103 おじい様とおばあ様が語る昔話
おじい様とおばあ様の様子を見るに、母上目当てで魔獣狩りになった人は、きっと少なくないはずだ。
ふぁ~! なんだかドキドキする~。え~、ちょっとさぁ、クリーガー父様、いつ頃から母上のこと好きだったんだろう?! あとテオの叔父上! 母上のこと今でも好きなのかな?! おじい様からもおばあ様との馴れ初め聞きたーい!!
そうだ、来年! 来年の夏! またフルフトバールに行きたいから、その時に話を聞けるなら聞きたい!
僕の好きなイヴの話とか、そういうのさぁ、したいよ~!
この機会に、僕はおじい様とおばあ様に、来年の夏の長期休暇に、フルフトバールにイジーを連れていきたいと言ったら、少し考えこんでから、受け入れてもらえるように取り計らってみようと言ってもらえた。
おじい様が言ったら国王陛下だって断れないはずだよ。だって散々、うちに喧嘩売ってるようなこと仕出かしてるんだ。王子二人がフルフトバールに避暑に行くぐらいよかろう?
えへへへ。楽しみだなぁ。テオも来るって言ってるし。みんなで魔獣狩りしたいねぇ。
おじい様とおばあ様と話している最中、どこからか『リューゲン殿下ぁ』と、甘ったるい猫なで声で呼ばれた気がして周囲を見回したんだけど、周囲にいた学園祭の来場者や生徒は、誰も僕らの方を見ていなかった。
気のせい?
傍にいたおじい様とおばあ様は、僕の名を呼んだ声なんか、聞こえていませんって様子だ。
「最近アルベルトの周囲には煩わしいことが起きているようだな?」
おじい様の言葉に、煩わしいって何だろうって考える。
アインホルン公子はもう始末がついてるしなぁ。
ソーニョは怪しいってだけで、直接僕に何かを仕掛けてきているわけではない。
思い当たることと言ったら……。
「ベッシュッツァー侯爵令嬢に訊いたんですが、ギーア男爵家というのは『娘』を忌避するそうですね」
「ギーア男爵家とギーア゠フォルトシュリット伯爵家との話はな、外様から見ても大変な騒ぎだったのだよ。特に婚約者の件はな」
「婚約者……。男爵家の娘が、本家である伯爵家の娘の婚約者を横取りしたとかいう?」
僕の問いかけにおじい様が頷く。
「三回だ」
なにが? と訊いてはいけないところだな。三回……、まさか。
「三回も本家のご令嬢から婚約者をぶんどったんですか? 一回だけでも大変なのに三回も?!」
「正確には、三回、男爵令嬢が伯爵令嬢の婚約者に近づいて、騒ぎを起こした。になるわね」
母上のようにほんわりとした口調なのに、おばあ様からの威圧が恐ろしいです。
「最初の相手はギーア゠フォルトシュリット伯爵家との付き合いがある、近隣領の伯爵家の子息だったそうだ。伯爵子息はギーア゠フォルトシュリット伯爵令嬢とギーア男爵令嬢とは、いわゆる幼馴染みと言った間柄でな、幼少期から仲良くしていたらしい」
ただ、近隣領の伯爵はギーア゠フォルトシュリット伯爵と付き合いはしていたが、分家であるギーア男爵との付き合いはなかったそうだ。
ギーア゠フォルトシュリット伯爵令嬢とギーア男爵令嬢が、同じ歳の同性であったのが発端みたいだな。
本家と分家だし、考えられる流れとしては、家同士の話として、ゆくゆくは男爵令嬢を本家ご令嬢のおつきの侍女にさせる算段だったのかな? だから伯爵令嬢のそばに男爵令嬢を置いていた。
問題はその男爵令嬢には、分別が付いてなかったってことじゃないか?
伯爵家と男爵家。本家分家の間柄や地位の違いを深く考えず。男爵令嬢は伯爵令嬢のことを家同士の付き合いのある、同じ歳の親戚って感覚だった。
「最初の一回目はね、幼少期から三人で遊んでいたという状況だったし、婚約者と決められていたとしても認識が薄かったのもあったのよ。一緒に過ごすうちに、婚約者ではなくもう一人の令嬢を恋い慕ってしまったそうよ」
でもなぁ、ヘレーネ嬢の話によると、男爵令嬢は本家の伯爵令嬢に対して無礼を働いていたって話だったし、おそらく自分を意識させるように動いていた可能性が高い。
「その様子ですと、令息の方が男爵令嬢と添い遂げたいと思うようになって、婚約に物申すって言いだしたんですか?」
「大まかに言えばそうだな。結婚をするのは親ではないが、家の面子というものがある。コケにされたとギーア゠フォルトシュリット伯爵は思っただろうし、相手方も婚約を続けたいと言いはしたが、息子の教育を失敗してるところと縁をつなぐ価値はないと断った」
「本家の伯爵家は分家の男爵家に何のお咎めもしなかったんですか?」
三回あったってことは、付き合いが続いていたってことだよな?
「男爵令嬢の弁によるとね、令息の一方的な好意で自分はそんな気持ちはないと言ったそうよ。本家のお嬢様の婚約者だからお相手してただけですってね」
うっわぁ~! 男爵令嬢の、本家の伯爵令嬢に対しての執着ぅ~!!
「この一回目の時に、男爵令嬢に何のお咎めもなかったのは、本家の伯爵令嬢が男爵令嬢を庇ったからなのよ」
ふぁぁぁぁ~! なんでー?! も、もしや伯爵令嬢Mだったの? って思っちゃうのは早合点かな?
「仲が、良かったんですね?」
「えぇ、この時はね」
含みのある言い方だなぁ。
「それでも伯爵家は警戒していてね。男爵家との付き合いは最小限にさせてもらうと宣言したのよ」
まぁ、それはねぇ。男爵家の方が、そんな意図はなかったと言い訳したとしても、本家から見れば、縁を繋げようとした婚約者の伯爵家も分家の男爵家も同罪で、ギーア゠フォルトシュリット伯爵家をコケにしたって思うもんだよね。
それでもって、それを言われた分家のギーア男爵家は、本家からイエローカードを出された状態だって、わかってたはず。
最終的にギーア男爵家は家に娘を置かない選択をしているんだから、たぶん最初の時だって娘に何かしらの注意はしていたはずなんだよなぁ。
なのに二回目が起きた。なんで二回目が起きたんだ?