03 王族に聖女の世話係をさせるなんて、ちゃんちゃらおかしいわ
シュタム会の役員だから聖女の世話係やれってことだったんだ。
あほかー! もう言いたいことはもっとあるけれど、二つ目の疑問の方が先だな。
「二つ目の疑問に行かせてもらいます。ギーア男爵令嬢は女生徒です。その世話役をなぜ同じ淑女科の生徒にサポートを頼まないのか。です」
質問の意図がわからないと言った顔をされてしまった。
「世話役なんですよね? たとえば学園生活内で困ったことが起きたなら、相談するのは異性ではなく同性なんじゃないんですか? そっちの方が相談しやすいでしょう?」
ほんと、なんで僕らに世話をさせんだよ。
もともとトーア学長は、聖女の世話係云々に関して、僕とイジーに関わらせる気はなかったと思う。だって最初はそんな様子だったし。
さっきのシュタム会の話を聞いて、ますますその思いを強くしてくれたのか、もう何も言わない、むしろ言う気がない、って感じ。
違ったのは、ウイス教の聖職者の皆様だった。特に助祭の方。
特に聖女に思い入れが強そうな、ザイラ助祭が不満そうにこぼしたのだ。
「王子殿下なのですから……」
その言葉の意味をちゃんと理解してるか、わからねーよな。
「王子だから聖女の世話役をしろですか? 意味が分からないですね」
「いや、でも」
「僕、生まれてこの方、世話をされることはあっても、世話をしたことなんて一度もないんですよ」
王族にさせることでもねーよな。聖女の世話なんてさ。
「そ、そういう意味では……。ただ、オクタヴィア様は、聖女なのですよ! 国で一番偉い方が世話をしてしかるべきではないですか?!」
「なら国王陛下に頼みましょう」
ラーヴェ王国で一番偉いのは僕らじゃなくって国王陛下だっつーの。
「国王陛下につききりで世話をさせるとなると、周囲は黙っていないと思いますけれどねぇ。他国はともかく、我がラーヴェ王国は国務に宗教が絡むことを許可していません。それに国務に携わっている貴族の承認も必要となりますから、国務会議……国議での議題として上がるでしょうね」
そこまで話が飛躍するのかって感じだけど、おめーらが『国で一番偉い』なんて言葉を引っ張り出すからだ。
「なんせウイス教の聖女と認定された女子の世話を、国でやれって言ってきてるんですからねぇ」
なぜ王家が聖女の面倒を見なければいけないのか。しかも世話役を国のトップである国王陛下にさせるとは何事かと、大臣たちは騒ぐだろう。とくに宰相閣下が怒髪天を衝くぞ。
「ついでになぜ国王陛下なのかという声も出てくると思います。聖女は女性なのだから、国王陛下ではなく王妃殿下に頼むべきではないかともね。もし国王陛下に聖女の世話をさせたとして、国務に支障をきたした場合、その責任はウイス教でとっていただくと言うことでいいでしょうか?」
「わ、我々はそこまで言っておりません! 国王陛下並びに王妃殿下にそのようなことをしていただきたいなんて、そんなこと一言も言ってないじゃないですか!」
「国で一番偉い方が世話をしてしかるべきと言ったのは?」
「そ、そういう意味ではないです。言い間違いです。この学園で、という意味で」
「でしたらトーア学長でしょう?」
「え?」
「王立学園で一番偉い責任者、上学部と下学部に分かれていますが、二人います。ギーア男爵令嬢は上学部の生徒ですから、上学部の学長であるトーア学長にやっていただく案件ですね」
「無理です」
トーア学長ははっきりと言い切った。
「学長である私が、聖女と言えども一生徒について回ると言うのですか? 私も学長としての仕事があるのです。それに、それは一生徒を依怙贔屓しているとも受け取られる行いでしょう。生徒のことは生徒自治をしているシュタム会でやっていただきます。相手が聖女であっても、例外は作れません」
ここでちゃんとシュタム会を出してくれたので安心する。
次期国王になるのだから、国民の願いを叶えるべきとか言い出したら、どうしてくれようかと思ったけど、そんなあほなことを言い出す人じゃなくって良かったわー。
「そもそもこの話は、前アインホルン学長が、貴方がたと個人的に話していたことではないのですか? 学園としては『聖女だから』という依怙贔屓は一切しません。今のこの王立学園がそういったことを一切排除したいきさつを、知らなかったと言わないでください」
トーア学長の発言に、助祭二人が戸惑った様子を見せる。
あ、これ知らんやつだ。
「知らないと言うのなら、申し訳ないのですが、ラーヴェ王国の王立学園の校歴を調べてください。私はこれ以上この件に関しては何も言う気はありません。ただ、王立学園で学ぶ生徒は、すべからく平等に学びあれとされています。生徒に『特別』はないんです。『聖女』だからと言って特別扱いはしません」
目を吊り上げてトーア学長はウイス教の方々を見つめる。
「平等ならば」
そう言って僕とイジーを見るザイラ助祭。
おめーはよー、なんでそんなに僕らに聖女の面倒を見させてーんだよ。
「王族の僕らに膝を地につけろと?」
「そうは言ってません! さっきは平等だと言ったではないですか!」
「それは学園関係者が、学園に通う生徒に対してのことでしょう? 僕とイジーはこの学園ではなるべく他の生徒と同じように過ごさせてもらっています」
とはいっても、やっぱり王族だから、全部が全部他の生徒と同じというわけにはいかない。防犯の件もあるし、何より僕はイジーを国王にしたいと画策している外部の人間から、命を狙われている立場だ。
自前の暗部組織を学園都市に引き入れて、あれこれやらせてもらっている。
「でもそれは権力や立場をかさに着て、力なきものに理不尽さを強要させないための自重です。立場をかさに着て何かを強要してくる相手には、それ相応の対応をしないといけませんよね」
上からものを言ってしまったけれど、相手がその気なんだから仕方あるめー。
教会は何がなんでも聖女を使って、ラーヴェ王国の王家の人間と密接な関係を作りたいのだろう。
狙いはやっぱり、ウイス教をラーヴェ王国の国教にさせたいってところだろうな。
 






