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ざまぁフラグが立ってる王子様に転生した  作者:
王子様の学園生活(三年生)

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115 三年生の終わりに女神の憂さ晴らし

 ヒルトの勝ちを見届けてから、僕は観客席から立ち上がり、その場を後にする。

「アル」

 ネーベルが呼び止めてくるけれど、ごめん。ちょっと急ぐ。

 王立学園で行われる剣術大会は、表彰式というものはしない。けれど、優勝者は何らかのパフォーマンスをすることになってるから、ヒルトは優勝して声援に応えるために会場にとどまっている。

 僕が気にしてるのはベーム先輩だ。

 僕の様子から何かを悟ったのか、ネーベルも黙ってついてきた。

 僕が向かったのは出場者の控室の近く。決勝戦はヒルトとベーム先輩だけだから、他の選手はもういない。そしてヒルトは女子だから女子出場者の控室を使用していて、それは男子出場者の控室とは真逆の方向にある。

 どこか、隠れられる場所ないかな?


「アルベルト様」


 声をかけてきたのはシュティレだった。

 おやまぁ、王立学園の制服着ちゃって。シュティレって、確かシルトとランツェとそう歳が変わらないはず。でも童顔だから生徒といわれても違和感ないね。

「こちらに」

 言われて後をついていくと、男子出場者の控室の出入り口を伺える死角になっている場所だ。

 そこに息をひそめて隠れると、制服に着替えたベーム先輩が、慌てた様子で控室から出てきた。

 荒々しく扉を開けて、バタバタと荒々しい足音を立てながら、どこかに向かおうとしているベーム先輩の後を気づかれないようにつけていく。

 尾行って結構難しい。見失った。

 剣術大会は学園都市のイベントだけど、興味のない人は見に行かないし、それでもほとんどは剣術大会が行われれる野外コロッセオ会場へ集中してるから、まだ外は人が少ない方だ。

「アル」

 ネーベルに腕を引かれ指さしてる方を見ると、ベーム先輩が女生徒の腕を引っ張って早歩きで人気のない方に向かってる。

 慌ててベーム先輩たちを追いかけた。


「もー、痛いですって! そんな強く掴まないでくださいよぉ」

「どういうことだ!!」

 聞こえてきたのはベーム先輩の怒声。

「どうって、なんのことですかぁ?」

 その怒声に全く動じていない、どこか甘ったるい媚びたような声音。

「お前がああすれば、元通りになるって言ったんじゃないか! みんながいる前で、ああ言えば、ルイーザも素直になって俺のことを受け入れてくれるって!!」

「えぇ~? そんなこと言ってませんよぉ」

「なんだと?!」

「一般論として、女性は好きな人に素直になれないところがあるって、言ったんですよぉ。あと、頼りがいのある人が好きだから、強引なところにドキドキするかもしれませんね、って言ったんですぅ」

「そんなっ!」

「元はと言えば、婚約者を大切にしなかった、ウルリッヒ様が悪いんじゃないですかぁ」

 それはそう。

 だけどやっぱり、ベーム先輩のあれには裏があった。

 だって、去年話したときは、もう完全に諦めきってる感じだった。

 ベーム先輩自身、これ以上余計なことをしたら、ルイーザ先輩に嫌われるどころの話じゃないってわかってるはずなんだよね。

 なのに、あんなことを大勢がいるところで宣言したと言うことは、絶対何かあると思ったんだよ。

 よもや、オクタヴィア・ギーア嬢に唆されてるとはね。

 っていうか、僕の前とじゃ全然態度が違うじゃないか。

「脈がなかったってことで、諦めたらどうですかぁ?」

「元はと言えばお前のせいだろう!」

「知りませんよ。私はこういう方法もありますよって言っただけですしぃ、実行したのはウルリッヒ様の意思ですよねぇ? 私やれなんて言ってませんよぉ」

「お前!」

「こわーい! 殴られたくないから、帰りますね。もう近寄らないでくださいねー」

 遠ざかる足音。

 オクタヴィア・ギーア嬢は僕らとは逆の方向へ立ち去ったようだ。

 んー、ベーム先輩はどうなんだろう? こっそりのぞいてみると、こちらに背を向けて立ちすくんでいるベーム先輩。

 顔は見えないけれど……、まぁいいか。

 傍にいるネーベルに合図をしてそこから立ち去ることにした。

 薄情? 可哀想だから声をかけてやれ? いやいや、そこまで僕がする義務なんかないよ。僕らはただの一後輩だからね?


「オクタヴィア・ギーアって、何者なんだよ」


 野外コロッセオに引き返す途中で、ネーベルがこぼす。

「女神の……、なんだろう? 女神と繋がってるのは間違いないと思うんだよね」

「何がしたいんだよ。あんなの、まるで」

 そう言ってネーベルは口を閉ざす。まぁ、その先は言えないよねぇ。

 人を人と思ってない。傀儡のように操ってさ。

「遊びたかったのかな?」

「遊び?」

「人形遊びの延長なのか、それとも……自分が描いたシナリオを実現させたかったのか」

 女神が騒ぎを起こすのには、いつだって裏に隠された目的があるんだよ。

 国王陛下のとんちきな行動とか、母上が国王陛下に盲目になったこと、ヘレーネ嬢の実母の国王陛下に対しての感情が手のひらクルクルだったこと。

 オティーリエに前世の記憶を持たせたこと。アンジェリカへの囁き。

 今回はそれのどれもと趣向が違うように思えるのだ。

 神様特有の横暴さなんだけど、今回はその内容が俗物っぽい。

 だからこれは、特に何か重要な意味があるのではなく、暇つぶしか面白いシナリオを考えたからやってみたって感じ。

 もしくは、自分のシナリオ通りに事が進まない苛立ちで、ベーム先輩とルイーザ先輩を巻き込んだ。

 たとえばさっきのあのベーム先輩の宣誓に、ルイーザ先輩が感激して、今までのことを許す。ベーム先輩の愛を信じるってなったなら……。

 そりゃもう、周囲は大騒ぎだろうな。

 そのうち歌劇か小説になって、大衆に広まるだろう。

 そしてようやく自分の思い通りになったと、女神は上機嫌になるだろうか?

 でも、ルイーザ先輩は心を動かさなかった。

 女神はまたしても自分のシナリオ通りにいかなかったと、癇癪を起こすのだろうか?


 あー、ヤダヤダ。

 せっかくヒルトが三年続けて優勝したのに、こんな雑事に気を取られるなんてさ。

 さぁ、この後は去年と同じ、例のカフェ店を貸し切ってのヒルトの優勝とテオとイジーの健闘会だ。




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