108 君の好きなところは全部
肝心な時にイヴを助けられなかった。それがすごく悔しいのに、当のイヴは僕の助けなんかなくても平気って感じで……。
あぁ、そうか、それも僕は悔しいんだ。
イヴが誰かに助けを求める状況になったとき、僕はその誰かでありたい。
真っ先に僕に助けを求めてほしいんだ。
「僕、我儘だぁ」
「え?! いきなり、なに?!」
「だってまだイヴは僕に対しての気持ちが定まってないのに、僕はイヴに頼ってもらえなかったって不満に思っちゃったんだもん」
「え?! ちょっ、まっ、待ってっ! な、なんてこと言い出すのよ!」
顔を真っ赤にしてイヴが慌てる。
「は、恥ずかしくないの?! お、男の人って、そういうことは隠したがるもんじゃないの?!」
「他の男がどうかは知らないよ。僕は自分の気持ちをイヴに伝えても恥ずかしくない。恥ずかしがって何も言わないくせに、自分の気持ちを察しろなんて、そんなの傲慢だし横着してるだけじゃないか。僕、好きな子にそんなことしたくない。そんなのイヴにやりたくないもん」
「なっ! だっ、だから、そーいうとこよ!」
なんでいきなり怒っちゃうの? えー? 僕の言い方悪かった?
「ごめん。気に障ること言っちゃった?」
慌てて謝ったら、ますますイヴは顔を赤くさせて、何か言おうと口を開こうとした。そこで僕と目が合うとぷいっと視線を逸らされてしまった。
えー? この反応はどう受け取ったらいいの?
「ご、ごめんね? えっと、嫌だった?」
「……違う。嫌とか、そんなんじゃない」
あ、そうなのか。怒らせたってわけじゃないのかな? なら、気にしなくても平気?
僕が考えこんでいると、そわそわした様子でイヴが訊いてきた。
「アルベルト様は、私のどこが好きなの?」
「全部」
「即答……。そうじゃなくって」
だって全部好きだもん。
「んじゃまずは顔。可愛い」
「アンジェリカの方が美人よ」
イヴはふくれっ面でそう零す。もしかして、イヴにとってはそれがコンプレックス?
「あのねぇイヴ。容姿のことを言ったら、オティーリエが最高峰だよ? でも僕オティーリエを見てもドキドキしない。美人だなぁ奇麗だなぁとは思うけれど、好きだって気持ちにはならない。イヴの方が魅力的に見えるし、ドキドキするなぁ。琥珀色の瞳がキラキラして奇麗だよ」
褒めたのに、イヴは眉間にしわを寄せてしまう。
えー、どうして褒めてるのにそんな顔するの? お願いだから笑ってよ。
「次に性格。自分の意思がある。はっきりものを言うけれど、でも相手のことを考えてないわけじゃない。ちゃんと配慮ができてる。言っちゃいけないことをわかってる」
「そんなことない。アンジェリカには酷いこといっぱい言ってる」
まー、以前のブルーメ嬢はねぇ? 女神に翻弄されていたわけだし、だけどあの状態のブルーメ嬢にガンガン言えるのは、異母妹のイヴだからこそなんだよ。
「あの時のブルーメ嬢は、んーどう言ったらいいのかなー。良くなかった、だね。周囲の人がブルーメ嬢に何も言わなかったのは、気遣いでも思いやりでもなくって、所詮は他人事だったからだ。恥かくのはブルーメ嬢で自分じゃない。だから誰も何も指摘しないで、ブルーメ嬢の好きにさせてた。もし、一人でもブルーメ嬢の心に添う人がいたなら、イヴのように、『何をやってるんだ!』って叱りつけてるよ」
「私はそんなつもりじゃなかったわ。アンジェリカのこと嫌いだったもの。あの人たちに言われっぱなしで、見ていてイライラした」
あの人たちって両親のことだよね。ブルーメ嬢よりもイヴの方が、両親に対して嫌悪感が強いのかもしれない。
「酷いこと言われてるのに言い返しもしない。馬鹿正直に言われた通りにして、気持ち悪いって思ってた」
過去形じゃないか。今はそう思ってないってことだよね。
「イヴはそう思っていても、ブルーメ嬢はそんなイヴに助けられて感謝してるよ。僕はね、たとえイヴがブルーメ嬢を羨んでいても、嫉妬心を持っていても、それはそれでバイタリティに溢れて、やっぱりドキドキしちゃうなぁ。そんなイヴが好きだ」
「だっ、だから! そーいう……、もういいわ」
「え? もういいの? 僕はもっと言いたい。言い足りない」
「もういいって言ってるんだから言わないで!」
「あ、はい」
怒ってるイヴも可愛いって言ったら、もっと怒られそう。黙ってよう。あ、耳赤くなってる。恥ずかしいのか? 恥ずかしいんだ? わ~、きゅんっとしてしまった。
可愛いー!! も~どこもかしこも可愛いー!!
「……性格、きついし」
うん? なんだ?
「可愛げなんか、ないし」
イヴのこと? いやいや、そんなの個人差だから。どこにそれを感じるかは、個人で違うもんだよ?
「アンジェリカみたいに素直でもいい子ちゃんでもない」
あははははっ! それを言ったら僕だっていい子ちゃんじゃないよ!!
九年前、王宮を大騒ぎさせて、大量粛正させた張本人だよ?
頭足りねぇはずのガキが、いきなりクッソ生意気なこと言いだしやがったと思ったら、王宮内を引っ掻き回しやがった。
国王陛下に対して、よくまぁ偉そうな態度で、生意気なこと言いやがる。あんな態度そんなの許されないし、それこそ不敬だ。処刑されて当然。
なーんて思われて、めちゃくちゃ心象良くなかったからね。
でも僕やおじい様に面と向かってなんも言えない奴らに、どう思われようともかまわないよ。だって結局はそう思うだけで、何にもできない奴らだったもん。
だからイヴ、素直じゃなくてもいい子じゃなくてもいいんだよ。
僕は、そのままのイヴが好きだ。