷き、僕の提案に賛同した。
「バウチ司祭、どうでしょうか? 殿下の提案はもっともだと思いませんか?」
そしてバウチ司祭に話を振る。
「正直に言います。私は学園に在学するのであれば、聖女も一生徒と考えております。聖女だからという理由で、ギーア男爵令嬢を特別扱いすることはしません」
「そっ、それは! 聖女に対して失礼ではないですか!」
またしても、口を挟んでくるのはザイラ助祭である。
失礼ねぇ……。
「ザイラ助祭。どこが、失礼なのですか? 聖女を特別扱いしないことが失礼というのでしょうか? では、何のために聖女はこの学園に通い続けるのですか?」
「な、何のためにって……」
んなの一つしか答えはねーだろうがよ。
「僕らがこの王立学園に在学しているのは、学問を学ぶためです。ここはあくまで学びの場所です。学ぶことに、聖女だから、王子殿下だからと言った立場は関係ありません。にもかかわらず、貴方がたは聖女を特別扱いしろ。聖女の世話役を王族である僕らにさせろと言う始末だ。ウイス教は……ラーヴェ王国との開戦をお望みなのでしょうか?」
「か、開戦?! なぜそんな話になるのです!」
「聖女という立場を利用して、王家の人間を小間使い扱いしようとするからですよ」
「小間使いだなんて! そんなこと考えていません!」
「では、どのような意味で、僕らに聖女の世話をしろと言ったのでしょうか?」
聖女を僕らの前に歩かせ、ウイス教の権威をラーヴェ王国で強めたかったんだろう? 幸い王子が二人もいて、二人共は無理だとしても、どちらか一人が引っ掛かればいいとでも思ったんじゃないか?
「バウチ司祭。貴方はお三人の中で代表という立場ではないのでしょうか? そして聖女の保護者という立場では? 先ほどから発言しているのはザイラ助祭で、肝心な話について、貴方の口から発言されていない。どういう事でしょうか?」
「大変、失礼をいたしました」
ここでようやくバウチ司祭が動いた。
僕が何か発言するたびに、バウチ司祭は想定外のことが起きてるって感じだったけれど、何もわからず流されているだけというのではなく、何か考え込んでいる様子ではあったんだよね。
「護衛と世話役の派遣につきましては、本部に連絡させてください。殿下方に聖女のサポートをお願いするように言ってきたのも上からの指示でしたので、この件は私どもでは判断できかねることです」
上からの指示ですって、まるでお役所仕事のようだな。
おめーら宗教団体じゃないんかい。
 






